No.94 稀少価値
確かにスーナも、泉狐族は一番神様に近い存在で、妬まれたりしていたって聞いてはいた。
でも、絶滅したって…。
「じゃあ泉狐族はもう居ないんですか?」
「あぁ、女も子供も関係なく、皆殺しにされたって話だぜ。事実、一族の村があった場所は今や廃墟と化してる。あたしも一度父ちゃんとその場所を通った事があったけど、ひでぇ有り様だったよ」
「じゃああいつら…親どころか同じ泉狐族の仲間も居ないのか…」
「話を聞いてると、そのチビ共は自分達が泉狐族って事も分かってねぇんだろ?」
「多分、そこら辺の事は轟狐達からも聞かされてないんだと思います」
「多分、自分達の稀少価値を知って、何か良からぬ知恵を持たれるのを防ぎたかったんだろうな」
稀少価値…結局、あいつらにとってキロとテンは自分達の力を誇示する為の道具でしかないって事か…。
「なんにしても、そいつらが逃げ出してお前らの所に居るって事は大きなアドバンテージだし、何よりチビ共にとってお前ら二人は親も同然だ。しっかり守ってやんねぇとな」
「そうですね、責任持って守ります」
それから、俺はお互いの詳しい近況を教え合った。
「あはは、なんだスーの奴、割とヤキモチ焼きなんだな」
「そうですね、たまにむくれてます」
「まぁそれだけレンの事が好きだってこった。分からんでもないよ」
「ユウさんでもヤキモチ焼いたりとかするんですか?」
「『でも』ってなんだ、失礼な。あたしだってヤキモチ位経験あるよ」
「プリンに?」
「プリンにヤキモチ焼くって何だ!? そんな複雑な感情でプリン食うわけねーだろうが!」
「それって小さい頃の話ですか?」
「いや…違う」
「最近の話ですか?」
「い、良いだろ、あたしの話なんか!」
「自分から言っておいて…」
「そ、それでお前らはどうすんだ?」
「何がですか?」
「何がじゃねーだろうよ。お前、訳も分からないままこっち来ちまったけど、どうやって帰るつもりだよ? 新月まではまだ時間あるし、また都合よく空間の裂けめ(?)が現れる保証もねーし、第一そこに入って無事にお前らの世界に戻れる保証もねぇ」
「そっか、帰る時の事、全然考えてなかった…。そこら辺は明日、じいちゃん達と合流して話してみます」
「まぁなんでも良いけどよ。もう今日は夜も遅いし、お前も休めろよ!」
「お互い様にね」
「ったく、口の減らない奴だよ…」
こうして俺は怒濤の1日を終え、ユウさんの家でやっと眠りにつくことにした。
「じゃあ俺、床で寝るんで。おやすみなさい」
「いやいやいや、ちょっと待てーい!」
「? どうしたんですか、変な声出して」
「変な声て! いや、そこは別にいいんだよ! 何怪我人が床で寝てんだよ! お前が布団で寝ろ!」
「いや、ユウさんだって病人なんだから、ベッドで寝てくださいよ」
「…じゃあ仕方ねぇ」
結局、一つのベッドを二人でシェアすることになった。
当然ながら、非常に狭い。
こんなことなら、スーナの家に行って、そこで寝れりゃ良かったかな。
いや、でも病人を一人残しては行けないし…。
俺がごちゃごちゃ考えている間に、ユウさんはとっとと寝てしまった。
口を開けて気持ち良さそうに寝てる。
「初めてユウさんの寝顔見たけど、寝顔がキロにそっくりだな」
その内、俺もウトウトしてきたので、やがて眠りについた。
次の日…
目が覚めると幾分、体の痛みが和らいでいた。
何やら視線を感じたので、恐る恐る横を振り向くと、ユウさんが既にベッドから起きて、こちらをガン見していた。
「うわ、ビックリした! なに人の顔ガン見してんですか!?」
「いや、寝てたから…」
「まぁ寝てましたけど! なんで寝てる人の顔をガン見してたんですか」
「いやぁ、気持ち良さそうに寝てんなぁ…って」
「ユウさんの方が百倍気持ち良さそうな顔して寝てましたけどね!」
「てめ、コラ、なに人の寝顔見てやがんだ!」
「その言葉、そっくりそのままアンタに返すわ!」
騒々しく朝を迎えると、家に泊めてもらった御礼として、軽い朝食をユウさんに作った。
幸い、食欲はあるらしく、美味しそうに食べていた。
「しっかし、レンは料理が旨いなぁ。家でもレンが作ってんのか?」
「いえ、家じゃ作んないですよ。今は毎日、スーナが朝食を作ってますよ」
「スーの奴が? へぇー、大したもんだな」
「お陰でうちのばあちゃんが助かってて、実の娘の様に可愛がってますよ」
「良いな、家族って感じでよ」
「ユウさんにだって、お父さんが居るじゃないですか」
「父ちゃんと二人で居たって、そんな感じにゃならねぇよ。お互いに照れちまって…」
「ユウさんが照れ屋なのってお父さん譲りなんですね」
「ぶっ飛ばすぞこのヤロー」
朝食を済ませると、じいちゃんと駿が居るらしい村長さんの家に向かう為、準備をしていた。
「いいか、この森を真っ直ぐ行けば、村に出る。後は道とか分かんだろ?」
「はい、色々ありがとうございました。まぁ戻れなかったら、またここに来るかも知れませんけど…」
「いや、縁起でもねぇ事言ってないで、さっさと行ってこい!」
「じゃあまた!」
「おう、気をつけてな」
こうして俺は村長さんの家を目指し、ユウさん家を出た。




