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037.光差すガーデン、ふたりの怪盗!?-06

 数日後、月の輝く晩。

 アルカス王国北東部のブリューテ領、本宅に隣接した鍛錬場。

 鍛錬場といっても、土がむき出しの地面を柵で囲い、申し訳程度に鎧を着せた訓練人形がたたずむほかには、何も無い広場だ。

 キルシュからの情報では、隣接する(うまや)や兵舎を含めて今は使われておらず、警備の巡回もほとんどないらしい。追い出されてすぐは、ここでこっそり寝泊まりをしていたんだとか。


 怪盗衣装に身を包んだフロルは、厩の陰で相方を待ちながら、侵入のためのプランを練っていた。


 現在、本宅の屋敷内に暮らしているのは、引退間近の当主とその妻。

 このふたりは長兄シダレの家族をともない旅行中。シダレ本人はエソール共和国との国境付近に開いたゲートの調査に派遣されており、次兄は別宅暮らし、三男から六男までは城下にある騎士団の宿舎だ。七男は追放。

 その下は全員女子で、長女と次女はすでに嫁いでいる。

 都合、今晩屋敷にいるのは、三女と数人の召使いのみということだ。

 キルシュが一日中ストーキングしてまで依頼してきたのは、このタイミングを逃したくなかったからだろう。


 ――でも、これなら自分でやればいいような気もするんだけど。


 屋敷に残る三女の“ヤエ”は、彼によく懐いていて、勘当にも抗議したという。

 侵入するフロルとしては、破壊の第一宣誓を許されている彼女がアーティファクトの存在や使用に感づく可能性があるぶん、厄介な仕事となる。


 ヤエがよほどに勘に優れていなければセリスのアーティファクトには頼れるが、基本的にはふたりそろって、一般的コソ泥スタイルでの仕事になりそうだ。


 ――それにしても子だくさんなお家よね……。


 子どもが十人。長兄シダレが二十七歳で、ヤエは十五と聞く。

 十二年間のあいだに十人もこさえたということになる。


 どんな人物なのだろうかと、当主とその妻を想像し、失礼で卑猥な妄想をしていると、聞き慣れたささやき声が耳をくすぐった。


「フロルさん、お待たせしました」

「セリス、遅いわよ……ってあなた!」


 セリシールはキモノ姿で現れた。


「わたくしが渡した“ブラッド・ブロッサム二号”の衣装はどうなさったの!?」

「だ、だって恥ずかしいんですの。あんな、身体のラインを晒すような格好。動き回るとスカートの下が見えてしまいますの」

「あなたがそう言うと思ったから、ソックスじゃなくてタイツに変えたのに。ほらみてごらんなさい。スカートをまくっても、下着は見えなくってよ」


 フロルがまくり上げると、セリスはわざわざランタン型の神工物、永久のともしびで照らしてチェックした。


「生地が透けて見えてるかと存じますわ」

「じっくり見るな! どうせ見られないように活動するんだから、このくらい我慢しなさいよ」

「矛盾してますの。見られないなら着物のままでもよろしいかと」

「万が一があるし、気分も乗らないじゃない。あの衣装、可愛いでしょ?」

「否定はいたしませんけど、見るのと着るのとではお話が違います」

「わたくし、あなたとおそろいで着るのが楽しみだったのに……」


 本気でがっかりするフロル。


 しっかりと「おそろい」になるように、自分もソックスとスカートのあいだのかすかな露出を諦めたのに。

 ふたりぶんの新衣装をそろえるのに、金貨だってかなり積んでいる。

 とくに、今晩履いてきている“夜の女王”はアングラの競売場まで足を運んで用意した破壊のアーティファクトなのだ。

 これは、あの素早く動ける赤い靴と似た効果を持つ黒いハイヒールなのだが、正式に呪物に指定されている一品でもある。

 赤い靴は審議中だが、あちらはローファー。かかとの高い夜の女王で加速や大跳躍とくれば、事故が付きまとうというわけだ。


「きゃあ!」


 すっ転んだのはセリスだ。

 フロルは「どんくさいわねえ」と言って、手を貸してやった。


「平らな地面で転ばないでちょうだい」

「だって、この靴、歩きにくいんですの」


 ――あら?


