殺したい母
「ガハッ」
耳を済ませて聞いていようと思ったが、呼吸が苦しくなり咳をしてしまった。それもそうだろう。うつ伏せの状態なのだから。もちろん、この一言は近くにいるリリィにも聞こえている。
「ふっ」
「なにが……おかしいの?」
「さすがはわらわが見込み、そして、力を受け入れた者だと思ってな」
誰が歩いてくる音がする。多分、リリィだろう。
あれだけ天真爛漫で、アホで、無邪気なリリィが怖くなった。もう殺されるのではないかと思ってしまう。
だが、思ってたのとは違った。リリィは正座をし、太ももに鬼雨の頭を乗せ、撫で始めた。
「鬼雨、ごめん……ごめんね。グズッ……ごめん……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
「リ、リリィ」
何度も、何度も、何度も泣きながら謝ってくる。涙が、頭の上に垂れたのがわかった。それも1つや2つ所ではなく、大量に……。
「ごめんなざい……だから、お願い。もう、これ以上聞かないで!」
ドスッ。
背首に一撃。今度は完全に堕ちた。
「もう、いいのか?」
「うるさい! 鬼雨には悪いけど、お母さんを殺すのは私だ!」
白夜叉の挑発にリリィは大きく宣言する。今になって、これもボスが予期していたことなのかな? と、思ってしまう。
「はぁぁぁぁぁぁ! 第1の力、解放!」
私はこの力を使うのが嫌だ。これはすごく疲れるし、お腹が空く。何より今、最も殺したい人の血を濃く受け継いだ負の遺産なのだから。
「ほぅ、その翼、その目……何より、この髪。見事にわらわの力を受け継いでいるな」
そう、今の私のは姿は憎き母と同じ、赤い瞳に銀髪。そして、血を求めてしまう。
「死ねぇぇぇ!」
私は走った。私から見れば、世界はゆっくりと進んでいるように見えるが、周りから見れば何が起きてるかも分からないほどのスピードで移動している。コンマ数秒の世界だ。
母である白夜叉はもう、目の前。まずはパンチを一撃と思った瞬間、首は右を向いている。目の端で母を見ると、悠然と立っている。
「なっ……殴られた? わ、私の最高速度を見切ったの!?」
すると、母からパンチのお返しが来た。
ガードしたにもかかわらず盛大に吹き飛んだ。地面にぶつかる前に体勢を立て直し、着地。そして、すぐさま母の元へ向かい今度は顔面を蹴ろうと足を向けたら――
「はっ、この程度が最高速度だと? 笑わせるな……遅い」
足は顔面に当たる前に足首を掴まれて止められた。
「速さとは、最も早くては意味が無い」
ドスッ。
口から大量の血が出た。腹には母の右手が刺さっている。母はどこか懐かしむよな目をしている。
だが、そんなことはどうでもいい。殺すこと以外は考えれない。
「ようやく掴まれた。逃がさない!」
左手で母の右手を掴み、右手で拳を作りって、顔面にパンチを食らわせた。
お腹に傷が2つも出来ることを代償に……。




