魔物
さて、どうするか……
セリシアを後ろにかばいながらの状態では、戦い方も限られてくる。
あまり動き回るわけには行かない、セリシアと離れたら彼女が狙われてしまうだろう。
そしてもし狙われたら、今の状態で魔物からは逃げ切れないだろう。
どうするか考えていると、魔物がうなり声を上げながら向かってきた。
ヒーローアニメみたいに待ってはくれないよねぇ……
私はとっさに黒魔法で土の壁を作る。
回り込まれないよう自分達を囲うように百八十度くらいの半円をイメージして土を練り上げる。
壁ができるのと同時に詠唱を始める。
「赤の精霊よ! 我が呼び声の元力を示せっ!!」
さっきの炎の玉の詠唱より一段上の中級の詠唱。
先ほどとは段違いの大きさの大玉ができる。
詠唱を終え、いつでも撃ち出せるように集中する。
ばごっ! と大きな音のあと、土の壁が崩れていく。
がらがらと崩れるそれを魔物が乗り越えてくる。
ここだ!
「いっけええええ!」
またも魔物の顔にクリーンヒットする。
派手な爆発音と煙を残して魔物が後ろに吹っ飛ぶ。
これ頭ミンチにしちゃったかな?
私は壁の瓦礫を乗り越えて覗き込む。
魔物の頭の毛は今の魔法で大半が燃えてしまい、その下の皮膚も焼け爛れている。
はっきり言ってぐろい。
まぁ私がやったんだけど。
さっきまで恐怖心や戦闘でアドレナリンが出てたからか、セリシアの傷を見ても気にしなかったが、落ち着いた今はくるものがある。
その魔物の状態と肉の焼ける匂いに顔をしかめながら瓦礫を乗り越え警戒しながら近づいてみる。
「カレン様!」
後ろでセリシアが不安そうに声をかけてくる。
たしかに危ないかもしれないが、死んだかどうか確認しなければ離れるわけにも行かない。
魔物は口から血を流し、ピクリとも動かない。
一応いつでも撃てるようにさっきと同じ中級の赤の魔法を発動させておく。
炎の大玉をかざしながら近づき、足で魔物をつついてみた。
動かない。
さっきの爆発はけっこうすごかったからな。
もう少し近かったら巻き込まれてたかも、今度から気をつけよう……
私はもう一度つついて反応がないのを確認して魔法を解く。
「セリシア、魔物は死んだみたいだよ。さ、早く帰って治療しないと」
そう言ってセリシアの方へ歩み寄る。
私は青の魔法での回復はよくわからないから、早く帰ってアーレに見てもらわないと。
「カレン様!! 後ろっ!!」
私はとっさに振り向いた。
どんっと右腕に走る衝撃。
遅れて焼けるような痛みが走る。
「ぐっ……がぁあああ!!」
くそっ!! やられた!!
死んだ振りか!?
魔物ってそんなに頭いいのか!!
そんな疑問や考えが一瞬にして痛みにかき消される。
私は無属性で身体強化し動く左腕を振りかぶり、思いっきり魔物の鼻っ柱を殴りつける。
だが顎の力は緩まない。
みしみしと骨が軋む音が伝わってくる。
やばい。
無属性で強化しているが、このままだと噛み千切られる!
「は、なぁ、せええええ!!」
だが、蹴りを入れても殴っても外れない、引き抜けない。
だんだんと痛みと流れ出る血のせいで意識が朦朧としてくる。
そうだ、こいつの体内で魔法を打ち出してやれば!
私は右腕に意識を向ける。
が、右腕の感覚が無いためか、魔力をうまく流せない。
くそっ! と悪態をつきながら、他の方法を探す。
左手で炎の玉を打ち出そうかと思ったが、さっきの威力をこの至近距離で使えば私も吹き飛んでしまう。
近距離で高威力で発動できるもの。
黒魔法で石を打ち出すか?
いや、あれくらいじゃほとんどダメージを与えられないだろう。
緑魔法で衝撃波を作るのはどうか?
それくらいじゃこいつは倒せそうにない。
どうする?
どうする……
近距離で高威力……
朦朧する意識の中、前世の記憶がフラッシュバックしてきた……
あぁ、これが走馬灯だろうか。
懐かしい景色。
思い出。
その時私は思い出した。
近距離で高威力。
私が前世のゲームで得意としていた武器がそれじゃないか!
「ぐ、がああああああああああああ!!」
叫び意識をはっきりとさせる。
前世のゲームで得意だった武器。
それを魔法で再現すれば!
落ち着け、落ち着けばできるはず!
まず黒魔法でパチンコ玉ほどの石をできるだけ硬くたくさん作る。
形は不揃いでいい、だができるだけ硬くする。
それを二十センチくらいの太さの円柱の石のケースで包む。
そしてそれを包むように黒魔法で筒をできるだけ硬く、硬く作る。
銃身の変わりだ。
発射の時砕けないように硬く、硬く!
