承認をお願いします-6
翌日。
シエラは朝から、できる限りの仕事を終わらせると、壁にかかった時計に視線を移した。時刻が12時を表示しているのを確認すると、カウンターの前に離席中の札を立てて、忘れ物がないか、本日3度目の持ち物チェックを行い、問題がないのを確認し、荷物を持って上着を羽織った。
「よし、それじゃ行ってくるね」
これから戦地にでも赴くかのような表情のシエラに、ルーは少し苦笑しつつも、頑張ってねー、とシエラとお供の2匹を見送る。
「あれ?姐さん、今日何かあるんですか?」
シエラを見送っていたルーに、オーリが聞くと、ルーは笑って、第4ギルド、とだけ答えた。その言葉に、オーリは何かを悟ったような表情になりながら、シエラの後ろ姿に向かって、手を合わせていた。
「とにかく、今日は何が何でも、2人の講師申請の承認ハンコをもわらないとだめなの。だから、絶対に、絶対に!大人しくしててよ?」
戦の前の腹ごしらえだ、と、広場にある、大盛り料理で有名な料理屋に入って、シエラはガツガツとご飯を食べながら、コーカスとトーカスに本日もう何度目になるかわからないお願いをしていた。
「シエラよ。そう何度も言わなくてもよいと言っているだろう?もう、いい加減、聞き飽きたぞ?」
ため息交じりに、山のように盛られた野菜を食べながら、コーカスが言う。
「心配するなって。そもそも、今日は別に、何かと戦うわけじゃないんだろう?ただ、シエラが話をするのに、俺たちがついて行って、顔を見せるだけ。それだけなんだろう?」
野菜スープをちびちびと飲みながらいうトーカス。
「少々、気負いすぎではないのか?正直なところ、我等より、シエラの方がよっぽど心配だぞ?」
コーカスがちらりとシエラの方を見て言う。
「えぇ?そ、そんなこと」
「あるぞ?朝から何度も、カバンの中身をチェックしたり、書類を見返してはため息をついているし。少しは落ちつけ」
「うっ…」
コーカスの言葉通りの行動に心当たりがありすぎて、シエラは小さくため息をついた。
「だって…もしこれで、コーカスとトーカスの承認がおりなかったらと思うと…」
「そもそも、承認がおりなかったら何か問題があるのか?」
「え?」
トーカスの言葉に、シエラは思わず固まる。
「承認がおりなかったら、俺たちは寮にいられなくなるとか、そういうことがあるのか?」
「いや、えっと…そんなことはないよ?そもそも、寮に関しては、別で申請あげて、承認をとってあるから、関係なくて」
シエラが答える。
「なら、承認がおりないことに何の問題があるのだ?我らが街にいられなくなるわけではないのだろう?」
山のように盛られていたサラダを綺麗に平らげたコーカスが、お腹をさすりながら聞いてくる。
「承認がおりれば、我等はギルドに雇われることになり、給金も発生するということだったと思うが、承認がおりなかったとしても、我等は今まで通り、シエラとともに寮で生活をすることはできるし、休日にシエラに街の外に連れ出してもらえれば、狩りだってできるではないか」
「た、確かに…」
なんだか鶏に言いくるめられているみたいで、少し気持ち的に納得がいかないが、コーカスの言っていることは、間違ってはいない。
「だから、そう気負う必要はないだろう?それに、今回承認がおりなかったら、今後ずっと、承認がもらえない、というわけでもないのではないのか?」
コーカスの言葉に、ハッとなる。
「そうそう。別に承認がもらえなかったからって、シエラがギルドから追い出されるとか、俺たちが殺されるとか、そういう話じゃないんだろ?なら、今回ダメだったとしても、次また挑戦すればいいんじゃねぇか?」
目からうろこが落ちるとは、こういうことなんだろうか、とシエラは思わず二人を見つめた。
「まぁ、だから。お前はいつも通りのシエラで、承認もぎ取りに行けばいいじゃね?」
野菜スープを綺麗に平らげ、野菜盛りも2皿完食し終えたトーカスが、びしっと翼を前に出して言った。
「ありがとう。でも…なんでだろう、なんか、すごい良いこと言ってくれてるのに、もやっとする」
「おい!」
シエラの言葉に、トーカスが怒る。
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ。ありがとう、2人とも」
知らず知らずのうちに、承認をとらないと絶対にダメだ、と思い込んでいた。だが。2人のおかげで、それはただの思い込みであることに気づくことができた。
「よし、お腹も膨れたことだし、行こうか、第4ギルドへ!」
シエラはそう言って、出口へ向かい、思っていたよりも高くついたお会計に、若干涙目になりつつも店を後にした。




