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六十二.胸の奥から湧き上がって


 胸の奥から湧き上がって来るような不快感に、ビャクは膝を突いて乱暴に息を吐いた。髪の毛が黒と白のまだらに染まり、そうして白に戻った。何かが詰まっているようにぜえぜえと苦し気な息が出た。

 その背中をカシムがぽんぽんと叩いた。


「無理すんなって。焦っても仕方ないぜ」

「……くそ!」


 ビャクは握りこぶしで床を叩いた。カシムは困ったように嘆息した。


「しかし参ったね。どうも一定の閾値から勝手に魔王が出張ってくるみたいだ」

「ふざけやがって……!」


 ビャクは大きく息をついて立ち上がった。疲労がにじみ出ている。隅の方でシャルロッテが心配そうな顔をして見ていた。


 今日は少し荒療治だった。魔王の影響が出るぎりぎりまで魔力を放出しているのだ。

 元々ビャク自身の持つ魔力の量はそれほど多くない。幾ばくかの立体魔法陣を飛ばすだけならばいいが、戦闘ともなれば魔王の魔力を使わねば維持できない。

 マリアやカシムの訓練によって、多少なりとも魔力の扱いが上達して来た筈なのだが、それでもまだビャク自身の魔力だけでは力を維持し続けるのは難しいようだった。ある一定の魔力量を放出すると、自動的に魔王の魔力が湧き出して来るのである。

 カシムは腕組みして眉をひそめた。


「どうしたもんかね……ま、日常生活を送る分には問題なさそうだけど」

「そんな悠長な事を言ってる暇はねえ……」


 ビャクは俯きながら胸を押さえ、しばらく呼吸を整えていたが、再び顔を上げた。


「もう一度だ」

「そんなに焦るなって。体が持たないよ?」

「……あんたには分からねえだろうよ」

「なにが?」

「俺は俺として存在したいだけだ……実験の副産物になりたいわけじゃねえ」

「ふうん……どっちが主人格かなんて、自分が決めればいいだけじゃない? オイラはお前はちゃんと存在してると思うけどね」

「綺麗事抜かすな……!」


 ビャクはカシムを睨み付けた。カシムは肩をすくめた。


「お前は少し一人で背負い過ぎだよ……なあ、オイラと違って、お前には頼れる奴が沢山いるじゃないの。変に突っ張らかってどうすんのさ」

「あのクソ親父はホムンクルスの危険性なんか分かっちゃいねえ。家族ごっこなんざまっぴらだ」


 ビャクは荒々しく吐き捨てると、乱暴に床に腰を下ろした。シャルロッテがおずおずと近づいて来た。


「ねえ、ビャク……カシムおじさまの言う通りだと思うわ。あなた一人で背負い込まなくても、お姉さまもお父さまも……」

「黙ってろ! 何がお父さまだ……テメェの親父はとっくに死んだだろうが!」


 ビャクは怒鳴った。シャルロッテはびくりと体を震わせた。そして見る見るうちに目に涙を溜め、拳を握りしめた。


「なによ……! なによ、ビャクの馬鹿! 馬鹿あっ!」


 シャルロッテは泣きじゃくりながら小さな手でビャクを殴った。ビャクは黙ったまま苦々し気に顔をしかめ、殴られるままになっていた。

 その時、部屋の扉が開いた。


「ここにいやがったか。げほっ……」

「あん? ああ、マリアのばーちゃんかい」


 相変わらず着膨れているマリアは、咳き込みながら部屋の中に入って来た。


「こいつらも揃ってるな……丁度いい」

「ふうん? 何か話す事でもあるの?」

「こいつの事だ」

「ビャクのか……そうだね、ぼつぼつ話さなきゃいけない事だし……家に戻ろうか。待ってりゃベルも戻って来ると思うよ」


 そう言って、カシムはちらと目をやった。ビャクはむっつりと黙り込み、シャルロッテは地面にへたり込んですんすんと鼻をすすっていた。

 カシムは大きくため息をついて、山高帽に手をやった。


「……家族会議だなあ、こりゃ」



  ○



 オルフェンの雪解けはトルネラよりも幾分か早いようだった。

 もちろん寒い事は寒いけれど、気が付くと外套を脱ぐ機会が増えていたり、マフラーを巻かなくても大丈夫だったり、降る雪が柔らかく、溶けやすくなって、石畳の溝に小さな流れができていたりした。