 今、歩きにくいと言った。ハカマやキモノが飛んだり跳ねたりに向かないのは承知しているが、セリスは普段ブーツ履きのはずだ。


「ちょっと失礼いたしますわよ」「きゃあ!」


 フロルは、相方のハカマをがばりと上げた。

 覗いたのはヒールの高い靴とタイツで覆われたおみ足。


「さては、キモノの下に衣装を着ていらっしゃりますね!」

「き、気のせいです。あんな恥ずかしいもの着られません」

「本当? ちょっとお脱ぎになってみて?」

「い、いやです」


 顔を背けるセリス。フロルは容赦なくキモノの袂をつかむ。

 はだけて肩があらわになった。


「あらあら? 普段は下に白い襦袢をお召しになってるはずですわよね?」

「き、着てみたはいいものの、やっぱり勇気が出なくって。踵の高い靴のせいで、来るのも遅れてしまって……。い、いや! ダメですの! お脱がしにならないで!」

「歩きにくいヒールの上にキモノじゃ、怪盗は務まらなくってよ? さあ、潔く脱ぎ捨てなさい! 裸になりなさい!」

「そこまで脱ぐ必要はないかと存じますわーっ!」


 お嬢さまは強引に帯を引っぱった! すとんと落ちるハカマ。

 衣装の形はいっしょ、配色は反転の白を基調に青系のアクセント。

 フロルとは反対に、顔の左半分を隠すマスク。

 黒髪を馬の尾に結い上げれば、怪盗ブラッド・ブロッサム二号の誕生である。


「うん、やっぱり可愛いわ。似合ってる」


 お嬢さまはご満悦である。

 従順なるメイド長にも断られたペアルックを、親友と実現できた。


「ホントですの? ちょっとお胸のあたりが苦しくって」


 はにかみ、胸元をいじるセリス。

 もともと密着する衣装だが、なんだか余分に膨らんでいるように見える。


「わたくしと同じサイズにしたのだけど……。まあ、いいわ。さっさと行きましょ」


 フロルは「白が膨張色だからよ」と思いこむことにした。


 さて、月明かり差しこむ庭をふたりの怪盗が駆ける。

 広い土地、警備も手薄とくれば、屋敷にたどり着くのはそう難しい仕事ではなかった。

 あっという間に屋敷の裏手へと回り、最初の難関へ。


 ぶち当たったのは、施錠された勝手口の扉である。

 セリスは鉛色の玉を鍵穴に宛がうと、第一の宣誓をささやいた。


()の願いは()の願い」


 押し当てられた造形の種が七色に光り、溶けるように鍵穴へ忍びこむ。

 それを回せば、かちりと気味のいい音がした。


「さすが二号、さっそくお役立ちになられましたわね」

「自分で来ると言ったのでこのくらいは……って、一号さんは普段はどうやって鍵をお開けになってますの?」

「そりゃ、あなた。わたくしは破壊の眷属ですから……」


 フルール流開錠術を使えば、鉄の扉だろうと、電子ロックなるものだろうと、なんなら扉ではなくて壁でも、あっという間に開くのだ。

