16.匙浜さんと水族館②
約20分のイルカショーは想像以上の大迫力だった。
スタッフの指示を受けての一糸乱れぬ動き。水中での速度。BGMに合わせたジャンプ。
練習の賜物ともいえるショーの完成度に終始感嘆の声を上げていると、あっという間にショーは終了。
「いやぁ~凄かったね!」
「とんでもない迫力だった」
興奮も冷めやらぬ中、俺達は改めて水族館内を歩いていた。
「水中ですごく速かったね!」
「だな。それにあの高さは凄い。俺もあんだけ高く飛べれば空中戦も楽なんだけどな」
「勝率100パーセントだよね? 私はボールを巧みに操れるほどの器用さが欲しいよ~」
「いやいや、自作でテディベア作れる人が器用さ求めるの?」
「いやいや、お婆ちゃんに比べるとまだまだなんだよねぇ」
「日々精進ってやつかな?」
「その通りだよ! ふふっ」
そんな話をしていると、ふと館内の時計が目に入る。
時刻は11時半前。お昼を食べるには少し早い時間だけど、休日とあればお昼時には一気に混雑するだろう。
(……ちょっと早いけど、込み合う事も考えれば良い時間帯かも)
「匙浜さん。ちょっと早いけどご飯食べようか?」
「そうだね! 賛成~」
匙浜さんが頷くと、俺は手に持ったパンフレットを確認する。
食事処は1階と2階の2か所あるらしい。
1階はいわばファミリー向けのフードコートで、ガッツリ系のメニューが多彩。
2階はお洒落な喫茶店といった感じで、軽食系のメニューが揃えてある。
「どっちも美味しそうだな~」
「そうだな。匙浜さんは何が食べたい?」
個人的にはガッツリ系を食べたい所だが、匙浜さんのイメージ的には軽食系を選ぶだろう。
となれば、品数を増やせば問題ないと思っていたのだが、
「あっ! 葵君! 私この、どっさり海老海老満点ラーメン食べたい!」
匙浜さんの返事は意外なものだった。
(マジか?)
「じゃっ、じゃあ1階のフードコート行こうか?」
「はぁ~い」
こうして少し戸惑いを感じながらもフードコートに向かうと、想像通りそこまで混雑はしていなかった。
これなら注文してからでも席の確保は出来ると思い、俺達はまず先に注文を済ませようと売店へ足を運ぶ。
本来なら何を食べるかするのか悩むところだけど、幸い俺と匙浜さんはすでに決まっていた。
レジ前へ足を運ぶと、店員さんへ注文をする。
「えっと、匙浜さんはどっさり海老海老満点ラーメンかな?」
「うん! そうなんだけど……」
(ん?)
先ほどのテンションとは違い、どこかモジモジしているような匙浜さん。
もしかして売店のメニューを眺めている内に、別の物を食べたくなったのだろうか。
「もしかして、別のやつ食べたくなった?」
「そうじゃないんだけど……」
別の物に目移りした訳じゃないなら、ますますこの状態の意味が分からない。
ただ、匙浜さんの様子を見る限り、何か言いづらそうなのは一目瞭然だった。
俺の頭の中は、まるで試合かの様に匙浜さんの思考を必死に探る。
(海老海老満点ラーメンで間違いはないよな? そんで他の物と迷っている訳でもない。となれば、何をそんなに……はっ! もしかしてトッピングとか量?)