 結局のところ、あれから大きな収穫があったとは言えない。

 ベルグリフは資料から足取りをたどる事を諦め、代わりに町を歩き回って、東から来た商人や旅人を探して話を聞いた。それでも、やはり有力な情報は得られなかった。英雄譚を持つSランク冒険者や、エルフ領以外では珍しいエルフとはいえ、広い世界でたった一人の人物を探し出すのは容易ではない。


「……カシムと会えたのは本当に運が良かったんだな」


 ベルグリフは嘆息した。そうして、アンジェリンの運んで来た再会に改めて不思議なものを感じた。


 降っていた雪に水気が混じってべしゃべしゃと体を濡らすから、手近な店の軒下に逃げ込んで立っていた。

 今日は空が嫌に明るく、吹く風もどことなく温かで、冬の寒さに締まりがないように思われた。

 しかし、こういう気が抜ける時にこそ風邪を引く。

 ベルグリフはぶるりと背筋を震わしてから居住まいを正して、真珠色の空を見上げた。下の方に軽い薄雲があって、それが風で流れて行くらしい。まだまだみぞれの勢いは衰えそうにない。


 義足の側に体重をかけながらベルグリフは嘆息した。諦めたわけではないが、これだけ手がかりが掴めないと流石に辛くなって来る。


 もうじきトルネラに帰らなくてはならない。あと半月もすれば春の気配は濃厚になるだろう。

 さらに北のトルネラはオルフェンよりもやや春の訪れが遅いが、それを見越して、こちらの雪解けに合わせて出れば、ボルドーかロディナ辺りで幾日か待つ間にトルネラに行けるようになるだろう。まるで春から逃げ、冬を追いかけるような旅だ。


 パーシヴァルとサティを見つける事を諦めるわけではないが、一度帰ると今度はいつ出られるか分からない。

 冬を除いて、トルネラの暮らしは毎日が仕事だ。畑仕事や山仕事に追われていれば時間などあっという間に経ってしまう。

 もう若くはないのだ。鍛錬を怠ってはいないとはいえ、トルネラの暮らしに馴染んで旅慣れていない体では、いつまで探訪に出ていられるのか分からない。

 だからこそ無駄足を踏む事には抵抗があったし、しかし動かなくていいのかと苛まれる気持ちもあった。


「……なるようにしかならん、か」


 焦る心をなだめるように、ベルグリフは大きく深呼吸した。冷たい空気が肺を満たし、幾分か気持ちが落ち着くようだった。


 それでも、オルフェンに来た甲斐というものはあった、と思う。

 アンジェリンが連れて来てくれたカシムとはいずれ会う事になっていただろうが、ここまで出て来なければギルドの面々を始めとした人々と縁を持つ事はなかっただろう。

 目的として来た事は見つけられそうもないが、新たな出会いが無駄であったなどと言いたくはない。


 少し弱まったみぞれの様子を見て、ベルグリフは軒下から出て道を下った。

 家に辿り着く頃には、またみぞれは勢いを増した。ベルグリフは髪の毛やマントに付いた細かい氷の塊を払い、濡れて額に貼り付く前髪を手の甲で拭った。


「やれやれ……」


 マントを脱いで振り、手では落とせない水滴を払う。つま先を立てるようにして地面を蹴り、靴の裏の水や汚れも落とした。


 家は留守だから静かだった。火処の熾火も灰にうずめてある。しんとしている分嫌に寒々しい雰囲気だが、それでも外よりは暖かかった。

 アンジェリンは仕事で外に出ており、カシムもシャルロッテとビャクを連れて魔法の稽古に出掛けている。夕方までは誰も戻って来ないだろう。


 さて、どうしようかと思う。

 一度戻って来たは良いが、夕餉の支度をするには早いし、持って来た羊毛もあらかた紡ぎ終えてしまっている。トルネラならばする事はいくらでもあるが、オルフェンのこの家ではする事がない。


