表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/161

蹂躙・アイリスの包囲戦(アイリス・ポケット)編・発動

今年最初の投稿になります。今年も本作を宜しくお願い致します。

大陸歴438年深緑の月七日・ラステンブルク伯国軍ヴァイスブルク派遣軍野営地南外哨拠点周辺・クーリア戦闘団


A作戦集団がロジナ候国軍の野営地に対する欺瞞攻勢が実施されていた頃、主力部隊であるB作戦集団は作戦目標であるラステンブルク伯国軍猟兵部隊野営地に対する包囲網を概成させいた。

包囲網の概成に続いて野営地の四周に設けられた4ヵ所の外哨拠点に対する襲撃を実施する4個戦闘団が標的とする各外哨戒陣地の周辺に展開し、その内の1つであるクーリア戦闘団も襲撃目標である南外哨拠点の周辺に展開していた。

暗い木々の合間には戦闘団に所属するボーンウォーリアー、ボーンマジシャン、ボーンビショップが散開しており、クーリアは戦闘団に所属する女戦士達と共にその光景を見詰めていた。

「……正に壮観だな」

クーリアは眼前に展開する異形の軍勢の姿に感慨の呟きをもらし、その傍らに控える歴戦の女戦士、アンとメアリーも大きく頷きながら口を開いた。

「……壮観ですが更に恐ろしいのはこの軍勢がほんの一部に過ぎない事です」

「……我々と同規模の部隊が他に3部隊存在する上にアイリス様が自ら率いる部隊が敵を完全に包囲している……女戦士として強大な敵と戦うのは本懐ですが、正直に申しますとアイリス様率いる軍勢の攻撃の矢面に立つのは出来れば御免したいですね」

アンとメアリーは眼前に展開するアンデッドの軍勢に加えて他の戦闘団や野営地を包囲する部隊にまで思いを馳せて感嘆の声をあげ、クーリアが頷く事でその意見に同意しているとアイリスからの魔通信が到達した。

「こちらアイリス、只今より各戦闘団に通達を送るわ」

「……アイリス様の御言葉だ、総員傾聴」

アイリスの言葉を受けたクーリアが威儀を正しながら告げると散開した女戦士達も即座にそれに倣い、それによって周囲に静寂が張り詰める中アイリスの言葉が響き始めた。

「……現在A作戦集団が優勢なるロジナ候国軍に対する欺瞞攻勢を実施中よ、今の所進捗状況は順調と言えるけど戦力的には敵の方が優勢よ、A作戦集団の奮闘を無駄にしない為に必要な物は単純にして明解、可及的速やかなラステンブルク猟兵部隊の殲滅よ、各戦闘団の奮戦を期待するわ、惨劇パーティーを始めなさい」

「……クーリア戦闘団、了解しました、我等の槍働き御覧下さいませ」

「……カッツバッハ戦闘団、了解です。全力を賭して任務を完遂致します」

「……ミランダ戦闘団、了解しました。速やかに敵拠点を排除致します」

「……ネル戦闘団、了解、我等の戦働いくさばたらき、是非御覧下さいませ」

アイリスの激励の言葉を受けたクーリアが即座に返信したのに続いて残る各戦闘団の指揮官達からも返信が送られ、全ての戦闘団の返信が終了して数拍の間を置いた後にアイリスから命令が下された。

「……各戦闘団、攻撃を開始しなさい」

「……アイリス様より攻撃命令が下された、これより攻撃を開始する」

アイリスの攻撃命令を受けたクーリアは厳かな口調で攻撃開始を命じ、周囲に散開した女戦士達が頷いたのを確認した後に物音を立てない様に留意しながら標的である南外哨拠点を視認出来る場所へと移動して外哨拠点の動向を監視しているヘレンとペギーに対して小声で語りかけた。

「……連中の状況は?」

「……つい先程指揮官らしき者が出てきまて警戒を指揮している者と何事か会話し、それが終わって暫くした後に新たに数名が警戒に加わりました。恐らくロジナの連中からA作戦集団の攻撃の模様を伝えられた野営地より警戒強化が命じられたと思われます」