 二度と閉じれなくなるが。


「うちの宝物殿も、そうやって壊されたんですのね」

 がっくりと肩を落とす親友。


 第一関門を難なく突破するも、いきなりピンチに陥った。

 調理場に誰かが居たという話ではない。

 木床にピンヒールが二足、それも片方が不慣れときたら、一歩進むのも大仕事なのだ。


「一号さん、音が響いてしまいますの」

「うっかりしてたわね」

「うっかりし過ぎでは? 普段はどうなさってるの?」


 フロルは黙りこんだ。

 どうもなさっていない。

 見られるの前提の変装だし、ドアは壊すし、ヒールが奏でる音も大好きだ。


「カ、カードで音を消してますの」

 嘘である。

「なるほど、でも本日はヤエ様がお気づきになられるといけないから……」

「そ、そういうことよ……って!」


 悲鳴を殺すも、転んだセリスに巻き添えを受け、眼前に床が迫った。

 とっさに両手をついて、なんとか大きな音を立てずに済ませる。

 ……も、調理台から鍋が降ってきて、フロルのポニテにすぽんと被った。


「気をつけてくださいまし!」

「ごめんなさいまし。でも、ひとつ思いつきましたの」


 二号の提案。このまま、匍匐(ほふく)前進でゆきましょう。

 これなら足音を立てないで済む。

 ふたりのお嬢さまは暗い廊下をずりずりと進む。


「なんだか、小さいころを思い出しますの」

 後方から楽しげなささやき。

「ホントね。でも、見つかったらお叱りくらいじゃ済まないわよ」

「逃げるための作戦も考えてますし、平気ですの」


 気楽なものだ。遊び半分なのはフロルも同じだが。


 とはいえプロだ。


 屋敷の見取り図は、キルシュに見せてもらって頭に叩きこんである。

 今回調査対象となる疑わしき長兄の部屋と、弱みがあれば嬉しいと七男が宣った当主の部屋は一階だ。

 障害となるであろうヤエの部屋は二階。

 特に問題もなく、目標のひとつの部屋のそばまでやってこれた。


「ちょっと待って」

 フロルは停止した。


「人の気配がありますわ……って、こら!」

「うっかり行き過ぎてしまいましたの」

 セリスは停止しないで前進を続け、ひとのお尻に登頂した。


「離れなさいって。シダレさんの隣の部屋から声がするのよ」


 ふたりは壁に耳を当てる。


「……ああ、お兄様。私、お嫁になんか行きたくない」

 若い女の声だ。


「ヤエ様でしょうか? この部屋はどなたの部屋ですの?」

「ここは、キルシュの部屋だったらしいわ」


 フロルは想像する。

 追放された兄を慕う妹、家族は出払い、深夜の屋敷に独りぼっち。

 面影を求め、かの部屋へと忍びこみ、名家の末娘に生まれたさだめに涙する。

 なんて可哀想なご令嬢!


