第二十六話
「和斗くん。今からご飯の準備をするから、リビングで適当に寛いでいて」
「わかった」
リビングまで案内された俺は、凛香に促されてソファに腰掛ける。この家に来るのは二度目だ。
「テレビをつけてもいいわよ」
台所に立つ凛香が言ってくる。以前のように髪型をポニーテールにしてエプロンを付けていた。家庭的な人気アイドルの姿に胸が熱くなる。
「……とりあえず、テレビをつけるか」
眼前のテーブルに置かれたリモコンを拾ってテレビの電源をつける。
昼の情報バラエティ番組が始まっていた。
しかもアイドル特集をしており、ちょうどスター☆まいんずについての会話が繰り広げられている。
胡桃坂さんの凄まじいエネルギーを軸に、どんどん進化を続けるアイドルグループ……などなど。
他にも水樹凛香は歌姫と呼ばれてもいい少女と評価されていた。
「やっぱりすごいなー」
信じられるか?
俺、彼女たちと日常的にネトゲをしてるんだぞ。
しかも今は凛香の家に上がり込んでいる。
それから数分ほど経過して凛香から昼食の声がかかる。
ソファから立ち上がり、ダイニングテーブルの席に着く。
テーブルを見ると、見るからに美味しそうなチャーハンが用意されていた。
腹の虫が鳴るような香ばしい匂いを漂わせている。
丁寧に刻まれた青ネギや煮豚も混ぜられており、ご飯を含めた全体の色合いも素晴らしい。
見た目だけなら店で出されるものと同等だろう。
「凄いな凛香。これ絶対に美味しいだろ」
「そうね。小さい頃から料理は好きだったし、それなりに自信があるかしら」
謙遜することなく言ってのける凛香。
この堂々とした振る舞いもクール系アイドルならではだな。
ふと凛香が自分のチャーハンを持って俺の隣に腰を下ろす。
隣で食事をする気らしい。
「和斗くん、食べましょう」
「お、おぉ。……いただきます」
手を合わせてから用意されていたスプーンを右手に、ドーム状に盛られたチャーハンを一口すくいあげる。
口に運んで咀嚼……。
「めっちゃ美味しい……!」
俺はグルメ評論家ではないので、何がどう美味しいかは具体的に表現できない。
ただとにかく美味しい。
その一言に尽きる。
というよりも女の子の手料理を食べたのはこれが初めて。
仮に黒焦げになった失敗作だろうと美味しく感じたことだろう。
「良かったわ。和斗くんの口に合っていたようで」
「本当に美味しい。今まで食べてきたチャーハンの中で一番美味しいぞ」
「ふふ……。実はそのチャーハンには特別なものを入れておいたの」
「……特別なもの?」
思わずスプーンを止めて凛香の顔を覗いてしまう。
なぜか怪しげな笑みを浮かべて瞳を光らせていた。
「そうよ、特別なもの。ふふ」
「……」
……このチャーハン、食べてもいいやつなのか?
気持ちの問題だろうけど、急にお腹の調子が悪くなってきた気がする。
い、いやいや。
変な物は入ってないって。
恐らく愛情を込めた~みたいな可愛いことを言いたかっただけなんだ!
そうに違いない! いや、そうであってくれ!
「どうしたの和斗くん? 食べないの?」
「あ、うん……」
「良かったら私の分もあげるわよ」
「そういうわけにはいかないって。凛香もしっかり食べないと」
「私はいいの。和斗くんが美味しそうに食べてる姿を見ているだけで満足だから……」
心底幸せそうに微笑む凛香。
こりゃもう食べるしかない。
嫌な予感を振り払い、俺は凛香特製チャーハンを口に運び続けるのだった。
注意:健康に害を及ぼす材料は含まれておりません。ご安心ください。




