セシル・イグニス
「おい、いきなり失礼だな。人を出来損ない扱いなんて」
「誰だい、君は?」
「俺は一条 鬼雨だ。お前こそ誰だ?」
赤い吸血鬼は鬼雨をじっくりと観察したあと、腰に手を当て、ため息をつく。
「はぁ……お初にかかります。私の名前はセシル。セシル・イグニス。あの、名門イグニス家の跡取りです。以後、お見知りおきを」
セシルは右手を胸に当てながら、作り笑顔で名前を話してきた。一通り、終わるとリリィに目を向ける。
「では、行こうか? 出来損ない」
セシルは汚物を見るような目でリリィを見たあと、背を向け歩き出した。一言も話さないリリィを見ると震えていた。
「……おい、待てよ」
鬼雨はセシルの左肩を右手で掴んだ。
「なんだね?」
「リリィに謝れよ」
セシルは背を向けたままで、こちらを見ようともしない。ただ、鬼雨にはセシルから放たれる強烈な殺気を感じた。それでも鬼雨は引かない。
「はて、何を言ってるのやら……あと、貴様。いつまでわたしの肩を掴んでいるつもりだ?」
掴んでいたセシルの肩が徐々に熱くなっていく。
「あ、あつ!」
思わず離してしまった鬼雨の手は火傷していた。軽い火傷だったのですぐに治ったが、再び掴もうとはしなかった。
「やめて! やめて、鬼雨。私は大丈夫だから……」
見守っていたリリィが口を開く。言葉には何か重みがある言い方だった。
「大丈夫な訳あるか! ここまで――」
「大丈夫だから!! お願い、信じて……」
リリィの強い言葉に負け、鬼雨は立ち尽くす。
「セ、セシル。お願い、鬼雨も連れてって」
「ふむ……こいつが吸血鬼だと言うのならいいだろう」
リリィは鬼雨と目が合う。互いに確認の意で頷き合う。行くことを決めた2人はセシルの後に着いていく。
「とりあえず、王が呼んでいらっしゃる。急ぐぞ」
セシルは翼を大きく広げ、地上と飛び降りた。
「ここ、50mぐらいか?」
「たぶん?」
「なら、力はいらねーな。行くぞ」
「え? ちょっ!」
鬼雨は、リリィを再びお姫様抱っこをして、飛び降りる。見事に着地すると目の前にはセシルがいる。
「品の欠片もないね……こっちだ」
案内されるがままに歩いていくと、大きな扉があり、開くとあちこちにドレスやスーツを着た紳士淑女がいた。
それぞれが片手に赤い液体が入ったワイングラスを持ち、片方は口に手を当てて、こちらを見ながらクスクスと笑いを隠している。
「鬼雨……」
リリィは鬼雨の袖を軽く掴んできた。
「気にするな、リリィ」
先に行くセシルの後について行き、部屋の奥にある階段を登り、右へ左へと曲がりながら長い渡り廊下を歩き、さらに奥に1つの部屋が見えてきた。セシルは3回ノックしたあと、呼びかける。
「王。失礼します」
扉の向こうには大きなベットに白髪で長髪の若い男性が1人いた。




