No.84 慕情
俺は風呂から上がると、約束通りキロとテンの遊び相手をしてやった。
「ホラ、お前ら参ったか?」
「きゃははは、くすぐったい!!」
キロとテンに必殺くすぐり攻撃を仕掛けると、二人はケラケラと笑っていた。
じいちゃんも言っていたが、ホントに底なしの元気だ。
泉狐族っていうのはみんな体力バカなのだろうか?
時計を見ると、もう22時を回っていた。
「よし、お前らそろそろ寝るぞ~」
「えー、まだねたくない~」
「寝たくないじゃないだろ? もう夜遅いんだから」
「まだあそぶ~!」
「また明日な! 今日はもう寝なさい」
「いやだ~!」
はぁ…どうしよう、全然寝そうにないぞこれ…。
俺がちびっ子をどう寝かしつけようか悩んでいると、二人の前にスーナがすっと立った。
俺からはスーナの背中しか見えなかったで、何をしているのかは分からなかった。
「ぼ、ぼくたちもうねる…」
「え、あ、そうか、やっと寝る気になったか」
先程まであれだけ駄々をこねていた二人が急に大人しくなり、寝ると言い出した。
「はい、二人とも良い子だね♪ じゃあ御2階のお部屋で私と一緒に寝ようね」
「はーい…」
そうして、スーナは二人を連れて2階に上がって行った。
「スゲーなスーナ、あんなに簡単に二人を大人しくするなんて…」
俺が関心していると風呂から彩ちゃんが上がって出てきた。
「あの、お風呂ありがとうございました!」
「はいはい。なんか飲む?」
「い、いえ、大丈夫です! 気を使って下さいましてありがとうございます!」
相変わらず恥ずかしそうにしながら、そこに立ち尽くしていた。
「あはは、別にそんなに畏まらなくても良いよ」
「ありがとうございます…。お兄さんは優しいですね」
「そうかな? 別に普通だと思うけど…」
「とても温かくて…私にもこんなに親切に接してくれて…。なっちゃんがいつもお兄さんの話をしたり、慕ったりする気持ち、なんだか分かった気がします」
「あ、そうなんだ…」
夏美の奴、一体友達に何を話してるんだろう…。
なんか恥ずかしいんですが。
「なんだかお兄さんと接すると、とても温かい気持ちになれるんです…」
「そっか。まぁよく分からないけど…とりあえず褒められてるって事かな。ありがとう彩ちゃん」
「あの…」
「ん?」
「あの、私! っ……!」
「どうしたの?」
思わず俺は、何かを言いたそうにしている彩ちゃんの顔をじっと眺めてしまった。
「い、いえ、なんでもありません! 今日はもうお休みしますね!」
「あ、うん、お休み。また明日ね」
そのまま彩ちゃんはいそいそと2階に上がって行った。
最後、彩ちゃんが何かを言おうとして言葉を飲み込んだ様に見えたけど、気のせいだろうか?
多少気になりつつも俺はなんとなしにテレビのチャンネルを回していた。
夜のニュースがやっていたので、なんとなくそれを見る事にした。
ニュースを見ていると、どうやらこの周辺での出来事らしい事が分かった。
「あ、これ商店街じゃん。何があったんだろう」
詳細を見ていると、八百屋や肉屋に2匹の動物らしきものが侵入し、いくつか商品を持っていかれたという事だった。
「へぇー、あそこら辺に動物なんて出るんだ…。まぁ多分野良猫の類いなんだろうけど、なんで今更こんなニュースに…」
そんな独り言と呟いていると、動物の専門家らしき人が言うには、猫ではなく狐の類いでは無いかとの見解らしい。
また、もし本当に狐だとしたら、エキノコックスという寄生虫を有している為、見つけても絶対に素手で触れる様な事が無いようにとの事だ。
成程、だからわざわざニュースで取り上げという訳か。
防犯カメラに映っていた映像から、2匹のキツネらしき動物が確認出来たらしい。
そういやウチにいるちびっ子二人も、八百屋から商品を掻っ払ったとか言ってたっけ?
あいつらももしかしたらこんな風にテレビで流れちゃうから気を付けなさいって注意しなきゃな。
丁度アイツらもキツネみたいな耳と尻尾…。
あれ……。
キツネ……耳…尻尾…そして八百屋……。
……。
「お前らかい!!」
思わずテレビに向かって突っ込んでしまった。
しかもあんだけ気を付けてるとか言っておきながら、耳と尻尾丸出しでカメラに映ってんだろうが。
「あれ、レン君まだ起きてたの?」
「うん、少しニュースを。スーナこそ起きたんだ?」
「えへへ、なんだか眠れなくて…」
「そっか。アイツらはもう寝た?」
「うん、可愛い顔してスヤスヤ寝てるよ♪」
「アイツら元気だったもんな~。じいちゃんなんかすっかりくたびれちまって…」
「子供のパワーってスゴいよね!」
「言っても俺達だって、じいちゃん達から見たら、まだまだ子供なんだろうけどな」
「だね」
いつもだったら、この時間居間にはじいちゃんが晩酌をしているので、スーナと二人で居間に居るのは珍しかった。
「明日はアイツらを公園に連れててってやるか。天気も良いみたいだし」
「ふふふ、レン君、もうすっかり二人のパパだね♪」
「そうかなー。それを言うならスーナだって二人のママだろ? 」
「えへへ♪」
スーナはなんだか照れ臭そうに笑い、誤魔化した。
そしてスーナはさりげなく俺の膝の上に乗り、背中を俺に預けた。
スーナの髪からはリンスーの良い香りが漂ってきた。
「座り心地はどうですか、御姫様」
「とてもよろしゅうございますわ、王子様♪」
一瞬、互いに見つめ合うと、何故か二人して吹き出してしまった。
そして、そっとスーナの頭をこちらに寄せて、お互いに顔を近付けて行った。
スーナは目を閉じて完全に俺に身を任せきっていた。
そのままスーナの背中を抱き寄せて、唇が触れるか触れないかの距離まで行った時、何やら後ろから泣き声が聞こえてきた。
「なんだ…?」
後ろを振り向くと、メソメソしながらテンが居間に入ってきた。
「なんだどうしたの?」
「パパとママがいなくなっちゃったから…」
「なんだよ、ここにいるだろ。何処も行かないから大丈夫だよ」
「ホント…?」
そう言いながら、テンは俺の服の袖をぎゅっと掴んでいた。
仕方ないなぁと呟きながら、俺立ち上がってテンを抱っこすした。
「スーナ、今日は4人で寝よっか。俺は床に布団敷いて寝るから」
「分かった! じゃあ私準備してくるね! ふふふ、良かったね~テンちゃん、パパが一緒に寝てくれるだって♪」
そんな感じで俺達は仲良く2階に上がって行った。
そして、俺達は知らなかった。
実は一部始終をたまたま起きてきたじいちゃんとばあちゃんに見られていた事を。




