表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/77

第十二話

 凛香のお嫁発言により、幹雄パパは動揺を隠しきれないでいた。

 が、それも僅か数秒程度。

 あっという間に冷徹な表情に戻る。


「お父さん。和斗くんは私の夫なの。理解してくれた?」

「……」


 なぜか念押しするように伝える凛香。

 そして無言の幹雄パパ。

 俺は正座をした状態で動けないでいる。

 幹雄パパのリアクションが全くもって予想できない。

 怒る? 戸惑う? 発狂する?

 否。

 幹雄パパのリアクションは、そのどれらでもなかった。


「和斗くん。君の置かれた状況は理解した」


 冷静に受け止めることだった。

 幹雄パパは凛香のお嫁宣言から事態を把握し、見事に受けきった。

 それは確かに、一家の大黒柱と呼ばれるに相応しい落ち着きっぷりだった。

 逆に俺が『え、そんな反応でいいの?』と困惑するほどである。


「お父さん。私たちの関係を認めてほしいの」

「認めなければ……どうする?」


 どこか試すような言い方に、凛香はハッキリと告げる。


「駆け落ちするわ」

 ――――えっ!


「家族やアイドルを……投げ出すというのかね?」

「……悲しいけれど、それも仕方ないことかもしれないわ」


 お、おいおい。何を言ってんだよ凛香。

 そんなことを親の前で言ったらダメだ。

 さすがの幹雄パパも烈火の如く怒り出して――――。


「やはり、そうなってしまうか」


 納得するんかい!

 なんなら、ちょっと予想してましたみたいなリアクションじゃん!


「ちょ、ちょっと待って下さいよ幹雄パパ! 本当に良いんですか!? 駆け落ちですよ!?」

「ふむ、早速パパ呼ばわりか。できればお義父さんの方がありがたい」

「ごめんなさいお義父さん! じゃなくて、娘が駆け落ちって言っているんですよ? もっとなんかこう……言うことがありませんか?」

「ないな」

「言い切っちゃった!」

「考えてみよ和斗くん。私の言葉が凛香に届くと思うか?」

「……」 


 思わなかった。

 今の凛香は俺に対する好意に従って真っ直ぐに進むだろう。

 それもひたむきに、真っ直ぐ、全ての障害物をぶっ飛ばして。


「二人の関係を否定すれば、それは強い力となって反発してくるだろう。ならば先に認めた方が将来に繋がる」

「……そう、ですね」


 腕を組み、前を見据える幹雄パパ。

 俺は重く頷くしか無かった。


「ありがとうお父さん。私たちの関係を認めてくれて」


 そう言いながら凛香は俺の横に腰を下ろす。奥さんのように傍に寄り添ってきた。


「ところで君たちは、どこまで関係が進んでいるのかね?」

「変なこと聞かないでお父さん」

「すまない。しかし、気になるのだ」

「……手を繋いだところまでかしらね」

「……和斗くん?」


 ウソだろ? と言いたげな視線を送ってこられたので、俺は事実ですと頷く。


「些かプラトニック過ぎやしないか?」

「私たちのペースで関係を深めていくの」

「……なるほど、香澄が慌てるのも理解できる」


 幹雄パパは重く頷き、深く息を吐き出す。

 やはり俺たちの進展は、平均に比べて鈍亀レベルだったようだ。


「まあ、清い交際をしてくれる分には問題ない。そのまま頑張りたまえ」

「あ、ありがとうございます」


 俺は深々と頭を下げる。

 一応、認めてもらえたようだ。


「あとは若者たちだけで過ごすといい。そろそろ私は行くとするよ」


 幹雄パパは重い腰を上げると、俺たちを軽く眺めてからリビングから出て行った。

 父親の重圧から解放されたおかげか、喉のつまりが取れたような気がする。


「和斗くん、大丈夫?」

「あ、あぁ」

「私のお父さん、いつもしかめっ面をしているのよ。感情が分からなくて困ったでしょう?」

「……そうでもないかな」


 口には出さないけど、凛香に似てるなーっと思った。

 いや凛香がお父さんに似ているのか。

 どっちでもいいや。


「それと……和斗くん」

「なに?」

「私が出かけるまで……まだ時間があるの」

「そうだな?」


 凛香が出かけるのは昼頃。今は午前。

 確かに時間はある。


「昨日……寝落ち、しちゃったでしょ?」


 そう問いかけてきた凛香の頬は、薄っすら桜色に染まっていた。


「……凛香?」

「続き……しない?」

「――――っ」


 そ、それはつまり……?

