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33/40

33.違和感

 



 その日は、空を雨雲が覆い朝からどんよりとした天気だった。

 だからと言って何かが変わる訳でもない。強いて言うならグラウンドで練習出来るのかというのが気掛かりではあった。


 歓喜に湧き、初出場を果たしたインターハイ。初戦の相手は、東京の強豪鳳瞭(ほうりょう)学園(がくえん)だった。

 圧倒的優勝候補相手に0対2と完敗を喫してしまったものの、選手権に向けて良い経験積ませてもらった。


(マジで強かったなぁ)


 そんな事を思い出しながら、今週末から始まる選手権予選に向けて心も体も戦闘モード。高校生活最後の大会となればいつも以上に力が入る。

 特にインターハイ予選で漆谷高校を破った事は自信でもありプレッシャーにも感じていた。

 今までの自分なら、確実に力み過ぎて空回りしているかもしれない。ただ、今年は違う。

 インターハイは流石に無理だったけど、練習試合も含めてほとんど全ての試合に応援に駆けつけてくれた花の存在が、とんでもなく大きい。


 桜まつりの日をキッカケに、花とは病院以外でも会う事が多くなった。

 流石にインターハイ前は無理だったけど、日曜日が完全に休みになったのが大きいのかもしれない。

 花のお父さんやお婆ちゃんの誕生日に呼ばれたり……この辺りは春さんの暴走みたいだけど、断る訳にもいかずに何度かお邪魔をした。


 花と春さんに加え、2人とも話しやすい雰囲気だったから、気まずくはならなかったけど……まぁ嫌な印象は与えていないと思いたい。特にお婆ちゃんは、花曰く小さい頃に両親が遅い時にご飯を作ってくれたり面倒を見てくれた事もあって大好きだそうだ。


 もちろん花のお父さんにだって嫌われたくはない。まあ話をする限り、ダンディな顔立ちなのに大仏のような性格で怒るイメージが湧かないけど……内心何を思われているのかは分からない。

 ただ、今の所辛うじてマイナスな事は花からも春さんからも聞いてないのは嬉しい限りだ。


(さてと……)


 ふと机の上に目を向けると、そこにはラッピングされた大きな袋が置かれていた。

 それは去年の過ちを繰り返さないように、1ヶ月前から用意した誕生日プレゼント。サプライズも兼ねて花には内緒にしている。


 前に一緒に出掛けた時に、


『凄い……大きなテディベア』


 そう言いながら目を輝かせる姿を見てピンと来た。誕生日のプレゼントはこれだと。


 ただただ喜ばせたい。

 そう思う程に、花の存在は俺にとって大きかった。


 症状の事は勿論、サッカーの事。

 なんでも気軽に話せる彼女は心強い味方だった。


 だからこそ、今の俺はやる気に満ち溢れている。漆谷高校にリベンジを許さない自信があった。


 そんな思いを胸に、俺は徐にスマホを手に取るとあるメッセージを送った。

 これもいつしか毎日交わすようになった朝の挨拶。


【おはよう】


 それが画面に表示されるたのを確認すると、俺は机の上にスマホを置いた。そして静かに呟く。


「じゃあ今日も……頑張りますか」



 ◇



 こうしていつもと変わらない1日が始まり、何事もなく終わりを告げるものだと思っていた。

 学校に行って、授業を受けて、海斗や岡部達と話をする。


 そんな中、いつものメンバーで昼ご飯を食べている時……ふと思い出した。


 スマホに目を向けると何の通知もない。アプリを開くと既読文字は付いていた。ただ、メッセージの返事はない。

 いつもなら必ず返事をくれるのに……なんて思いはしたけど、そこまで深く考えもしなかったし、些細な事だと思っていた。

 でも結局、それから……花から返事が来る事はなかった。


 次の日、またメッセージを送ってみたけど返事はなかった。

 2日経つと、今度は既読すら付かない。


 流石に変だと思った。

 けど試合も近いし、何より常に冷静で完璧な花が何の理由もなく返信しないなんておかしい。何か理由があるに違いない。だったらお節介なんて必要ないんじゃないか? 


 そんな気持ちも相俟って、俺からは電話とかは特にしなかった。

 それにもう少しで土曜日。選手権予選の初戦前日だけど、当然病院へは行く予定だ。

 花は今まで通院日に来なかった事はない。だとしたら、いつもの席に座って居るはず。


(そこでそれとなく話をしよう)


 そう思いながら、俺はスマホの画面を閉じた。



 ◇



 こうして迎えた土曜日。

 花は病院へ来なかった。

 毎週欠かさず見かけた姿は、毎週欠かさず声を掛けた場所に居ない。

 俺が診察を受ける前も受けた後も、ロビーで薬を待っている間も花の姿はなかった。


 少し……嫌な予感がする。


 (でも……花なら大丈夫)


 けど、きっと体調不良か何かだと思うようにした。

 それにこれから始まる選手権予選で活躍出来ないと、今度会った時ガッカリされるかもしれない。


 ―――私の事は良いから、試合に集中して?———


 花ならそう言うと思った。

 だから……俺は気持ちを切り替える。目の前の試合に向かって。



 ◇



 そのお陰かどうかは分からない。けど俺達明進高野は初戦を危なげなく突破し、準々決勝へと駒を進めた。

 ただ、そんな順調の一途を辿るサッカーとは対照的だったのは花の事。


 約1週間、何の進展もない。メッセージに返信はないし、既読もつかない。

 思い切って電話を掛けてみると、


 ≪お掛けになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為掛かりません≫


 そんなアナウンスが永遠と続いていた。

 この時点で不安が過る。


(本当に何かあったんじゃないか? それとも拒否られてる? 何で? 理由が見当たらない)


 思い切って、家に行ってみようかそう考えた事もあった。

 春さんとは何度も話してるし、お父さんやお婆ちゃんとも見知った仲。


 とはいえ、単純にスマホが壊れてる可能性もある。

 家族で旅行に行って、スマホ忘れてるって事も考えられた。


 (……そもそも、家にまで行くなんて……そんな関係なのか?)


 ―――勝手に彼氏面するなよ―――


 そう……思われるのが嫌だった。

 だからこそ、今まで表立ってその感情を見せないようにしていた。


 けど気になる。けど的外れな行動で嫌われたくない。この関係は壊したくない。

 その狭間で俺は悩んで、悩み抜いて……1つの答えを出した。


(今週の土曜日……土曜日まで待とう。それで花が来なかったら……家に行こう)




次話も宜しくお願いします<(_ _)>

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