伝えたいこと
声がしたので振り返ると、そこには私と同じぐらいの少年が立っていた。
澄んだ黒い瞳。艶のある黒い髪。顔は私と同じぐらいだからか少し幼い。右頬には絆創膏が貼ってあり、少しガーゼに血が出ている。
「ぐすん……ぐすん……」
「ほら、泣かないで。あ、そうだった。ごめんなさいボーヤ。この子はまだ、ここの言葉を覚えてないから、優しくしてあげて」
「うん、わかった。ねぇ、ほら、行こうよ!」
少年は手を伸ばしてきた。傾く太陽の光のせいで顔に影が出来たが、少年が笑ったのか真っ白な歯が見えた。そして、手を握られて立たされた。
「行こっか!」
またしてもニカッと笑い、手を引きながら走り始めた。
――この時、わたしは初めて恋をした。
ハッと目が覚めた。
感触的に、ベットの上。だるい体を起こして確認すると当たっていた。左の窓から眩しい太陽の光が入ってくる。その横には、ちょっとした小さな机があり、花が添えられていた。
「わたしは……」
「気がついたか!?」
右から声がする。そこには恐らく、さっきまで寝ていたであろう鬼雨がいた。証拠に口から少しヨダレが垂れている。
「鬼雨……」
もう少し周りを見てる。扉が1つ。それと輸血の跡しかない。鬼雨の顔はどこか安心したような顔をしていた。
「私は……」
「びっくりしたぞ。無理やり扉を開けたら、ほとんど血が出ていたんだ。腕はくっついていたけど、失血が激しかったんだぞ」
「……ごめん」
ただそれしか出てこなかった。そして、私は自殺に失敗した。その事が頭から離れない。何をやってもダメだと思った。
次はどうしようかと考え――
「あのな、リリィ。俺はお前が誰の子だろうと別に構わないと思っている」
その言葉が自殺をしようと考えた気持ちを引き起こした。鬼雨の言葉は信用出来ない。
「うそ……嘘よ。絶対に嘘よ! そんな気休めの言葉なんて、聞きたくない!!」
わたしは鬼雨の復讐の相手である白夜叉の娘。前まではバレずに済んだから上手くいっていただけだ。だけど、今は違う。バレてしまったのだ。そのうち捨てられて、また、あの一人ぼっちの世界に帰る。
「どうせ、みんな裏切るんだ!『白夜叉の娘だ!』って! どれだけ仲良くやって来ても、最後には捨てるに決まってる! また、私を一人ぼっちにするんだ!」
今まで何度も味わってきた経験が語る。そして、今回も同じだと。だって、『白夜叉の娘』なのだから……。
「……リリィ、お前の言いたいことはわかった。理解した上で、お前に伝えたいことがある」
鬼雨は決意した顔でこっちを向いていた。