 ピンク色的な思考が脳内を支配し、ツバをごくっと飲み込む。


「昨晩のことだけれど、和斗くんの寝顔を見ていると我慢できなくて思わず……」

「お、思わず?」

「舐めちゃったの」

「え、どこを? どこをですか?」

「も、もうっ。聞かないでよ……っ」


 赤面顔を背ける凛香。

 その仕草は猛烈に可愛いけど、ちょっと待ってくれ。

 どこを舐めたかによって、こちらの心境が大いに変わってくるぞ。


「凛香。どこを舐めたか教えてくれ」

「……そんなことよりもね、和斗くん……」

「ちょ、凛香?」


 両肩を掴まれ、そのまま床に押し倒された。

 凛香の顔を見上げる。

 欲望に濡れた顔をしており、その瞳は艶めかしい光を帯びている。

 もはやご馳走を目の前にした獣だった。


「もう……我慢できないの」

「っ――――」


 ガチだ。ガチのやつだ。

 俺を押し倒した凛香の息は荒く、また俺の両肩を掴む手にも力が込められている。


「和斗くん……」


 唇を重ねようと、ゆっくり凛香が顔を近づけてくる。

 俺は抵抗することができず、目の前の唇を凝視するしかなかった。

 あぁ、ついにファーストキスが……!


「すまない。忘れ物を取りに来たのを忘れていた――――なっ」


 声の主は幹雄パパ。リビングに帰ってきた。

 今まさに行為に及ぼうとしていた俺たちを見つめ、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「えと、お義父さん。これは違うんです」

「…………さて、忘れ物は別の部屋だったか」


 俺に目を合わすことなく、幹雄パパはリビングから去って行った。

 表情からは一切の動揺を感じられなかったが、彼の脳内はお祭り騒ぎになっていたことだろう。

 なんてこった。幹雄パパに見られるとは……!


「和斗くん。……やっぱり今度にしましょうか」

「はい」


 さすがの凛香も我に返ったらしい。

 ちょっと気まずそうな顔をしていた。

 まあ、うん。それが正しい反応だと思う。

 幹雄パパが家から出て行った後、俺たちは昼頃までネトゲをして過ごした。

 結局、俺たちを元気にするのはネトゲ。

 いずれはゲーマー夫婦か。


「今日のレッスン、休もうかしら。このまま和斗くんとネトゲをしていたいわ」

「それはダメだろ……」


 何があっても最後はネトゲに帰ってくる……。

 これが俺と凛香の関係らしい。

 とはいえ……。


「花火大会、か」


 昨晩の凛香の寂しそうな顔を忘れることはできない。

 夏休み前、橘が花火大会はリア充の代表的なイベントと言っていたしな。

 黒い平原の花火大会ではなく、なんとかしてリアルの花火大会に行けないだろうか。

 そんなことを考えながら、俺はカズの隣で釣りをするリンを見つめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっと時間を作れたぁ..... テスト期間テスト期間テスト期間テスト期間テスト期間 って五月蝿いじゃぼけぇ!w どーせ結果は前のと変わらんだろぉが!(だいたい235人中189位) 良かった
[良い点] 娘「嫁」 父「誰かアイツを止めてくれぇー」 娘「駆け落ちする」 父「無理ゲーやん(´・ω・`)」
[一言] "o(>ω< )o"ヤダヤダ!!"o( >ω<)o" 幼女の出番ないとヤダー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