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第十八話

 入浴をすませ、ほどなくして乃々愛ちゃんの就寝時刻になる。22時。日ごろからネトゲをしている俺はもっと遅くまで起きているが、明日に備えて同じタイミングで寝た方がいいだろう。


「かずとお兄ちゃん。ねよー」

「いいよ……え、一緒に?」

「うんー。凛香お姉ちゃんも一緒がいいー」

「いやそれは……ちょっと」

「んぅ? いやなの?」

 

 可愛らしい水色のパジャマを着た乃々愛ちゃんが、俺の手を引っ張りながらお願いをしてくる。断られそうな空気を感じ取り、不安げに瞳を揺らしていた。幼女の乃々愛ちゃんと一緒に寝ることは問題ない。ただ、同じ年ごろの凛香も一緒だと話は別だ。そこまで心の準備はできていない。


「和斗くん。では寝ましょうか」

「……随分と余裕だな」

「余裕も何も、夫婦が一緒に寝るのは当たり前のことよ。何も気にすることないわ」

「肌を見せ合うのは早いとか言っていたのに?」

「それと話は別じゃないの。ただ同じ空間で寝るだけ……一切問題ないわね」


 表情を一切変えることなく、凛香は当然のように言った。小学生ならともかく、高校生の男女が一緒に寝る……それは色々と意識させられることだが、凛香は全く気にしていない上に、発想にもない様子だった。ある意味で乃々愛ちゃん並みに無邪気だ。


「かずとお兄ちゃん、ねよー」

「では寝ましょうか、和斗くん。……ついに愛する夫と――!」


 期待に満ちた姉妹を前に、もはや断る余地はなかった。乃々愛ちゃんに手を引っ張られ、凛香の部屋へ。乃々愛ちゃんを真ん中に、俺たち三人は凛香のベッドに潜り込んだ。部屋の照明を消して真っ暗になる。視界が効かないからこそ、すぐ近くの気配を感じ取れた。心臓の音がやかましい。


「ねね、手をつないでー」


 乃々愛ちゃんが俺と凛香に要求してきたので、手を握ってあげる。凛香も握ってあげたのだろう、乃々愛ちゃんは嬉しそうに「えへへ」と小さな笑い声を漏らしていた。


「素晴らしいわ……これぞ夫婦の形よ。将来、こうして和斗くんと私の子供を入れて、三人で毎日眠る日々を送れるわね」


 めちゃくちゃ気が早い凛香が、ウットリとした声で未来を描く。そんなことを人気アイドルから言われては、無条件にドキドキさせられるじゃないか。

 

「すぅ……すぅ、すぅ……」


 規則正しい寝息がすぐ隣から聞こえる。乃々愛ちゃんは夢の世界に旅立ったようだ。俺もさっさと寝よう。凛香のベッドで寝ているこの状況、色んな想像が膨らんで寝不足になりそうなのだ。とにかく寝る努力をした方がいい。そう思うのだが、かえって目が冴えてくる。呼吸をするたびに、凛香の匂いがして鼓動が強くなっていた。……困ったな。


「和斗くん。まだ起きてる?」

「…………うん」

「いつもはネトゲをしている時間帯だもの……。眠れないのは当然よね」


 俺は天井を見つめながら凛香の言葉に相槌を打つ。静かな時間が流れる中、凛香はさらに言葉を重ねた。


「私たちは夫婦よ。心の真価が問われるネトゲにおいて私たちは愛を確かめ合い、結婚したの。つまりリアルでも魂における結びつきをもって夫婦になった……。そして和斗くんからも告白をしてもらえて…………ええ、私はとても幸せよ」

「凛香……?」


 何を言いたいのだろうか。


「和斗くんはとても魅力的な男の子だから、私以外の女性から言い寄られる可能性は十分にある。モテる男の定めね……。ふとした時に、魔が差すこともあるかもしれないわ」

「えーと、浮気を疑ってる?」

「…………どうかしらね」

「…………」


 なんか怖いな。直球に尋ねてくるのではなく、外堀を埋めていくような遠回しな言い方だ。しかし俺は浮気なんてしていない。そもそもする相手がいない。問題ないだろう。


「何があろうと、私が和斗くんの妻よ。和斗くんを一番理解しているのは私で、和斗くんを一番に愛しているのはこの私、水樹凛香……。だから、もっと私を見て」

「…………うん」


 ひょっとしたら、明日のライブを考えて緊張しているのでは?

 もしそうなら俺なりに励ましてあげたい。


「俺はいつだって凛香を見てるし、応援してる。明日のライブもスター☆まいんずじゃなくて、その……凛香を見にいくわけだし。見てるよ、ちゃんと」

「………………ありがとう」


 妙な間はあったが、凛香は落ち着いた声音でお礼を口にした。

 

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