あとは火薬の代わり、赤魔法で筒の中にある石のケースの後ろに炎の玉を作り、できるだけ魔力を込める。
「うっ……ごぉぇ」
私は吐いた。
くそ、もう魔力が無い。
当たり前か、こんなにも同時に無詠唱で魔法を発動して、さらに細かく制御しているのだから。
だが、これで最後だ。
決まらなければこの魔物に容赦なく殺されるだろう。
吐いたものに血が混じる。
周りの音が聞こえなくなったきた。
痛みも無い。
眠く、重くなってくる頭を、意識をどうにかつなぎとめる。
セリシアが何か叫んでいるが、聞こえない。
大丈夫だよ。
これで決めるから。
ちゃんと言葉になったかどうかわからないが、そうセリシアに言う。
そして魔法を、開放する。
「ああああああ!!」
閃光が走り一瞬目の前が真っ白になる。
左手に走る衝撃。
上がる血しぶき。
濃厚な血の匂い。
私の意識はそこで途切れた……
~~~
どうなった……
魔物は……
そうだ、彼女が私をかばって怪我をして……
セリ、シア……
「セリシアァ!!」
「は、はいっ!! なんですかカレン様!!」
あ、セリシアがびっくりして敬語になって……じゃなくて!
「セリシア! 傷は? 魔物はどうなった!?」
「えっ? え~とぉ、あっ! アーレ様ゴルドール様! カレン様が目を覚ましました!!」
ん? アーレ達がいる?
助けに来てくれたのか?
私は全く状況を把握できずにきょとんとしてしまう。
「カレン様、もう大丈夫。魔物はカレン様が魔法でたおしたから」
私が、倒した?
そう、か……
あの魔法は上手くいったのか。
そうか、そうか。
私はその事実にほっとする。
さっきまで気が動転して気がつかなかったが、ここはうちの私の部屋だ。
そうだ、魔物よりセリシアの腕だ。
「セリシア、君の腕は大丈夫なの?」
セリシアの腕はかなりの重症だったはずだ。
だがセリシアは笑顔で左腕をあげてアーレ様が治してくれました! と嬉しそうに言った。
よかった。
傷の痕もあまり残ってないようだ。
セリシアは美少女だから傷が残ったらかわいそうだ。
にしてもあの魔法が上手くいってよかった。
意外とやればできるもんだね。
なせばなる、か。
あれ、この使い方でいいだっけか?
「カレン、大丈夫か? 気分は悪くないか?」
ゴルドールたちが部屋に入ってくる。
「はいお父様、お母様。私はもう平気です。ほらこんなに元気!」
と、私は腕を上げてガッツポーズをして、
あれ? 腕が上がらない。
私はそこではじめて自分の腕が両方とも包帯でぐるぐる巻きになっているのがわかった。
右は魔物にかまれたからわかるが、なんで左腕も?
「お父様、これは?」
「ん? 覚えてないのか?」
ん? どういうことだ?
よくわかってない顔の私を見てゴルドールが説明してくれた。
あの後、私が始めての魔法を試みた後、魔物の体は吹き飛んだらしい。
セリシアが言うには頭以外は血しぶきを撒き散らしミンチになったらしい。
ミンチって……
まぁあのサイズの子弾を食らったらそうなるのかな。
私があの時魔法で作ったモノ。
それはショットガンだった。
正確にはショットガンの弾だが。
サイズは全然ちがうけど。
ショットガンは小さな子弾を撃ちだす銃である。
散弾以外にも色々な種類の弾丸が使えるが、今回再現するのに選んだのはバックショットと呼ばれる一般的な散弾である。
ただサイズが倍以上大きかったため、かなりの威力になったのだろう。
もういっそのこと戦車用にあるキャニスター弾といわれる砲弾サイズで作ればよかったか。
私の腕も吹き飛びそうだが。
話を戻そう。
私は魔物をミンチにした後そのまま血を吐いて倒れたらしい。
魔法の反動か、無事だった左腕もあらぬ方向に曲がって血まみれだった。
セリシアは腕に魔物の頭が噛み付いたままの私を片腕で背負い、どうにか村まで帰った。
だがそこで力尽き倒れているところを村の人が見つけてうちに担ぎ込んでくれたという。
「二人を見たときは血の気が引いたぞ……」
まぁ娘二人が血だらけで担ぎこまれたらびびるわな。
その後すぐにアーレが回復魔法をかけてくれたので助かったみたいだ。
だがそこで私は不思議に思った。
セリシアの腕は完治しているが、なぜ私は完治してないのだろう。
「ごめんね。かなりの重症だったから魔力が持たなくて……もう少ししたら大丈夫だと思うから、もうちょっとまってね」
申し訳なさそうにするアーレ。
すこし顔色が悪く見える。
でもセリシアを先に治してくれたのは嬉しかった。
ちゃんと実の子供と差別無く治してくれたのだ。
しかし得意属性でも魔力をかなり消費するくらい重症だったのか。
ほんとに下手すれば死んでたな……
今更になって死ぬ寸前のやり取りをしていたのを思い出して震えがくる。
「カレン様、守ってくれてありがとう……またあなたに救われた」
セリシアが震える私を抱きしめてくれた。
あったかい……
気にしなくてもいいのに、私がやりたくてやった事だし。
それに見に行こうって決めたのは私だから、私のせいでもあるのに……
私は罪の意識とありがとうと言われた幸福感とを胸に感じながら、体をセリシアに預ける。
すると急に眠気が襲ってきた。
「魔力を血を吐くまで使ったんだもの、ゆっくりお休みなさい」
アーレがやさしく微笑む。
私はセリシアの温もりに包まれながら、ゆっくりと意識を手放した。
戦闘描写は難しいですね……




