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18.順風満帆から

 


 順風満帆。

 たかだが高校生の分際が、そんな言葉を言えるのか疑問は残るけど、例えるならその四文字が一番良く当てはまる。


 高校生活。

 部活動。

 通院。

 そして匙浜さん。


 俺を取り巻く環境が上手く絡み合うそれは……確かに順風満帆。

 充実した毎日と言っても過言じゃない。


 匙浜さんと水族館に行った日以降、サッカーの調子は右肩上がりだった。

 勿論御神本先生に言われた通りオーバーワークには気を付け、規則正しい生活を送るように心掛ける。

 するとそんな意識が功を奏したのか、翌日に疲れが残る事は殆どなくて……毎日の練習に集中出来るようになった。


 明進高野のサッカー部にはAチームとBチームが存在している。

 Aチームがスタメンとベンチメンバー。Bチームは1年や2年と言った控え組。

 俺は2年になってからずっとAチームとして練習し、スタメンを確保できていた。


 自分が上手くなってる。強くなってるって実感。

 練習でも試合でもそれが結果として現れてくれる事は何物にも代えられない嬉しさだ。


 インターハイ予選ではまたもや準決勝で漆谷高校に敗れたものの、試合展開自体は悪くはなかった。失点も後半終了間際の不運なものだったし、チームとしても個人としても全然戦える。

 そんな意識が浸透し、打倒漆谷を掲げて来たる選手権予選に向けて猛練習している。


 そんな部活での充実した毎日。その勢いは私生活にも影響する。

 1年の時のクラスメイトが、半分以上変わらなかった新しいクラス。その雰囲気は2年になっても変わらずに心地良くて、笑う回数も多くなった。

 それに、


「よーし、ホームルームやるぞー。ん? なんだ葵、先生の事ジロジロ見やがって。ははぁん、さては惚れたか?」

「あっ、いえ。全くもって違います」


「何ぃ? 照れ隠しか?」

「1000%違いますね」

「先生、俺は惚れてますよー」


「おっ、岡部! お前は葵と違って目の付け所が違うな」

「ほっ、本当ですか!?」

「その笑い方気持ち悪いぞ岡部」


 遊馬先生の冗談にも、難なく対応出来るようにもなった。

 まぁ先生とは1ヶ月に1回程度、時間を見計らって面談をしてるし……そんな関係は変わってない。


 変わっていない。そんな関係の一方で大きく変わった事もある。それは勿論、良い意味での話。


 ヴーヴーヴー


 突然のバイブの音にポケットからスマホを取り出すと、待ち受け画面に現れたのは、


【おはよう。こっちは今日も良い天気です】


 そんなメッセージ。

 そしてその上に表示されている名前は【匙浜花】。


 水族館へ行った日以降も、日常的にメッセージのやり取りは続いていた。

 勿論、病院で会えば今まで通り他愛のない話を話もする。

 流石に戦国武将の話になると、いつもとは違った一面を見せる匙浜さんだけど、その雰囲気は変わらず。

 それに俺にとっては、症状と付き合って来た先輩であり、頼れる存在である事に変わりない。


 あと、割と本気でサッカーが好きになったみたいだ。

 毎週必ずボールを持参してパスの練習。

 今ではドリブルなんかも見せてくれて、その上達さには目を見張るものがある。

 そしていつの間にかサッカーは2人の共通の話題に。


 でもそれじゃあダメだって思って、俺も匙浜さんの趣味に合わせようと色々と調べた。テディベアとか花の事。

 特に匙浜さんが好きだって言ってた桜については念入りだったよ。色んな地域の桜の名所とかその種類。


「えっ、もしかして調べてくれた?」

「まっ、まぁ。それに色々な知識あった方が良いかなって」


「嬉しいな。あっ、でも葵君、桜まつり行ってないんでしょ?」

「そうだなぁ」


「せっかく知識があっても、やっぱり見ないと。サッカーと同じでね?」

「サッカーと……確かにそうかもしれない」


「でしょ? じゃあ…………そうだ、次は一緒に行かない?」

「ん?」


「サッカーの練習に付き合ってくれてもらってるお礼で、今度は私のイチオシの桜スポット見せてあげたいんだ」

「えっ、そっそれって……」


「ダメかな?」

「えっと……ぜ、是非お願いします」


 まさかこんな約束をする展開になるとは思わなかった。

 とまぁ、そんな事も言い合いつつ徐々に親しみを覚えた俺達。

 時間が経つにつれた何気なく共通点も少なからずある事が分かった。意外にも血液型が一緒とか、なんと誕生日が同じ10月31日だとか。


 それと、匙浜さんのお母さんとはちょいちょい病院で行き会うようになった。


「おっ、サッカー少年。明日練習試合頑張ってね」

「えっ、練習試合って誰から……」

「誰って……決まってるでしょ? とにかく怪我には気を付けてブチかませ!」


 その仕事姿は……ご本人に間違っても見に来るなよと釘を刺されているので、未だに目にした事がないけど。


 でもまぁ、とても話しやすくて面白い人には変わりない。それに匙浜さんが家から1時間もかかるこの病院を受診した理由も、通院してる理由も何となく分かった。

 自分の娘が抱える症状に詳しい人が居る。そんな病院に勤めているなら、そこを受診させるのは当たり前だろう。


 そんな感じで通院も匙浜さんとの関係も、症状についても……順調そのものだった。

 御神本先生からは、


「笑顔も多いし、精神的にも充実してるのが見て分かるよ」


 なんて言われるようになって、自分でもその実感は湧いていた。毎日のメモと日記、毎朝の確認作業では前の日の事も、一昨日の事も1週間前の事だってちゃんと記憶に残ってた。


 そして話す度に楽しくて、尊敬できる匙浜さんとの関係。お母さんと出会ってからは更に面白さも加わって……気持ちが凄く和らいだ。

 それに何より嬉しかったのは、ちょくちょく匙浜さんがサッカーの試合を見に来てくれるようになった事。病院で知り合った子がサッカーに興味を持ってくれて、しかも試合まで顔を出してくれるようになったなんて、サッカー好きとしては新規ファンが獲得出来て嬉しい限り。それに知ってる人に見てもらえるのは……満更でもなかった。


 そんな日々が続く……毎日のように続く。なにも疑う余地もなく、それが当たり前だと思ってた。

 ある日の昼休み。指導室に響いた監督の声を聞くまでは。


「葵、単刀直入に言うぞ。来週から始まる選手権予選…………スタメンから外れてもらう」




次話も宜しくお願いします!

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