暗視望遠魔法を使用して外哨拠点の様子を確認していたヘレンは監視を続行しながらクーリアの問いかけに対して返答し、クーリアが頷いているとヘレンの傍らで同じ様に外哨拠点を監視していたペギーが口を開く。

「……警戒員は増強されましたが厳戒態勢と言う程ではありません、三直交代制から二直交代制に警備強化をした程度と推測されます、警戒態勢も強化されてはいますが厳重とまでは言い切れません」

ヘレンとペギーの報告は警戒態勢が強化されているものの付け入る隙は十分に存ると言う事を意味し、それを確認したクーリアは頷きながらゴリアテの所で待機しているルイーズとリリーに向けて命令を下した。

「……ゴリアテ3台を突入させろ」

クーリアの命令を受けたルイーズとリリーは頷いた後に停車している5台のゴリアテの内3台に起動用の魔力を充填し、魔力が充填された3台のゴリアテは微かな軋み音をあげながらゆっくりと動き始めた。

ゴリアテの発進を確認したクーリアは視線を木々の合間から覗く外哨拠点に移しながらボーンマジシャン小隊とボーンビショップ小隊及び攻撃魔法を使用可能な女戦士達に対して射撃準備を命じ、クーリアの命を受けたボーンマジシャン、ボーンビショップ、攻撃魔法を使用可能な女戦士、ルイーズ、リリー、ヘレン、ペギーが攻撃魔法の射撃態勢を整えた。

攻撃態勢を整えた一同が木々の合間で待機する中発進した3台のゴリアテは粛々と外哨拠点に向けて前進を続け、ジリジリとする様な緊迫した時が流れた後に射撃態勢を整えつつ暗視望遠魔法での監視を続行していたヘレンとペギーが口を開いた。

「……目標に新たな動きが生じました。接近中のゴリアテに気付いた様です」

「……テントから猟兵達が出て来て木柵に取り付いています」

「……漸く気付いたか、だが、遅過ぎだな」

ヘレンとペギーの報告を受けたクーリアは接近中のゴリアテと外哨拠点の距離を確認した後に淡々とした口調で呟き、その呟きを合図とした様にゴリアテは猛然と加速して外哨拠点に向けて突進を始めた。

ゴリアテを発見して戸惑いながら配置につきかけていた猟兵達は突然加速を始めたゴリアテに対して慌てふためき迎撃が遅れてしまい、その結果3台のゴリアテは迎撃を受ける事無く外哨拠点に到達して爆裂魔法を発動させた。

発動された爆裂魔法によって生じた3つの火柱と爆発によって突入箇所付近の簡易的な木柵が配置についていた猟兵ごと吹き飛ばされ、クーリアはその光景を見ながら号令を発した。

「攻撃開始!!」

クーリアの号令が響くと同時にヘレンとペギーが炎の槍を放ち、それに続いてルイーズとリリーやボーンマジシャン小隊、ボーンビショップ小隊が矢継ぎ早に攻撃魔法を放ち始めた。

発射された多数の攻撃魔法はゴリアテの突入と炸裂に混乱する外哨拠点の其処彼処に降り注いで炸裂し、ゴリアテの突入によって生じた混乱はその攻撃によって更に拡大させられてしまう。