 少し考えて、ベルグリフは紡ぎ終えてまとめておいた毛糸の房を幾つか鞄の中にしまい、またマントを羽織って外に出た。

 水っ気で透明になった雪が道に積もっている。歩くと足の下でしゃぐしゃぐと変な感触がした。質量はあるのに、歩く度に水が跳ね散らかった。


 新しく借りた家は住宅地にありはしたが、住宅地のそばには店の集まっている地区がある。だから色々な便が立つ。

 みぞれの中でも人々は行ったり来たりして、荷車が引かれ、雪を避けられる軒の下では演奏師が静かな音を奏でていた。


 ベルグリフは辺りを見回しながら歩き、目的の店を見つけて入り込んだ。

 中には大勢人がいて、たいへん賑やかである。幾重にも積まれた布の山を丁稚らしい男たちが移動させ、女連れの貴族らしいのが高級そうな布を物色している。棚にも台にも布や糸の玉が山積みになっていた。

 ベルグリフは少し面食らったが、何とか店員らしいのを見つけて声をかけた。


「あの」

「はい、何でございましょうか?」


 と丁寧に返事をしかけた店員だったが、ベルグリフの風体を見て少し侮ったような顔になった。


「どういったご用事で? 安価な布地でしたらあちらの方に……」

「いや、糸を買っていただけないかと……」


 ベルグリフは鞄から毛糸の房を取り出した。店員はまともに見ようともせず、一瞥するとふんと鼻を鳴らした。


「間に合っておりますな」

「……そうですか」


 ベルグリフは嘆息して踵を返した。あれだけ糸が山積みになっていれば無理もないか、と思う。


 それからまた二件ほど布地屋を回ったが、どちらでも断られてしまった。寒い季節だから需要自体はあるようだが、大口の取引ならばともかく、ほんの二つ三つの毛糸は必要とされていないらしかった。

 悪い糸ではないと思うのだが、とベルグリフは目を伏せた。もう一件回ってみて、駄目だったら諦めようか。


 通りで目に付く大きな店ばかり入ったが、今度は少し小さな店に行ってみようと思い立った。オルフェンの街並みは雑多だから少し苦労したが、裏路地に一歩入った所に小ぢんまりとした店があった。

