第二十四話
ネトゲを通じて清川との一件が解決し、平穏な日常が戻ってくる。
これからは人気アイドルで忙しい凛香と、時間があれば一緒に過ごそう。
そんなふうに思っていた矢先のことだ。凛香がやたら二人きりになりたがるのだ。
この間は四人でお昼休みを過ごすことを望んでいたのに、最近は二人きりで過ごしたがる。平日の夜のこともそう。忙しいはずなのに、一緒にネトゲをしたがるのだ。
ちょっと過剰なくらいに凛香が俺との時間を作ろうとしている。
「大丈夫なのか……?」
凛香の身が心配だ。ただ一緒に過ごしたいというよりは、何かに焦り、怯えを抱いているように見えた。一体どうしたというのか。それとなく聞いてみても「大丈夫よ」の一言を返される。そして「私たちは夫婦だから」と脈絡のなく告げてくるのだ。
不安になって胡桃坂さんに相談してみることにしたが、あいにく今日は休み。アイドル活動との兼ね合いだろう。そこで清川に尋ねることにした。
昼休みを迎え、いつもの空き教室に向かう。そこで待っていた清川と合流し、最近の凛香の様子について尋ねてみた。
「最近の凛香先輩ですか? とくにおかしいところはないですが…………あ、よく目が合うようになりましたね。それくらいです」
「そうか……。最近の凛香、どうしてか俺に会おうとするんだ」
「惚気ですか?」
「違う。今までの凛香なら冷静な一面もあったんだよ。けど昨日、一緒に帰りたいと言い出してさ……」
「それは……無理ですわね。凛香先輩も分かっているはずですが……」
俺も一緒に帰りたい気持ちはあるが、現実的に考えて不可能だ。そのことを凛香も十分に分かっているはず。いや、分からないほどに追い込まれているようにも見えた。アイドル活動に支障をきたし、普段の言動に影響が及んでいるのかと思ったのだが……。
清川の話を聞く限り、何もなさそうだった。
「あれではないでしょうか。なんとなく好きな人に甘えたい、みたいなことでは?」
「甘え……とは少し違う気がするんだよな。でも同じ女性の清川から意見をもっと聞きたい」
「そう言われても困ります。私はまだ恋愛をしたことがありませんので」
「じゃあ想像で」
「うーん…………」
腕を組み、うんうんと唸る清川。本気で分からない様子。
凛香の様子がおかしいことに対して、ネトゲで結婚=リアルでも夫婦を考えればそれほど気にする必要はないかもしれない。そう思うが、何かに焦っている感じの凛香を見ると不安な気持ちが込み上げてくるのだ。何とかしてあげたい。
「申し訳ございません。私にはちょっと……」
「そうか……。いや、ありがとう。アイドル活動の方で何かあったわけじゃない、そのことを知れただけでも良かったよ」
「私も少し様子をうかがってみますわ。凛香先輩は私にとって大切な先輩であり、スター☆まいんずの支柱ですから」
本気で心配そうな表情を浮かべる清川は、決意したように胸の前で拳を握りしめた。今の言葉からも分かる通り、凛香は皆から頼られる存在。色んな意味で凛香の力になりたいと、そう思わされた。
☆
この数日間、私なりに和斗くんの気を引こうとしたけれど、それは無駄だったかもしれない。またしても旧校舎の一室で密会する和斗くんと綾音を見て、私はいよいよもって打つ手がなくなったと絶望した。
今の……今の私ではダメなのかしら。
☆
凛香の様子がおかしい。その理由が分からないまま数日が過ぎた、ある日のこと。
登校した俺は自席につき、珍しく凛香が来ていないことに気づく。俺よりも早く席に着いてることが当たり前なのに、今日は教室内にいなかった。休みだろうか? それしか理由がない。アイドル活動で忙しいのだろう。
寂しい気持ちに包まれた、机に頬杖をついて窓からの景色を眺める。
「み、水樹さん!? 水樹さんなの!?」
「うお!? イメチェンか!? あの子に似てんじゃん!」
わーわーと騒がしくなる教室内。水樹という名前が出たことから、凛香が登校してきたのだろう。それにしても大げさな反応するクラスメイトたちだ。
気になった俺は窓から視線を逸らし、教室の入り口に顔を向ける。目玉が飛び出そうになった。そこに立っていたのは確かに凛香だったが――――。
「お、おは――――ご、ごご、ごきげんよう、みなさん」
ぎこちない上品な挨拶を心掛けたのだろうか。不慣れな笑みを浮かべた凛香の格好は、お嬢様というか、清川をイメージさせるものだった。編み込みの入った金髪を歩くたびに揺らし、いつもより規則正しい動きを見せている。誰もが見ても分かるほど、髪型が完全に清川の真似だった。…………なぜ?




