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「万が一と思ってきてみれば…人のギルドの職員を、上司のいないところで勝手に勧誘してんじゃねーよ」


「ジェルマさん!!」


開いた扉の方を見ると、そこには見慣れた顔の上司の姿があった。


(今、この時だけは感謝するわ、神様!!)


普段から信じてもいない神にありがとう、とシエラは心の底からの感謝を捧げる。


「杞憂であってほしかったが、お前はやっぱり変わってねーなぁ…」


呆れ顔で部屋の中に入ってくると、がっしりとシエラの肩をつかんでいたジェシカの腕をつかむ。ジェシカは、少しムッとした表情で、ジェルマの方を見た。


「何の用?今、忙しいって言ったでしょ?…あ、ていうか、ちょうどいいわ。シエラちゃん、第4ギルドに頂戴よ。コッカトリスをテイムしたんだし、第1ギルドよりもうちの方があってるでしょ?」


「ざけんな。こいつが抜けたらうちのギルドがますます回らなくなるだろうが」


バチバチっと二人の視線の間で火花が起こる。


モルトにある4つのギルドには、それぞれ特色のようなものがある。

第1ギルドは、冒険者たちの入り口ともいわれるギルドで、冒険者の育成に力を入れており、初めての冒険者登録はほとんどの人間が、第1ギルドで行っているほどだ。

第2ギルドは、迷宮探索特化型と言われていて、迷宮探索に必要な知識やスキルの会得サポートを行っているので、中堅以降の冒険者や、迷宮探索専門冒険者が数多く所属している。

第3ギルドは、護衛や治安維持に力を入れていて、将来の騎士を目指す人たちの多くが、このギルドに所属して、腕を磨いている。

第4ギルドは、主に研究者肌の人間が多く、分野は様々であるが、その道のエキスパートたちが主に属している。バルディッドをはじめとする、魔物学者たちも多く所属していることもあるからか、職員自身が魔物や魔獣をテイムしている人も多い。ただ、そのせいか、俗に変人奇人と呼ばれる類の職員もかなりいる。


「お前、さてはコッカトリス達に素材なんかの調達をさせようとか思ってるだろ」


「何よ、できるんだからさせればいいじゃない。講師なんかさせるよりそっちのほうがよっぽど簡単だし、ギルドの利益にもなるわ」


「馬鹿言ってんじゃねーよ。冒険者が育てば、素材の調達ができる人間が増えるだろうが。将来的に言えば、そっちのほうがギルドの利益になるだろうが」


「はぁ?そんなの、いつになるかわからないじゃない。大体、育ったからって素材の調達をそもそも受けてくれるかわからないし、モルトにずっといるかどうかもわからないじゃない。冒険者たちはみんな、一度は王都に憧れるものよ?せっかく育てたのに、王都に行かれたら意味ないじゃない!」


ギャーギャーと言い合いを始めるジェルマとジェシカ。二人の様子に、シエラは呆然となりながらも、顔を引きつらせる。


(…こ、こんな会話、冒険者の人たちに絶対に聞かせられない…!)


シエラは思い切って、あの!と声を上げた。二人の言い合いがピタッと止まり、視線がシエラの方へと移る。


「シエラちゃんはどうなの!?こんなののギルドなんかより、うちの方がいいわよね!?うちは残業は少ないわよ!?」


「あ、てめぇ!おい、シエラ!こんな奴の所より、今のままでいいよな!?」


思わずジェシカの、残業が少ない、という言葉に目を輝かせるシエラだったが、コホンと咳ばらいを一つして口を開いた。


「ジェシカさん直々のお誘いで、大変光栄ではありますが、私は、第1ギルド所属のままがいいです」


勝ち誇ったような表情でどや顔をするジェルマと、信じられない!という絶望に近い表情を浮かべるジェシカ。


「残業が少ない、って言うのはとても魅力的なお話ではあるんですが…なんか、コーカス達とこっちに異動してきたら、コーカス達にしかできない依頼が増えて、その分結果的に残業が増えそうで嫌なんですよねー…」


ポリポリと頬を掻くシエラに、そんなことは!とジェシカが反論する。


「無理のない範囲でしかお願いしないわよ!」


「…例えば、どういうことをお願いしようと思ってます?」


シエラが聞く。


「そうね、今ちょっと必要になってるのが、シーサーペントの鱗とキングバトラコフロッグの毒袋、後は…」


「いや、もういいです…」


ジェシカの口から出てきた、シーサーペントも、キングバトラコフロッグも、どちらも討伐推奨ランクはAランクの魔物たちである。


「とりあえず、異動したら確実に残業(というか下手したら出張まで)増える気がするので、丁重に、お断りさせていただきます」


にっこりと笑い、頭を下げるシエラ。ジェシカがそんなぁ、と懇願してくるが、ここで気を許しては絶対にいけない!と、ニコニコと笑顔を浮かべたまま、シエラは黙ってジェシカが諦めるのを待った。


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