 入ると木の床に絨毯が敷いてある。汚れていいものらしく、既に先客のものらしい足跡や水汚れがあった。

 薄暗い店内の壁際に天井まで届く大きな棚があって、そこに色とりどりの布や毛糸玉などが詰まっていた。しかし客は他にはおらず、店の中はしんかんとしていた。


 奥のカウンターに白髪の老人が座って帳簿を付けていた。

 ベルグリフが近づくと老人は顔を上げた。眼鏡の奥で目が細められた。


「どういった御用かね? 布がご入用かい?」

「いえ、糸を買っていただきたいと思いまして」


 ベルグリフは鞄の中から毛糸の房を取り出してカウンターに置いた。老人は眼鏡に手をやって、毛糸をまじまじと見た。

 ベルグリフは何ともなしに店の中を見回した。

 棚にある糸は絹が多く、羊毛の糸も精錬されて色付けされたものばかり見受けられた。ベルグリフが持って来たような無垢の糸は見受けられない。

 どうやらここも駄目らしいか、とベルグリフは嘆息した。


「失礼、やはり……」


 そう言って手を伸ばしたベルグリフより早く、老人は毛糸を手に取ってジッと見た。端を持って伸ばし、指先でよじるようにこする。


「……毛の質は良い。よりも正確だし、空気の含み具合も悪くないな」


 老人は目だけベルグリフの方に向けた。


「あんたが紡いだのかね?」

「ええ、まあ……」


 老人は糸をいじりながら少し考えていたが、やがて顔を上げた。


「良い糸だ」そう言うと、箱の中から銀貨を数枚つまみ出してカウンターに置いた。「これでいいかね?」

「はっ? い、いや、こんなにもらうわけには」

「私はこう見えても毛糸には一家言あるつもりだよ。これぐらいの価値はあると思うがね」


 ベルグリフは何と言っていいか分からずに苦笑して頬を掻いた。そう言われては違うという方が失礼な気がする。それに、決して悪い糸ではないと自分でも思う。

 少し逡巡したが、ベルグリフは頷いた。


「……そうですか。それではありがたく頂戴します」

「糸は紡ぐ人間の心が出るものだ」


 老人は眼鏡の向こうからベルグリフをジッと見た。


「あんたがこの糸を紡げる心のままでいてくれる事を願うよ」


 ベルグリフは小さく笑って会釈した。


 思ったよりも高く売れたので、ベルグリフは却って困惑した気分で往来を歩いた。アンジェリンの世話になっているばかりではどうにも恰好が付かないと糸を売りに出たが、予想したよりも金額が大きいとどうしていいか分からない。

 ふと、露天商が目に入った。


「……女の子だものな」


 ベルグリフは星をかたどったものらしい髪飾りを手に取った。銀細工で、小さな赤い石が飾りに埋められている。シンプル過ぎるくらいのデザインだが、あまりごてごてと装飾が付いているよりも、これくらいの方がアンジェリンには似合うだろう。

 露天商の中年女がにこにこと笑った。


「贈り物ですか?」

「ああ、娘にね……黒髪なんだが、似合うだろうか?」

「黒なら銀系は似合うと思いますよ」

「じゃあ、これを」

「ありがとうございます」


 少し値は張ったが、買えない事はない。今まで綺麗な服も装飾品も買ってやらなかったのだから、これくらいはいいだろう。


「……喜んでくれればいいが」


 独り言ちた。ふと、ダサいなどと言われてはどうしようと思う。若い女の子の好みなどベルグリフには想像するしかない。


 帰途に就くうちに雲がますます厚くなり、体中が濡れるような心持になって来た。これではたまらない、とベルグリフは手近な軒に逃げ込み、マントや髪の毛を払ってみぞれを落とした。どうにも季節の変わり目というのは天候が安定しないものだ、とベルグリフは嘆息した。


 不意に薄荷の香りがした。煙がゆらゆらと漂っていた。ベルグリフは怪訝な顔をして目をそちらにやった。

 妙な二人連れだった。

 一人は煙管を咥えた黒い髪の女である。前を重ねる服は意匠といい東方のものらしい。

 その隣に腰を下ろしているのは十代半ばといったくらいの少女である。コートを着てマフラーを巻き、耳垂のあるファー帽子をかぶっている。髪は黄土色、椅子代わりに尻に敷いているのは楽器のものらしいケースだ。


「寒いのう……北部恐るべしじゃ……」


 東方の女は口から煙を吐き出して、手近な柱に煙管を打って灰を落とした。

 少女の耳垂がぴこぴこと動いた。帽子から垂れているのではない、耳だ。形からして犬の獣人のようだ。


「昔の人は言いました。おしくらまんじゅう、押されてべいべ……するかい?」

「い、や、じゃ! あー、熱燗が飲みたいわい……」


 女は大きくあくびをした。ベルグリフは顎鬚を撫でていたが、やがて口を開いた。


「もし、失礼ですが……」

「んん? おお、どうなされましたかの?」


 女はベルグリフの方を向き、親し気な笑みを浮かべた。ベルグリフも微笑んだ。


「不躾で申し訳ないのですが、あなた方は東方からいらっしゃったのですか?」

「おお、いや、ははは。こんな装束をしておればそうだと言っておるようなものですな。お察しの通り、儂はブリョウで産まれた者ですじゃ」


 女は服の裾をつまんで笑った。

 西のローデシア帝国からすれば、東の国々は連邦とひとまとめにされているが、勿論その中にも多様な国と文化がある。

 ブリョウは大陸東部に位置する国だ。起伏のない平坦な土地が多く、海にも面している温暖で穏やかな土地だという。それじゃあ寒さには慣れていないだろうな、とベルグリフは小さく笑った。


