No.56 轟孤襲来
「女の人の叫び声…。何かあったのかな?」
スーナが不安そうな顔で俺の顔を見た。
「スーナ、俺のそばを離れるなよ」
「向こうの噴水の辺りだな! 引ったくりでもあったか? 兎に角、ここから離れんなよ!」
すると今女性の悲鳴が聞こえた辺りから、今度は男の声が聞こえた。
「そいつを捕まえてくれ! 轟孤だぁ!」
「轟孤? 確か、この町にいる轟孤は人に危害を加えないんじゃ…」
「あぁ、この町にいるのはな! つまりはそういう事だ!」
「外からの轟孤襲来…!」
しかし何の目的があってこの町を狙うんだ?
するとまた噴水の方から今度は汚いダミ声が聞こえた。
「おぉい!! この町にいるのは分かってんだよ!! 諦めて出てきやがれ!!」
なんだ、アイツ誰かを探している…?
「ったく、出て欲しがったら、名前を言いやがれってんだバカ野郎が」
すると何やら炎らしきモノが立ち上っていた。
よく見ると轟孤が近くの店に火を付けたらしい。
もはやメインストリートはパニック状態である。
逃げ惑う人々が一気に押し寄せてきた。
「やばい、身動きが…スーナ大丈夫か!?」
「う、うん…」
繋いでいる手も離されかけている。
このままだと多分持たない。
「仕方ない、スーナしっかり捕まってろ!」
俺はスーナを思いきり抱き寄せ、魔石を取り出した。
「え、ちょっとレン君!?」
よし、人を巻き込まない程度に手加減しつつ…。
「今だ!」
魔石から放出された風の力で、スーナを抱えたまま飛び上がる事に成功した。
「やべ、人混みから出れたのは良いけど、流石に目立ちすぎてる…」
当然の様に、突然宙に飛び上がった俺とスーナは注目の的となってしまった。
「れ、レン君、だから急に魔石使わないでって言ったでしょ! ビックリするんだから~」
「お前らあたしのそばから離れんなっつったばっかだろうが!! 何一瞬で無視してんだ!」
一気に色々と怒られつつ、辺りの状況を確認した。
成程、仲間らしき連中は居無さそうだな。
単独犯っつー事か。
「おい、なんだてめぇ、なんで宙に浮いてやがんだ!」
案の定、轟狐に見つかってしまった。
そのまま、スーナを抱えたまま地上に降りた。
「舐めた態度取りやがって、ふざけんじゃねぇぞ!!」
「くそ、迂闊にも見つかったか」
「いや、そりゃそうだろうよ!! 迂闊過ぎんだろうよ!!」
そうこうしている内に、逃げ惑う人々を払いのけながら轟狐が真っすぐこちらに向かってきた。
「おい、レン! そこに落ちてる木の棒を寄越せ!」
「木の棒? これで良いんですか? ホラっ」
俺は道端に落ちていた木の棒をプリン娘に投げて渡した。
「わっぷ! おいコラ投げて渡すんじゃねぇ、危ねぇだろ! ったく余計な仕事作りやがって!」
文句を言いながらも木の棒を受けると、見事な手捌きで棒を扱って見せた。
「おぉ、すげえ!」
「はは、こんなんで驚かれちゃ困るぜ!」
そう言うと棒を持ったまま、構えの体勢になった。
「ははは、轟孤様に楯突くたぁ良い度胸だ! そんな木の棒で何が出来る!」
「木の棒だって、あたしにかかれば立派な武器なんだよ」
「武器ってのはこういうのを言うんだよ!」
轟孤は魔石を取り出し、素早く炎を発生させた。
そしてその炎は真っ直ぐプリン娘の方へ向かってきた。
「はっ! こんなへなちょこな火、あたしに効くか!」
プリン娘は木の棒を、まるで扇風機の様に物凄い勢いで回転させ始めた。
すると、炎は木の棒に触れた途端、煙が消える様に霧散してしまった。
「んの野郎ぉ、やりやがったな!!」
炎を消されてしまった轟孤は逆上し、今度は殴りかかってきた。
「ばーか、戦闘において冷静さを失う事は、負けと同じだぜ?」
プリン娘はひらりと身を躱し、相手のみぞおちに強烈な一撃をお見舞いした。
「あぐぅっ!」
鈍い音をたて、そのまま轟孤はその場で倒れてしまった。
「すげえ、流石は用心棒なだけあるな…」
「う、うん、動きが違ったね…」
二人で感心しているのも束の間、どこに隠れていたのか、もう一人轟孤が現れ、プリン娘は背後を取られた。
「しまった、もう一人…」
「戦いの最中は隙が生まれやすいって知ってるか?」
そう言いながら、轟孤は手に取った魔石をはプリン娘に向けた。
「お前もな」
俺は魔石を向け、空気砲をイメージした。
魔石から鋭い空気砲が発射され、見事に轟孤に命中した。
「かはっ…! 空気の…弾…!?」
そのまま轟孤は建物の壁に叩き付けられ、気を失った。
辺りを見回したが、二人以外に仲間は居なさそうだった。
居たとしても、とっくにこの場からは去ってそうだが…
「危ねー、上手くいって良かったわ」
「ありがとよ、レン、今のは助かったよ」
「ユウさんもスゴい身体能力ですね。流石は『元』用心棒」
「『元』を強調すんじゃねぇよ」
それから、二人の轟孤は警察…の様な連中にしょっぴかれて行った。
「あいつら…誰かを探している様な風だったな」
「あぁ、あんな騒動起こしまでって事は、余程の重要人物だろうな。目的はさっぱりだが」
「この町に元々いる轟孤に用があったとか?」
「さぁな。まぁ可能性としては十分考えられるけどな」
騒動があったせいか、メインストリートは人が疎らになってしまった。
「さて、いつまでもここにいても仕方ねぇな、場所を移そう!」
そう言って、歩き出した時、見覚えのある男がこちらにやって来た。
「君達、無事にユウに会えたみたいだな!」
プリン娘はぎょっとした目で男の方を見ていた。
「と…父ちゃん…」
親子喧嘩、解決なるか!




