乙女の秘密
何も無いところに向かって敬礼している所をガッツリと見られた。
リリィは何とか誤魔化そうと敬礼をしたまま頭をフル回転させる。
だが、焦りと恥ずかしさで脳が働かない。どうしようかと思い悩んでいた矢先、鬼雨が話しかけてきた。
「おい、まだ、酔っているのか? ……ふぁ〜はやく風呂に入って寝ろよ。俺は…もう……寝る」
そのままベットに倒れながら睡眠を始めた。どうやら自分が酔って寝てしまっている間に風呂に入ってしまっていたようだ。そんな鬼雨を見て、自分もドロドロなのに気づき風呂に入りたい衝動に駆られるが──
「もー全く仕方が無いんだらか! そんな状態だと風邪ひいちゃうよ!」
うつ伏せの鬼雨を仰向けにして布団を被せる。
「初めての任務なのに色々大変だったね……けど、私は優しかったあなたが好き。そんなところに私は惚れたの……ちゃんと分かってるのか〜」
デコを軽くつつく。『う〜ん』とか言いながら少し唸る鬼雨。だがもう、既に起きる気配はなく、熟睡している。
「……私もお風呂に入っちゃお〜♪」
お風呂に入って約1時間。肩まで使ってきたせいかのぼせそうな体を冷たい部屋が乾かす。
しんみりと冷えた空気は温かな体にはちょうどいい。
「はぁ〜いい湯だったね〜……こんなに長く入ったのは久しぶりかも……」
髪の毛を乾かし、ベットに向かうと鬼雨は未だに熟睡している。だらりと両手を広げ、被せていたはずの布団はベットの外に放り出されている。まるで赤子のように。
あまりにもおかしくてクスッと笑ってしまう。と、同時にうれしく思う。ここまで熟睡出来ているのは信頼してくれている証なのだから。もし、信用がゼロなら未だに起きて警戒しているはずだ。
「あ、そうだ! イタズラでもしちゃおっかな〜」
鬼雨の寝顔になにを書こうかとぼんやりと眺めているとふと、思ってしまった。
──なんか、可愛い。
普段のいつも優しい表情とはまた違う。それは何と表現すればいいか分からないが、とにかく可愛い。
思い切り抱きしめたい衝動に駆られる。それどころかむしろ襲いたい気持ちが芽生えてきた。
(だ、だめ!自制心、自制心!)
頭の中でなんとか気持ちを抑える。鬼雨の睡眠を邪魔したくない。それは関係を壊すことにもなりかえないことなのだから……。
(で、でもキスぐらいはいいよね? ……この前したし。……うん、バレなきゃ大丈夫……だよね?)
リリィは鬼雨の唇に目をやる。そこには微かな寝息が聞こえる。そして、再び衝動にかられる。
(ごめんね、鬼雨!)
覚悟を決め、リリィは顔を近づける。バレてはいけないことがさらに緊張感を高める。慎重に、慎重に。さっきよりさらに寝息が聞こえる。静かに顔を寄せて行く。
鼻と鼻の先が微かに当たる。あと、唇まで数センチ。ドックン、ドックンと高鳴る鼓動を押さえつけながら、最後の一押し。今、唇に触れようとして──
「う〜〜〜……み、水〜」
突然の寝言でキスを中断した。
「鬼雨のバカ!!乙女の秘密の行いを仇にするなんて!」
怒りつつもリリィは再び挑戦する。今度はこれまで感じた気持ちを込めて。
髪を右手で耳にかき揚げ、邪魔にならないようにする。今度こそ唇と唇が触れ合い、鬼雨の柔らか感触を少しの間だけだが堪能し味わってから離す。
「ご馳走様、鬼雨。任務お疲れ様だね。これからも頑張ろうね」
こうして、リリィはベットに入って寝た。