 女は隣に腰を下ろす少女の頭を叩いた。


「こやつは南部の……どこじゃったかの?」

「手前、生国と発しまするはダダン帝国、オルメリアの町……でござんす。おじさん、わたしとしぇけなべいべ、する?」

「はっ? しぇ、しぇけ……?」


 ベルグリフは困惑して目を白黒させた。女は呆れたように嘆息した。


「おんしは相変わらずよう分からん奴じゃのう……南部語を話すなちゅうに」


 成る程、こちらの少女は大陸南部のダダン帝国から来たらしい。

 ダダン帝国はルクレシアのさらに南の国だ。ローデシア帝国よりも獣人の数が多く、現在は廃止されているものの、奴隷制もローデシア帝国よりも苛烈だったらしい。

 その為、獣人たちは虐げられる者同士でのみ意味の通ずる言葉を産み出し、支配者たちに対して結束した。それが現在も訛りとして残っている。少女が口にしたのはそういうものの名残だろう。


 ダダン帝国は気候の違いもあり、北部とはまた違う文化が発展しているという。

 特に裏拍を強調した力強い音楽は特徴的で、ヴィエナ教の讃美歌からして、荘厳な北部のものと違って、礼拝の時に参加者が歌い踊るといったものが多い。そんな土壌から、カンタ・ロサのようなローデシア帝国でも名の知れた歌手や奏者を幾人も輩出している。

 少女も演奏師か何かなのだろうか、と楽器のケースらしいものを見てベルグリフは思った。


 女は懐手をしてベルグリフの方に向き直った。


「それで、何か御用ですかの?」

「ええ、実は人を探しているんですよ。噂では東の連邦に行ったと聞いておりまして」

「ふむう? それはブリョウですかのう? それともキータイ?」

「いえ、そこまでは分かりません。パーシヴァルといって、“覇王剣”という異名を持つ冒険者なんですが……聞いた事はありませんか?」

「……むう」


 女は目を細め、しばらく考えるように視線を宙に泳がしていたが、やがて目を伏せた。


「申し訳ない、儂には心当たりはありませんですじゃ。儂も冒険者の端くれ、異名を持つほどの御仁であれば、耳にしようというものですがのう……」

「そうですか……いや、お手間を取らせました」


 と言いかけたベルグリフは妙な気配を感じて視線を落とした。犬耳の少女がベルグリフに顔を近づけて鼻をひくひくさせていた。


「……たき火と藁。おじさんはのすたるじっくな匂いがするね……」

「はは、どうも……」

「何をやっとるんじゃ、おんしは」


 女が少女の首根っこを掴んで引っぺがした。ベルグリフは苦笑して頬を掻いた。


「お二人は流れで冒険者を?」

「まあ、そのようなものですじゃ。奇遇な事に儂らも人を探しておりましてな、しかしオルフェンは広い都ですなあ、来てからしばらく経つのに一向に見つからん。今から冒険者ギルドに人探しの依頼を持って行こうと思っておりますのじゃ」

「そしたら迷子になったのであります……この人方向音痴だから」

「やかましい。おんしこそ道を覚えんではないか、犬っころの癖して」


 女は少女を小突いた。ベルグリフはくすくすと笑った。


「ギルドでしたら、この道を下って……」


 雪が弱くなった。二人にギルドまでの道を教えてやったベルグリフは、会釈して軒を出た。


「では、失礼します」

「ええ。足元にお気を付けて……」


 二人は去って行くベルグリフを眺めていた。黒髪の女は再び煙管を咥えた。


「ふん、“覇王剣”を探しおるか……それにしても滑らかな動きじゃ。見るからに義足なのに、動きを見ておるとそうは思えんわい……さて、何者なのやら」

「あのおじさん、におう、ぜ」

「あん? たき火と藁とかいうのか?」

「のんのん」


 そう言って、少女は懐から出したハンカチを鼻に当ててふがふがと匂いを嗅いだ。


「探し人の匂い……微かにだけど」

「ほほう? こんな所で他にルクレシア貴族の匂いなぞせんじゃろうし、これは思わぬ天の配剤かのう?」


 女はにやりと笑って煙を吐き出した。


「オッス運命……へくちっ」


 犬耳少女はくしゃみをした。


活動報告に書籍の店舗特典情報がありますので、興味のある方は是非。

あと漫画になるっぽいです。

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