「こんなにお慕い申し上げてますのに。愛してますのに……」


 おや、何か変だぞ。お嬢さまは別のイマジネーションを働かせ、鼻腔を広げて壁に耳を強く押し当てた。



「お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様」



 じゅるじゅるじゅるじゅる、べちょべちょべちょべちょ、ちゅぱちゅぱべろべろ。



「ひいっ!?」

 思わず廊下をずって逃げ、反対の壁に背中をぶつけてしまった。


「誰!? どなたかいらっしゃるの!?」

 気づかれた。

 相方に目配せをすると、セリスはすでに創造のカードを手にしていた。

 小声の宣誓とともにカードが投げられ、天井に刺さってほのかに光る。


『フロルさん、わたくしのこと鞭でぶって』


「はあっ!?」「しっ、お静かに!」

 飛びついてきたセリスの手に口を塞がれる。


 上のほうからセリスの声で妙なセリフが聞こえてきた気がしたのだが。


「キルシュお兄様! 帰っていらしたのね!」


 扉が乱暴に開かれ、全裸の少女が飛び出してきた。

 彼女はどたどたと廊下を走り、階段を踏み鳴らして消えていった。

 遠くで「今、家人は誰もいないわ! 遠慮なく抱いてください!」という叫びが聞こえる。


「何あれ、こっわ……。セリス、あなたいったい何をしたの?」

「ふふ。カードで()を創りましたの」

 口に手を当て、いたずらっぽく笑う相方。


「声って、今あなたの声が……」「わたくしがなんて?」


 フロルは黙った。何か言わせようとしている。

 誘いに乗らずにもう一度訊くと、セリスは「残念」と笑った。


「カードで創ったのは、“願望を映した幻聴”ですの。気になるかたから聞きたいと思っているひと言が聞こえますの」


「あなた、やるわね」

 ヤエの行き過ぎた愛を読み取ってとっさに対応したわけだ。

 あの調子なら、しばらくは兄を探し回るだろう。


「ね、フロルさん、ヤエさんが何をなさっていたか気になりません?」

「気にならない。っていうか、だいたい想像がつくし、キルシュの部屋なんて入りたくないわ」


 と言うものの、すでにセリスのほうは部屋に踏みこんでしまっている。

 しぶしぶついていくと、留守の長い青年の部屋には、明らかに女のにおいが充満していて、えづきそうになった。


「ずいぶんと散らかってますのね」


 部屋自体はベッドと机、武器立てなどの多少の調度品があるだけだ。

 荒れているのはベッドのシーツとその周辺。

 見習い騎士の白マントや、男物の衣装がぐしゃぐしゃになって落ちている。


 ――これ、キルシュに見立ててるのよね?


 ベッドの上には稽古場で使われる木の人形が寝かせられており、頭部の口のあたりや、胸、それから股のあたりが変色しているのが分かった。


 ――あいつ、最低だわ。


 なぜか被害者のほうの評価が下がった。


「これは、呪いか何かなんですの?」

 セリスは人形を指差して首をかしげている。

 うぶな娘だ。溺愛には気づいてもヤエがナニをしていたのか分からないらしい。


 フロルは適当に肯定しておく。


「愛と憎しみはうらおもてって、本当なんですのね」


 セリスの視線の先にはナイフが転がっていた。

 よく見ると、ペースト状の食事の入った器にスプーン、子ども用のおしめもある。

 ヤエは本当に、何をしてたのだろう……。


 それはさておき、フロルは部屋主を罰してやろうと屈みこんだ。


 フルール流隠密術鍛錬法、「ベッドの下を調べる」である。

 怪盗を始めたころ、練習として、住みこみの使用人の部屋への侵入をしていた。

 そのさい、人はベッドの下に「秘密」を隠し持っているということを知った。

 ヨシノのベッドの下には流行りの服が入った衣装箱があったし、花嫁修行に来ていた名家の娘のベッドには、約束の相手と違う男が描かれた紙きれ。

 ある使用人のベッドには鞭とロウソクで、その部屋は相部屋となっており、もう片方のベッドには縄や「くつわ」が隠されていた。


 悔しいのが執事ルヌスチャン・イエドエンシスの私室で、彼が寝ているときに侵入できたことは一度もない。

 留守を狙う手もあるが、それはなんだか負けた気がするからやっていない。


 ――さ~て、キルシュ坊ちゃんの秘密をご開帳~。


 お嬢さまは手をこすり、舌なめずりをしてからベッドの下へと手をつっこんだ。


「……! 何か隠されてましてよ」


 出てきたのは分厚い冊子だ。


「書物ですの?」「ちょっと待って」

 伸ばされた相方の手を制するフロル。


 ルヌスチャンいわく。

 ある世界には、「性的興奮を覚える対象の痴態を納めた品は、ベッドの下に隠すべし」という法律が存在するという。


「つ、つまりこちらの品は……」

 わななくセリスの手。嫁入り前の娘には、口にできない代物だ。

「エッチな本ですのね!」


「大声で言わないの!」

「早く検めましょう!」

 ちょっと鼻息が荒い。


「セリスも、こういうのに興味あるんだ?」

「無いとは言いませんが、そういう事情ではございません」

「じゃ、どういう事情よ」

「この書に示されている女性が、フロルさんに似ていないかチェックしないと」

「なんでわたくし?」


 セリスは鼻息を荒くして、「キルシュはフロルに興味があって近づいた説」を説き、「早く早く」と頬を寄せてきた。


「ないない。あったとしても、わたくしがノーサンキューですわ」


「妹さんがあのような趣味のかたですし、屋敷に出入りされるだけでも心配ですの。それに、カメラもお持ちになってますし、不死身なほど頑丈なんでしょう? 危険かと存じますの!」