辿り着いたのは、トッピング関連ではないかという予想だった。
とはいえ、ここのフードコートはラーメン専門店じゃない。メニュー表にもラーメン用のトッピングは見当たらなかった。
だとしたら量になるのだけど、少な目を希望ならハーフサイズを言えばいいだけ。つまりここまで言い辛そうにするという事はその逆の可能性が見えてきた。
(別に俺は気にしないけど、女の子からしてみれば抵抗があるのかもしれない。となれば、言い出しやすい雰囲気にすれば問題ないよな? えっと、大盛りとその上に水族館盛りってのがあるから……)
「えっと、俺水族館盛りにしようと思うんだけど、匙浜さんはどうする?」
「えっ!? 水族館盛りって……大盛りの上? じゃあ……わっ、私は……おっ、大盛りで……」
(やっぱりな)
俺の問い掛けに、それでも少し小さな声で呟く匙浜さん。
もちろん大盛りという答えには多少なりとも驚いたけど、下手に表情に出してしまえば匙浜さんを傷付けるのは目に見えている。
それに、恥ずかしがっている匙浜さんの姿は滅多にお目に掛かれるものじゃない。
驚きと目新しさを感じながらも、俺は再度注文を口にする。
「じゃあ、海老海老満点ラーメン大盛り1つと、海苔マシマシラーメンの水族館盛り1つ下さい。ちなみに匙浜さん、ポテトなんかもどう?」
「ポテト!? 食べた~い!」
(なんか匙浜さん。めちゃくちゃ目が輝いてるんですけど……)
こうして注文を終えると、次は代金の支払いなのだが……俺としては、ここはチケットの件も含めて譲れない部分だった。
(チケットの件もあるし、ここは俺がおごらないと)
金額を告げられると、何やら鞄に手を伸ばす匙浜さん。
先手を取られてはいけないと思い、俺は素早くお金を差し出した。
「葵君? 自分の分は……」
「匙浜さん? 後ろの並んでいる人達の迷惑になっちゃうから、とりあえず……ねっ?」
(ふっ、さっきのお返しだ)
「えっ? だって大盛りだし、それにお客さん並んでないけど……」
ちらりと後ろを見ると、匙浜さんの言う通り誰の姿もなかった。
そんな状況に一瞬焦ったものの、ここまで来たら後戻りはできない。
「いっ、いいから! ここは良いから!」
俺は半ば強引に会計を済ませた。
「あっ! もう……ふふっ。ありがとう」
「全然だって。じゃあ席座ろう」
匙浜さんからしたら色々と突っ込みどころがあったのかもしれないが、何はともあれ無事に先ほどの借りを返せた事にホッと胸を撫で下ろす。
店員さんから呼び出しブザーを受け取ると、今度はどこへ座ろうかとフードコートを見回した。
海を一望できる店内のカウンター席と、店外テラス席にも十分空きがあったのだが、ここは匙浜さんの意見を尊重してテラス席に座る事となった。
「わぁ~気持ち良い~!」
程良い日差しに、気持ち良い風。
ほのかに香る潮の匂いに匙浜さんも満足そうだ。
「そうだな」
心地良い雰囲気の中、しばらく何気ない会話をしていると注文ブザーが反応した。
売店に向かいトレーを受け取ると、こぼさない様にテラス席へと運んでいく。
匙浜さんの注文した海老海老満点ラーメンは、写真と変わらずどんぶり一面に桜エビが敷き詰められていて、香ばしい匂いが漂う塩ラーメンベース。
対して、俺の注文した海苔マシマシラーメンは、名前の通り丼の脇に大判の海苔が敷かれ、中央には刻み海苔が乗っている醤油ラーメンベース。
ポテトもかなりの量で、匙浜さんも満足してくれること間違いなしだ。
「お待たせ~」
「うわ~! 美味しそう~!」
テーブルの上に置いた瞬間、匙浜さんの目がキラキラと輝く。
(なんか、意外と子どもみたいな反応するんだよな……)
「あれ? どうしたの? 葵君」
「なんでもないよ? じゃあ食べよっか」
「うん! いただきま~す! はぁ~おいしぃ!」
満面の笑顔でラーメンを頬張る匙浜さん。
その姿は意味年相応の女の子の様で、今までの印象とはまた違ったものだった。
「あれ? 葵君、食べないの?」
「ん? あぁ、いただくよ。うん! 美味しい」
「でしょでしょ~?」
そう言えば、今まで色々と話はしたけど、こうして匙浜さんが何かを食べる瞬間は見た事はない。
見た目は大人っぽい。
話せば意外とノリが良い。
食べる姿は良い意味で子どもっぽくて可愛い。
(まだまだ匙浜さんの知らない部分があるんだな……)
意外な一面を垣間見えた事に、少し嬉しさを感じた瞬間だった。
次話も宜しくお願いしますm(_ _)m




