28.忘れられない
花に招かれ、足を踏み入れた匙浜家の食卓。
そこはこれぞ誕生日と言った華やかさに包まれていた。
さらに目の前には、初めまして状態の花のお父さんとお婆さんの姿。
本当にお邪魔しても良かったのかと思いつつ、すかさず挨拶を口にする。
「はっ、始めまして! 葵日向と言います! 花さんには大変お世話になってます」
緊張も相まってか、自分でも予想外の大きな声に思わず焦ってしまった。
ただ、
「日向君緊張しすぎだよ~」
「そうそう。リラックスリラックス~」
「やぁ、初めまして日向君。花から話は聞いてるよ? どうぞ」
「良く来たわね~」
そんな恥ずかしさを忘れるくらい、匙浜家の雰囲気は温かくて優しいものだった。
「えっと、それではお邪魔します」
こうして誕生日パーティーへとお邪魔をした俺。
テーブルに着くなり、豪華な食事をお皿いっぱいに持ってもらって完全にお客様モードだ。
主役は花なのに良いのかと聞くと、
「いやいや、日向君も誕生日だから主役でしょ? プラスお客さんなんだから変じゃないよ~」
なんて言われてしまうと、逆に断る方が悪い気がしてしまった。
「えっと、じゃあ……いただきます!」
「はぁ~い」
とりあえずそう答えておいたけど、正直初めてお邪魔する食卓で、いつものようにご飯を食べれる気がしない。
ただ、そこは花のお母さん。
「ほら! 花? これ好きでしょ? 食べな?」
「あっ、日向君? 遠慮してたら怒るからね? ねっ、お父さん?」
俺が遠慮をしない様に立ち振る舞ってくれた。
そして、それに対する花の反応。
「もう! お母さん盛り過ぎだって! それに日向君だって困ってるよ!?」
そんなやり取りに、不思議と緊張が解けてしまった気がした。
「まぁまぁ。日向君? 自分のペースで良いからね?」
「はっ、はい!」
花のお父さんは、その見た目通りかなり落ち着いていて温厚そうだ。
俺に対しても、娘と仲が良いからといって敵視はしていなさそうな所には安心する。
「日向君。お漬物どう?」
「あっ、いただきます!」
花のお婆さんも、同様に優しい雰囲気。
落ち着い話し方に、自然と言葉を返すことが出来ていた。
「はいお父さん。ビールのお代わり」
「おぉ、ありがとう」
「お婆ちゃん? この漬物最高~!」
「そうかい? また漬けとくよ」
こうして改めて匙浜家を見ていると、その仲の良さが一目瞭然だった。
落ち着いているお父さんとお婆さん。明るくて活発な母さんと花。
確かにいつもの花は落ち着いていて、お父さんに似ている。
ただ、時折テンションが上がったりする花はお母さんに似ている。
(見事に2人の性格を受け継いでるんだな)
そうしみじみ感じてしまった。
「ん? どうしたの? 日向君?」
「うん? なんでもないよ?」
「そっか~! いっぱい食べてね?」
「ありがたくいただくよ!」
◇
空に見える星がやけにハッキリと見える。
そんなことを考えながら、俺は花のお母さんの車に乗っていた。
誕生日パーティーに急遽参加した上に、家まで乗せて行ってもらうなんて悪いとは思いつつ、ご厚意に甘えさせてもらっている。
結局あれからお腹いっぱいにご馳走になり、更にはケーキまで頂いた。
匙浜家の面々は良い人ばかりで、その雰囲気も居心地が良い。俺としてはある意味忘れられない誕生日となった。
そんな中、こうして家まで送ってもらっているのだが……もちろん車内には花の姿もある。
助手席に座り、さっきまで3人で他愛もない話をしていたけど、どうやら途中で眠ってしまったらしい。
そんな状況に俺も花のお母さんも無意識に静かにしていたのだが、
「日向君? 本当にありがとうね?」
突然聞こえてきた声に、俺はふと視線を向ける。
「えっ? いやいや俺の方こそ、ありがとうございました」
「違うのよ。今日というより……そのごめんなさい」
(ごめんなさい?」
「どういうことですか?」
「……あのね? こんなこと思っちゃいけないって理解してた。でもね、許してほしい。私は日向君っていう花と同学年で、同じ症状を患っている子が現れてくれて……嬉しかった」
「嬉……しい?」
「本音を聞いて嫌いになってもいい。人として失格なのも分かってる。でも今まで1人で、家族以外誰にも症状を話せず生きて来た娘が、あなたと出会えたことは奇跡だと思ってる。母親として……心の底から安心して幸せなの。こんな事言うのは身勝手だと思う。それでも……言わせてちょうだい? これからも、娘と……花と仲良くしてください」
いつもとは違い、真面目な口調の花のお母さん。それは母親としての本音なんだろう。
俺達の前では明るく気丈に振舞っているけど、内心こんなにも娘のことを思っていたんだと知り、心が熱くなる。
「……本当身勝手ですよ?」
「そう……だよね。ごめ……」
「こんだけ花と仲良くさせといて、いきなりそんなこと言うなんて……ズルいですよ」
「えっ?」
「今更過ぎですって。俺は花に救われたんです。不安な事はなんでも相談出来て、実際に記憶を忘れないように取り組んでることも教えてもらいました。それに……症状の事も含めて、なんでも気軽に話が出来る花の存在はとてつもなく大きいんです」
「日向君……」
「目標であり、憧れであり、尊敬する存在なんです。逆に俺がお願いしたい位ですよ」
「そう……なのね……」
「はい。だからこれからも……花さんと仲良くさせてください」
「…………もちろん。これからも……いや、これからは今まで以上に沢山からかわないとね?」
「えっ!? いっ、今まで以上ですか?」
「そうよぉ。覚悟しておいてね?」
「うっ……善処します」
「ふふっ。日向君、本当にあなたみたいな優しい子と出会えて……良かった。私も花も」
「ん? 何か言いました?」
「気のせいじゃない? あっ、そうそう。今がシャッターチャンスだぞ? 花の寝顔撮っちゃいなさいよなさいよ」
「えぇ、それはちょっと……」
「良いから良いから、スマホ貸しなって」
こうして、なんとも濃い1日だった17歳の誕生日。
俺にとって、良い意味でも悪い意味でも……忘れられない日となった。
「ちょっ、ちょっと! ダメですって! って運転中なんですから前見て! 前ぇー!」
次話も宜しくお願いします!




