31.桜舞う
こうして話に夢中になっている内に、ふと時計に目を向けると時刻は丁度お昼頃だった。
それに気付くと、自然とそういう良い匂いに反応してしまうのは人間としての本能なのだろうか。辺りを見渡すと沢山の屋台が並んでいるのが見える。
そう言えば今までの自分は、桜まつりと言ったら屋台ってイメージの方が大きかった気がする。そう考えると少しだけ精神年齢が上がったような気がしたけど、食欲には流石に勝てない。
「花、お腹空かないか?」
「そう言えば……あっ、もうお昼だね」
「花は何食べたい?」
「う~ん、何でも大丈夫!」
「じゃあ適当に買って来ようかな」
「じゃあ私も……」
「いいって。結構並んでるし、花はそこのベンチに座ってて?」
「でも……」
「混んでる所じゃ、座る場所確保も重要だろ?」
「うーん……じゃあお願いします」
正直、ここへ連れて来てくれた事には本当に感謝しか浮かばない。それにこれ位しかお礼が出来ないのが現状だった。
「了解。大盛りで買ってくるから」
「えっ? あっ、もう! 日向ってばぁ……お願いします!」
「任せといて!」
花に座る場所の確保をお願いして、俺は1人屋台へと向かって歩き始める。
それから無事、焼きそばやらたこ焼きやらをゲットした俺は、花の待つベンチに向かっていた。
少し時間は掛かったけど、定番の物は買えたし満足してくれるはずだろう。なんて考えていた時だった、視線の先に見えたのはベンチに座る花の姿と……その目の前に佇みながら話をする女の子の姿。
何か話をしているようで、暫くすると手を振ってその女の子はどこかに行ってしまった。
(もしかして友達?)
よくよく考えれば、この辺りは花の地元と言っても良い。そうなれば花の知り合いも当然居るはず。
(待てよ? 何にも考えてなかったけどそんな所で俺と一緒に居ても良いのか? その変な噂とか……)
その瞬間、変な緊張感が体を過ったけど……
「あっ、お帰り日向。並んでくれてありがとう」
自分に向けられた笑顔で、少し気持ちは晴れた。
「全然。はい」
「ありがとう」
まぁ変に考える必要もないのかもしれない。
「いくらかかったの?」
「いいって、これは俺のおごり」
「ダメだよ! ちゃんと半々にしよ?」
「大丈夫だって!」
「大丈夫じゃないよ? そこはちゃんと……」
「ここ紹介してくれたお礼。だから大丈夫!」
「えぇ……でも」
「いいんです」
花から何かを言われない限りは。
「もう……ふふっ」
「ふっ」
桜の花びらの下で、焼きそばを頬張る。そんなの2年前には思いもしなかった。
ましてや隣に花が居るなんて、1年前でも想像できなかった。
そう考えると高校に入って今まで、色んな事があって……あっと言う間。特に花との関係は随分変わったとしみじみ思う。
「そう言えば、本当に日向はこういう所最近来た事ないの?」
「ん? 小学校以来全然だな」
「中学校の時、付き合ってた子とも?」
「ぶっ! ゴホゴホ。なっ、何いきなり変な事言ってんだよ」
「ふふっ」
出会いは最悪だったのに、今じゃ結構身近な事まで話せる仲になった。
ちなみにこの話もいつぞや話の話題でポロっと口にした事。正直、子どもの遊びみたいなものだったのかもしれないけど、中学時代好きって感情も分からないままクラスの女子と付き合った事がある。
まぁ結果として、いつもサッカーしか考えずデートもしない俺に飽きたのか、ナチュラルにお別れしたけど……しばしば花にはネタとして引っ張り出される。
ちなみに、
「花はどうなんだよ? 小学校の時から好きだった奴いたんだろ? こういうとこ来なかったのか?」
「来たって言っても、大人数だったからね?」
花には小学校の時から好きな同級生が居たらしい。けど、花の友達もその人の事が好きで、花は自分を押し殺して応援する側に。結局友達とその人は付き合っているらしい。
初めて聞いた時は、なんとも少し複雑な感情だったっけ。悲しいやらなんと言うか……それでもお互いにそんな事を言える位の関係になったのは……改めて凄いと思う。
友達?
「あっ、そう言えば桜で思い出した。私ね? 行ってみたい所があるんだ」
「ん? どこ?」
仲の良い女友達?
「あのね、青森県の黒前市にある後黒公園って所なんだけど、そこも桜が有名でね。その中でも、桜の絨毯って呼ばれてる場所を見てみたいんだ」
「青森? それに桜の絨毯って……」
親友?
「桜が終わる頃、公園の周りにあるお堀に桜の花びらが浮いて、桜色の絨毯を敷き詰めたかのような光景なんだ」
「一面が桜の花びらって事か?」
それとも……
「そうそう。ネットとかでは見た事あるんだけど、実際に生で見てみたいなって思ってね」
「まぁ画面で見るのと、生で見るのとじゃ違うよな」
自分でも良く分かってなかった。
どういう立場で接しているのか分からなかった。
どういう感情を抱いているのか分からなかった。
「そうだよね? 凄いんだろうなぁ」
ただ、
「…………じゃあ、来年見に行くか?」
「えっ?」
一緒に居るだけで楽しかった。話をするだけで楽しかった。
気兼ねなく自分を出せる存在なのは間違いなかった。
だから、自然と口から零れた。
「だって来年は予定通りに行くと大学生だろ? その位の遠出は許してくれるんじゃないかな。それに終わりの時期ってゴールデンウィークとかその辺だろ? だったら休み利用すれば行けるはず」
「そっ、そうだと思うけど、日向…………一緒に行ってくれるの?」
「ん? まぁ……花が……良いなら」
「ほっ、本当……? ありがとう」
無意識の内に、花を喜ばせたい一心で……その笑顔を望むかのように。
こうして昼食を食べた後、俺達は桜を眺めながらゆっくりと公園を散策した。
「うわぁ~綺麗」
「やばいな~」
純粋に桜の木々に感動しながら、並んで歩く。
その行動がごく当たり前の様になっていた。
(桜って良いもんだな……ん?)
その時だった。不意に右手に何かが触れる。
程よい温かさと柔らかさ。
思わず視線を向けると、そこには花の手があった。
(やばっ)
無意識とは言え、そこまで近付いてしまっていたことに恥ずかしさと、申し訳なさを感じてしまう。
勿論俺としてはご褒美の様なシチュエーションだけど、花が同じ気持ちとは限らない。
適度に距離を取るべきだけど、あからさまに手を離せば、それもそれで心証は悪いだろう。
さりげなく、ごく自然に離すべ気だと思い、右手に全神経を集中させる。
(ゆっくりと……えっ?)
それは思いもよらない出来事。
指先だけに感じていた温もりが、第一関節・第二関節と徐々に増えていくのが分かる。
その異常事態に思わず花の方へと視線を向けると、花はこちらを見ていた。
そして目が合った瞬間に、少し笑みを浮かべたかと思うと……手のぬくもりが全体へと伝わる。
(マジか? 良いのか?)
花の行動に一瞬戸惑ったものの……ここで応えなければ男じゃない。
そう思い、俺も優しく握り返した。
「ふふっ」
花の口から零れた笑い声とはにかんだ笑顔。
それにつられて、少し恥ずかしさを感じる。
ただそれ以上に、とんでもない多幸感に包まれたのは……言うまでもない。
「じゃあ花。このまま公園散策するか」
「うん! 日向!」
次話も宜しくお願いします<(_ _)>




