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豚野郎

「娘によろしくってさ」


 リリィの目は鬼雨を逃そうとはしない。


「…………そう、ならいい」


 鬼雨の返事にあっさりと認めたリリィは階段を降りて、外に続く扉に向かった。


「あ、待てよ! どこへ行くんだ?」


「うーん……調べ物?」


 リリィはこれだけを言い残し、外へと消えた。鬼雨は深く腰掛けて、考える。


「さて、どうしよか……」




 蘇るのは1週間の準備期間。今でも忘れない。人間だった頃の俺なら絶対に気絶とか無理やり忘れさせようと脳が働いただろう。だが、あの時、吸血鬼としての本来の力が目覚めたからなのか、あの頃から鮮明と覚えている。



「うぁああああああ!」


「これでも喰らえ!王を、吸血鬼を馬鹿にした罰だ!」


 殴られ、蹴られ、骨を折られ、傷をつけれ、爪を剥がされ、肉を抉られた。それは拷問に近い状態だった。違うといえば、座っていやいこと。そして、何より苦痛だったのが血が足りなかったことだ。



「ち……血が……血が欲しい」


「はぁ!? 血だと?……ほらよ」


 この時、鬼雨は総勢10人には囲まれており、その中のリーダー格の男が、自分の手首を切って自分で舐めた。


「あぁ〜うっめ! 血ってうめぇーよな! ギャハハハハ!」


 囲ってた周りの奴らも一緒になって笑う。


「…………そうか……それはいいな」


「あ!?」


 ブチッとした音が口の中で広がった。その後、猛烈な熱さと痛みが出てきた。


「!? こいつ!! 自分の舌を噛みちぎっただと!?」


 鬼雨は、自分の舌から出た血を飲んだ。飲んで、飲んで、飲んで、飲んだ。

 それは、これはまで飲んできた味とは全然違った。苦くて、不味くて……例えるなら人の死体の壊死した部分を食べている感じだった。


「うぐっ!……に、苦い……」


「は、ははは!そりゃあそうだろ!!本当に美味いとでも思ったのか? そんなわけねぇーだろ! それに、自分の血が飲めるのは俺みたいな上位種だけしな! ギャハハハハ!」


「だが、これで……喉が潤っ……がはっ!

 」

 鬼雨は藻掻く。自分の血を飲むことが苦いだけでないことを今思い知った。


「いいか糞ガキ。自分の血を飲むことってのは、自分の中にある力を目覚めさせるってだけじゃねぇ……自爆って意味があるんだよ! もうすぐ散り散りに粉砕する。まぁ成功する確率は20分の1。諦めな」


 男は鬼雨が藻掻いている間、蹴りを1発。さらに拳で腹を叩きつける。


「見せてやるよ。これが俺の能力だ」


 男の影の中から数本の剣が出てきた。その剣を周りの奴らが取り、男の合図を待つ。


「これが、俺の力だ。無数の剣を影から生み出せる……これでおさらばだ」


「……血を……寄越せ!」


 鬼雨は男に飛びついた。そして、手首から流れ出る血を1口。ペロにと飲む。

 すると、鬼雨の頭髪が再び銀色に変わり、目は赤色に変わる。その姿はまるで……。


「お、お前……それはまるで……あの白やっ……くっ!」


「おしゃべりが過ぎるな……レクリア、傷を治せ」


 鬼雨の体が見る見るうちに治っていく。もちろん舌も元通りになった。周りの奴らがどよめきだし、慌てる中、リーダー格の男だけは力を抜き、剣を落とした。


 それを確認した鬼雨が一言発する。


「さて、豚野郎。俺の下僕になれ」


「………………はい」


 リーダー格の男が、膝づいた。


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