7 逆らいがたい本能
『2人とも手札少なくない?』
『逆にお前は多いな』
『イカサマしてない?』
『してるわけないだろ、賭け事してる訳でもあるまいし』
『それもそうか』
世界を渡ろうとしている少女の名前は♦︎K。
♦︎Kはその世界に足を踏み入れて、しばらく他のKを探したが、見つからなかった。
「ハズレか……」
そう呟いて、再び世界を渡れるときか、他のKがこの世界にくることを祈るのだった。
♦︎Kは、消えるまでの間に自分の趣味を満喫したいと考え、ゆっくりと紅茶を入れ始めるのだった。
そんな♦︎Kの次に世界を渡ろうとしているのは❤︎Qだ。
彼女が向かう世界では、♦︎Qと♠︎Qが会話をかわしていた。
「誰かきたようだな」
「どの数字の方でしょうか?」
「さぁ、確認しに行ってみるか」
「分かりました」
そう言って2人は誰かがきたであろう場所へと向かい始める。
その場所はあまり遠くではないため、すぐに着くことができた。
そこにいたのは……❤︎Q。♠︎Qの想い人だった。
♠︎Qは喜び、駆け出した……が、すぐに身体が動かなくなってしまう。
何かに引き止められているような感覚と同時に、身体に違和感を覚える。
……溶けて、いる……?
後ろを振り返ると、そこには涙を流している♦︎Qの姿がある。
彼女は自分の手を握り、この場に引き留めようとしている。
握られている片手はすでに溶けており、どこからが自分の手で、どこからが彼女の手か区別がつかない。
「……ダイヤ……?」
「やっぱり……貴女が私以外の人と消えるのは、耐えられない……」
そう呟くと、♦︎Qは♠︎Qを無理やり押し倒した。
そのまま覆いかぶさり、消えるために己の身体を相手に押し付ける。
……なんで……、ダイヤ……。
困惑している♠︎Qの頬に涙が落ちてきた。♦︎Qのものだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「……ダイヤ……」
そう、♦︎Qは泣いていた。
好きな人を傷つけてしまった後悔や、罪悪感などの感情がいれ混じり、結果として涙が溢れたのだ。
その様子を見たとき、彼女の脳裏から怒りや悲しみの感情は消え失せた。
その代わりに、今まで彼女と過ごした日々の思い出が蘇ってゆく。
彼女とくだらないことで会話したことや、一緒に遊んだことなど、様々な記憶が蘇ってくる。
走馬灯というやつだろうか。
その記憶を思い出して、彼女となら消えてもいいかもしれないと思ったのもまた事実だ。
♠︎Qはそっと手とも呼べない何かを♦︎Qの頬に持ってゆく。
「そんな顔をしないでくれ……」
「でも……貴女の幸せを壊して……私は、自分勝手なことを……」
「いいんだ。ダイヤが笑顔になるなら、私はダイヤと消えても……」
その一言で♦︎Qの表情は救われたようで、涙でぐちゃぐちゃになった顔で笑顔を作る。
その顔を見て、満足そうに微笑むと♠︎Qはゆっくりと目を閉じた。
♦︎Qもまた、目を閉じて完全に消えるその時を待った。
♠︎Qの暖かさを体感しながら、ゆっくりとその時を。
『あれ、Q3枚あった』
『なんで気づかないんだよ』
『あはは……なんでだろう?』
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Aの世界( 4枚)
❤︎5 ♣︎Q ♣︎K joker
Bの世界( 4枚)
♦︎A ♠︎5 ❤︎6 ♦︎K
Cの世界( 5枚)
❤︎8 ♣︎J ♦︎10 ❤︎A ❤︎Q
Dの世界( 4枚)
♣︎6 ♠︎8 ♦︎J ♠︎10
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物語のヒント
本能は少女たちが思っている以上に逆らい難いものだ。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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