猟兵達は降り注ぐ攻撃魔法の雨の中を右往左往してしまい、クーリアはその光景に指揮官としての抑圧された興奮を覚えながらボーンウォーリアー大隊に突撃を命じた。

ボーンウォーリアー大隊は無数の爆煙に覆われた外哨戒拠点に向けて前進を始め、その進撃に対する迎撃は皆無であった。


アイリス戦闘団


攻撃開始命令の発動から約30分後、彼我の状況が記された地図の魔画像を見詰めるアイリスの下に各戦闘団からの戦況報告がもたらされた。

「こちらカッツバッハ戦闘団、北外哨拠点の制圧に成功しました、敵の抵抗は微弱」

「……ミランダ戦闘団、東外哨拠点の制圧に制圧しました。抵抗は極めて弱く損害は僅少です」

「こちらクーリア戦闘団、南外哨拠点の制圧終了しました。敵の抵抗は微弱、目立った損害は出ていません」

「……こちらネル戦闘団、西外哨拠点の制圧に制圧、損害は殆どありません」

各戦闘団からの報告が届くと同時に地図に記されていた各外哨拠点を示すマークが砕け散り、それを確認したアイリスは満足げに頷いた後に各戦闘団に指示を送った。

「……各戦闘団に通達、各戦闘団は前進し野営地に対する襲撃を実施しなさい、襲撃開始後、ブラッディスケアクロウによるミステル投下が実施されるわ、各戦闘団は当初は射撃戦を行い、ブラッディスケアクロウの攻撃後に本格攻撃を行いなさい」

「……カッツバッハ戦闘団、了解しました、前進を続行します」

「……ミランダ戦闘団、了解しました。敵野営地に向け前進します」

「……クーリア戦闘団、了解、これより敵野営地に向けて前進を開始します」

「……ネル戦闘団、了解です。直ちに前進を開始します」

指示を受けた各戦闘団からは即座に了解と前進開始を告げる返信が送られると同時に地図に記された各戦闘団の青い矢印が野営地に向けて前進を始め、アイリスはそれを確認した後に傍らで戦局の推移を見詰めているミリアリアに声をかけた。

「……今の所順調みたいね」

「……ああ、そうだな」

アイリスの言葉を受けたミリアリアは頷きながら相槌を打ち、その後に視線を周囲に向けた。

周囲の木々の合間には駆逐大隊のブラッディマンティスと分裂した吸血球獣が散開して包囲網の一角を形成しており、ミリアリアはそれを確認した後に改めて地図の魔画像に視線を向けた。

魔画像には野営地に向けて順調に進撃を続ける各戦闘の青い矢印が記されており、それを見詰めるミリアリアの脳裏につい1ヶ月前の自分達の苦境が甦った。

(……ほんの1ヶ月前、私達は絶望の中でもがき苦しんでいた。故国を喪い、不確かな再起にすがる敗残兵として森をさ迷い歩くだけだった)

ミリアリアは脳裏に浮かぶ逃走中の我が身の姿とその当時には夢想すら出来なかった現在の状況の間に存在する著しいギャップにある種の感慨を抱きながら魔画像に記されている戦況の推移を見詰め、その感慨を感じ取ったアイリスは穏やかな表情でミリアリアを見詰めながら口を開いた。

「……そう言えば今日で1ヶ月になるのね」

「……ああ」

アイリスに声をかけられたミリアリアは感慨を噛み締めながら頷き、アイリスはそんなミリアリアを愛しげに一瞥した後に不敵な笑みを浮かべて言葉を続けた。

「……ならばさっさとケリを着けましょう、国を守り命を散らした戦没者達や今もなお屈辱に苛まれ続けているであろう虜囚達へのせめてもの手向けとして勝利を捧げる為に、ブラッディスケアクロウ、待機しなさい」

アイリスが不敵な笑みと共に呟くと上空に8台の空の荷馬車、ミステルを搭載した円盤携帯のブラッディスケアクロウが姿を現し、ミリアリアはそれを一瞥した後に傍らのアイリスに視線を向けながら口を開く。

「……何時もすまない、アイリスには何時も何時も貰ってばかりだ」

「……気にしないでミリア、ミリアが一緒に居てくれる、それだけでも充分嬉しいから」

ミリアリアの言葉を受けたアイリスは嬉しそうに微笑みながら言葉を返し、それからミリアリアとアイリスは穏やかな表情で頷き合った後に真剣な表情に戻りながら地図の魔画像に視線を向けて戦況の推移を見詰めた。



A作戦集団の欺瞞攻勢が成功した事を確認したアイリスは主力部隊B作戦集団にラステンブルク猟兵部隊野営地に対する攻撃開始を命じ、それを受けた各戦闘団は野営地の四方を護る外哨拠点に対して攻撃を開始した。

各戦闘団は各外哨拠点を鎧袖一触で粉砕し、それを確認したアイリスは戦況の推移を見守りながら更なる攻撃を命じた……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