ビンタ
「や、やめて! 鬼雨!」
それでもやめない。だが、20秒ぐらいしてようやく止まる。
「はぁ、はぁ……すまない。リリィ」
「う、ううん! 大丈夫! それよりも鬼雨……血を吸うってことは……」
「あぁ、俺は吸血鬼だ」
以前の鬼雨とは明らかに違う。髪は黒から白に変わり、目も赤色に変わっている。そう、それはまるで──
「白夜叉みたい。……鬼雨、服を着ないと風邪ひくよ? 」
「って、ほんとだ! リリィ、俺の服は?」
リリィは鞄の中の荷物を漁るが、しばらくすると首を振って返事をした。
「仕方ないな」
鬼雨は自分の親指を噛んで血を出す。すると血が鬼雨を囲うように渦巻く。そして、だんだんと形づいていき、色が付く。あっという間に服が完成した。
「っと……とりあえずこんなところか……初めてにしては上出来だな!」
鬼雨の服装は以前とはあまり変わらない。
「うっ……うわぁぁぁ!!!」
突然、鬼雨がしゃがみ込んで肩を抑える。
「どうしたの! 鬼雨!」
もぞもぞと肩が動き出し、服が破けた。出てきたのは翼だった。
「だ、大丈夫だ、リリィ。多分、力を使うとこれが出てくるんだろ」
「そ、そう……」
リリィが違和感を感じた。口調はいつも通りなのだが、雰囲気が前と違うせいか少し戸惑う。
「リリィ、戻るぞ。お前をこんなボロボロにしたことを償わせてやる!」
いきなりで戸惑うが冷静に心がけなければ……
「いや、私は大丈夫だから逃げようよ!」
「ダメだ。あいつらを殺す!」
やっぱり何かがおかしい。そう思わざるを得ないほど鬼雨は変わってしまっている。ならば、今、自分がやらなければならないことは鬼雨を止めることだ。
先々と進もうとする鬼雨を慌てて追いかける。
左右に振る手にようやく掴んで話しかける。
「待ってよ鬼雨! 別にあの人達をころさなくっていいじゃない! 逃げようよ!」
「何度言ったらわかる? 俺は……お前を悲しませたあいつらを殺す。そう、殺すんだ!」
もう、鬼雨は聞く耳を持たない。リリィの腕を解いて進もうとする。
鬼雨は再び歩こうとした時、リリィは再び腕を掴んだ。
「なんだ、リリィ? まだ言いた──」
パチン!
夜の森でビンタの音が響いた。