 言われてみれば不安になってくる。

 すでに生活の一部を盗み見られていたわけだし、着替えや入浴のシーンに手をつけないとも限らない。


 フロル・フルールは見せびらかすのは好きだが、勝手に見られるのは嫌いだ。


「よし、見てみましょう」


 ところが、それはエッチな本ではなく、人物の情報をまとめたものであった。

 誰かの痴態が描かれる代わりに写真が貼られており、写真のぬしの個人情報に加え、行動パターンや性格などが記されている。


「これは一番上のお姉さん?」


 金髪青眼の娘。ブリューテ家の長女。

 ページをめくると次女。さらに先は三女ヤエ。


「まだ続いてるわね」


 ブリューテ家からは外れ、ほかの家のご令嬢のデータが現れる。

 パーティーに欠かさず現れる娘はもちろん、普段は外に出されない箱入り娘までそろっていて、ちょっとしたお嬢さま図鑑ができあがっていた。

 暗いため文字をすべて読み取る気にはならないが、ともかく、キルシュは女子たちの記録をつけていたようだ。いやらしい。


「あっ、フロルさんのページですよ」


 言われなくても分かってる。

 フロル・フルール。破壊の眷属、トラベラーギルド員、勇者の称号。


「衝動的な行動が多く、言葉遣いも酷過ぎる。疑うまでもナシ。なんのこっちゃ? っていうか、失礼ね!」


 なんの疑いだろうか。騎士団の不正がらみの調査書?

 彼が気づいたのは勘当後だし、ここにそんなものがあるはずはないのだが。


「次のページは……」

 隣で短く息を呑む音。 


 セリシール・スリジェ。創造の眷属。黒髪と黒い瞳が該当。背格好も近似。

 言葉遣い、控えめで献身的な性格なども酷似。

 最有力候補として調査。


 某日、接近を試みる。

 両親は異界での活動中。執事ザヒル・クランシリニには警戒されてしまった。

 現在不仲との噂だが、幼馴染のフロル・フルールを足がかりに近づけないか。


「……!」


 胸の一部をくり抜かれた気がした。

 信用ならないやつだとは思っていたが、ある種、気の置けない付き合いができると思って気に入っていたふしもあった。

 第七遺世界に来て接近したのも、最初からセリスが目的だったのか。


 ――キルシュ。何を企んでいるの?


 ページをめくる。


 フロルの大切なセリシールが、今度は悲鳴をあげた。


 びっしりと貼り付けられた彼女の写真。

 街中で買い物中の姿、個展の会場で来訪者と話しこむ姿、王城の裏で気球に乗りこむ姿……。


 ずっとつけ回していたのか。

 フルール家の領地は、スリジェ家の領地の隣だ。

 活動地点として利用されていたことにも怒りが沸く。


「ちょっとこれ!」


 先日の庭球の写真は、あれだけではなかったらしい。

 窓の外から部屋を覗きこんだのだろう、セリスが着替えのためにキモノも襦袢も脱ぎ去り、フロルから胸を隠して笑ってる姿の写った写真がある。


 それだけではない。なんとセリスの、


()の願いは()の願い。()は誓わん、女神サンゲの名のもとに! 燃え尽きろ!」


 フロルの手にした銀の筒が小さくも激しい炎を吹き、いっしゅんでお嬢さま大図鑑を焼き払ってしまった。

 それから、かの金髪青眼を思い浮かべて腰のつるぎを撫でる。


「キルシュ・ブリューテ。ぶち殺して差しあげますわ」


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