承認をお願いします-7
「それでは、こちらへどうぞ」
受付で14時からの会議で来たことを伝えると、受付嬢の1人が案内してくれた。
「ギルド長、第1ギルドのシエラさんがお見えです」
扉をノックして、彼女がそう伝えると、中から「どうぞ」という声が聞こえてきた。
「…失礼いたします」
会議室に通されると思っていたのに、まさか執務室の方へ案内されるとは思っていなかったので、少し緊張しつつ、扉を開けると、ショートヘアの金髪美人エルフの姿があった。部屋の主、ジェシカだ。
「来たわね?そこに座って」
「はい」
ジェシカに促されるまま、シエラはソファに腰かける。コーカスとトーカスも、ひょいっとソファの上に飛び乗ると、シエラの隣にちょこんと座った。
「…今日呼ばれた理由は、ジェルマに聞いてると思うけど…そこの2匹が、例の申請の講師?」
ちらり、とコーカス達を見やるジェシカに、シエラははい、と頷いた。
「なるほど。バルディッドの言っていた通り、確かにコッカトリスのユニーク個体、しかも、2体とも、か」
何かを書類に書き込みながらつぶやくジェシカに、シエラは思い切って、あの、と声をかけた。
「ふ、2人とも能力は申し分なく、人とのコミュニケーションもちゃんと取れますし、きちんとこちらの命令も聞くことが可能な従魔です。人手が足りていない現状打開のためにも、ぜひ、申請の承認を」
シエラの言葉に、ジェシカは「あぁ」と苦笑する。
「ごめんなさい、勘違いさせてるみたいね。承認はもちろんするわ。純粋に、バルディッドの言っていた変わった個体を、直に見てみたかったから、今日は呼んだのよ」
「……え?」
思わず気の抜けた声が出る。
「シエラも知っていると思うけど、ここ、第4ギルドには主に研究を行う職員が多く所属しているでしょ?中でも、バルディッドは、魔物や魔獣に関しては、自他ともに認める変態。その変態が見たこともない個体を、2匹も連れているとなれば、この目で確かめたくなるのが人情ってものじゃない?」
くつくつと笑うジェシカに、シエラは顔を引きつらせる。
(ちょ、ちょっと待って…。え?何それ、じゃぁ、今日ここに呼ばれたのは、単純に2人を見てみたかっただけってこと…?)
あれだけ緊張していたのは一体何だったのかと、力が抜けて思わず肩を落とすシエラに、なんとなく察したジェシカは、すまなかったな、と苦笑した。
「聞いた話では、ゴブリンの集落を壊滅させたのも、そこのコッカトリス達だということだけど…詳しい話を聞いてもいいかしら?」
ジェシカに言われて、シエラは気を取り直して、先日の出来事を、かいつまんで説明した。
「…ちょっと待て。コッカトリスが石化の魔法を使うことは知られているけど…雷魔法も使うですって?」
最後まで説明したところで、ジェシカがシエラに聞く。
「はい、使ってましたね。…え?そんなにおかしいことなんですか?」
シエラが聞くと、ジェシカは本気で言っているのか?という顔をして、ため息をついた。
「コッカトリスに関して言えば、石化魔法を使用しているところしか、確認された事例はないわ。他の属性魔法まで使えるのであれば、通常状態であったとしても、Bランクには荷が重すぎる」
「あぁ…確かにそうですね。私も、ランク変更は検討したほうがいいのでは、と思ってました。ただ、魔法を使用しているところを見たのは、この2人だけなんです。他のコッカトリス達は…まぁ、そんなに付き合いないので知りませんが…」
そう言って、ちらりとコーカスを見ると、コーカスが口を開いた。
「我やトーカスが特殊なだけで、基本的に通常個体のコッカトリスで、我等のように石化以外の魔法を使うものはたぶんいないと思うぞ?」
「そうなの?」
そういえば、ちゃんと聞いたことなかったな、と思いながら、シエラは続きを聞く。
「あぁ。ただ、我等のように進化した個体になると、使える魔法は何も雷に限った話ではなくなるがな。火や水、毒を使うものもいれば、精神攻撃魔法を使う個体もいたはずだ」
「え、何それ。ほ、ほんとに…?」
その話が事実なら、コッカトリスというくくりだけでランク付けしている現状は、少々まずいことになる。
「ちなみに、俺は、雷の他に、精神攻撃魔法と火魔法も使えるぞ?」
ドヤるトーカスを見て、シエラは目を見開いた。
「え…!?う、嘘でしょ!?知らないんだけど!?!?」
思わず立ち上がるシエラに、トーカスは首を傾げた。
「え?知らなかったのか?」
「聞いてない…」
「ちょ、ちょっとあなたたち!?」
驚いた様子のトーカスに、シエラが叫ぶ。
が、そこにジェシカが割って入った。
「意思疎通ができるとは聞いてたけど…ちょっとまって、そんなにちゃんと会話ができるの!?」
ジェシカはバタバタと近づいてきたかと思うと、ガシッとコーカスをつかみ上げる。
「喋ることができる魔物の話は聞いたことがあったけど、こんなにしっかりと会話が成立するなんて、龍種以外じゃ聞いたことないわよ!?」
「「「ひっ!!」」」
シエラ達は思わず小さく悲鳴を上げる。
ジェシカの目が、まるで長年の獲物を見つけたかのように鋭い光を放ち、本人からあふれ出るオーラは、コッカトリスである2匹ですら、恐怖を覚えるほどだった。
「この子、第4ギルドに譲ってくれない!?」
「「はぁ!?」」
ジェシカの言葉に、思わず声が出るコーカスとトーカス。シエラは何を急に言い出すのかと、思わずぽかんとなる。
「ダメなら、あなた、第4ギルドに移ってこない!?」
今度はシエラの肩をつかみ、ぶんぶんと揺さぶりながら言う。
「いや、それは…」
「ジェルマにはこっちから言っておくから!ね、いらっしゃいな!」
顔をひくひくとさせながらも、ジェシカの目を見たらたぶん、了承してしまう気がしたので、シエラは必死で視線を逸らす。
「そ、その、私の一存では何とも…というか、その、第1ギルドが気に入ってますし、あの、えと…」
もごもごとしていると、コンコン、とドアをノックする音がした。
ジェシカがチッと舌打ちしながら、取込み中よ、と答えると、ドアの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。




