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【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】  作者: メソポ・たみあ
【第2部】第2章 スコティッシュ兄弟の確執

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221/240

第221話 夫婦の愛は神をも殺す


 ジャックが〔黒渦(ブラックホール)〕に飲み込まれたすぐ後、気色悪い肉壁で覆われた異界は崩壊を始める。

 まるで巣穴の主を失い、急速に風化していくかのように。


 そして魔力の残滓だけを残し――周囲の風景は、元の寂れた礼拝堂へと戻った。


「ケホッ、ケホッ……!」


「! レティシア……!」


 地面に手を突いてむせ返る妻の傍へ、俺はすぐに駆け寄る。


 すると彼女の肌を覆い尽くそうとしていた緑色の浸食は徐々に消えていき、最後には元の綺麗な白い肌を取り戻した。

 どうやら――浸食は収まったらしい。


「……大丈夫か、レティシア?」


「え、ええ……。まだ少し気持ち悪いけれど……」


 浸食こそ止まったが、まだ顔色が悪いレティシア。

 その時、


「――おや? レティシアさん~、それにオードラン男爵も~」


 背後から声が聞こえる。

 振り返ると――そこにはエレーナの姿があった。

 あとついでに赤髪の男……確かスティーブンとかいう奴の姿も。


 いや、この二人だけじゃない。

 礼拝堂の中には他にもイヴァンやユーリ、それとFクラスのメンバーや学園の教員たちの姿まである。

 ……どゆこと?


「なんだよお前ら、ガン首揃えて」


「これは~……おそらく異界が消滅したことで~元の空間へと戻ってきたのでしょうか~?」


 エレーナも完全には状況を把握し切れていない様子だったが、すぐにレティシアへと視線を戻すと「むむ~!」と唸る。


「失礼、レティシアさん~。ちょっと〝タリスマン〟を見せてください~」


 エレーナはレティシアに近付き、妻が衣服の下に隠すように首から下げていた首飾りを手に取る。

 その首飾りは、なにやら赤色に発光していた。

 それを見たエレーナは杖を持ち、


「――〔生体浄化シャリーラ・シュッディ〕」


 魔法を発動。

 すると――


「う……うぇっ」


 ペッ、とレティシアが口からなにかを吐き出す。


 それは緑色をした奇妙な肉塊だった。

 なんとなく、さっきまで戦っていた怪物化したジャックの肌の雰囲気と似てるな。


 レティシアが肉塊を吐き出すと同時に、彼女の首飾りは赤色から青色へと色が変わる。


「よし~、これでもう大丈夫ですね~」


「こ、この肉塊は……」


「レティシアさんの身体に憑り付いていた、■■の〝(アストラル)〟の欠片です~。可能性の一つとして想定してはいましたが~、■■はレティシアさんを母体として~この世界に完全体として再誕するつもりだったみたいですね~」


 エレーナは「よいしょ~」と屈んで肉塊を掴み上げ、一瞬だけ安堵したような顔した。


「ですが~、これで一旦は邪神の完全復活が阻止されました~。あとは残された■■の片割れを封印するだけです~」


 しかしすぐに改めて表情を引き締め、深く帽子を被り直す。

 まるで「ここからが最終決戦だ」とでも言いたげな、鋭い目つきをして。


 そんなエレーナを見た俺とレティシアは――お互いに顔を見合わせた。


「……その、片割れって?」


「細かい説明は省きますが~おそらくジャック・ムルシエラゴと邪神が融合した後に~〝(アストラル)〟が大きく二つに分裂したのですね~。片方は私が封印したのですが~、まだ片方が残っているはずです~」


「「……」」


「ですから残りも封印しないと~。ただ~、どうして突然異界が消滅したのか~――……って、どうしてお二人共そんな目で私を見るのですか~?」


「その片割れなら、たぶん倒したぞ?」


「………………………………………………………………………………………………………………………………ひぇ?」


「つい今しがた、ペシャンコにして滅ぼしてやった。重力の魔法で、こう、グシャッと」


 パンッ、と両手を合わせて潰れた様子を再現する俺。

 まるで蚊でも潰すみたいなジェスチャーではあるが、まあ意味は同じだし伝わるだろ。


「ジャックの野郎、自分は死なない~とか抜かしやがったからさ。面倒くさいから、文字通りぶっ潰してやったよ」


 俺は小指で耳の穴をかっぽじりながら「結局は死んだんだろうけど」と言い捨てる。

 実際、アイツがくたばったから異界も消滅したんだろうし。


 そんな俺の発言を聞いたエレーナは――額から滝のように汗を流し、目に見えて唇をカタカタと震わせる。


「つ……つまりオードラン男爵は……不死身の邪神を殺した(・・・)……ということですか~……!?」


「そうなるのかな? 知らんけど」


 俺は適当に答えた後、レティシアの肩に腕を回して――


「ま、俺たち夫婦の愛は……神サマでも邪魔できないってこった」


 彼女を抱擁しながら、ニッと笑って見せた。


「――――――……う、嘘です、私が人生をかけて研究してきた〝神殺し〟を、そんな、虫でも潰すみたい……にぃ~……――」


 バターン! とエレーナは卒倒し、そのまま気絶。

 よほどショックを受けたらしい。何故かはわからんが。



 ま、なにはともあれ――


 こうしてジャック・ムルシエラゴの一件は、幕を閉じたのだった。










『……あ~あ、やっぱりダメだったわねぇ』


 誰も見ていない薄暗がりの中で、甘ったるい少女の声が呟く。


『かわいそうなラーシュ……。せめて覚めることのない夢の中で、ママのおっぱいでもしゃぶってなさいな、うふふ』


 少女は小馬鹿にして言うと、短くため息を漏らす。


『それにしても、酷いわぁ。これで世界が平和になると思ったのに。せっかくこの物語から主人公(・・・)が消えて、〝悪の敵〟がいなくなったと思ったのにぃ~』


 口では残念がりながらも、クスクスと笑う少女。

 その笑い方は、愉悦に満ちていた。


『だけど……主人公(レオニール)に破滅させられるはずだった者たち同士が、主人公(レオニール)のいない世界で殺し合う……なんて素敵!』


 少女は、踊る。

 誰も見てない、誰にも見えない、暗闇の中で。


『アルバン・オードラン、そしてレティシア・バロウ……あなたたちは、月夜に悪魔と踊ったことはあるかしら?』


 踊る、踊る。

 愉快に、楽しく、妖艶に、下品に、そして見下すように。


『世界の(ことわり)から外れし異端者共よ……。あなたたち夫婦が固い絆で結ばれた〝(キング)〟と〝王妃(クイーン)〟であるのなら――私はそれを引き裂く〝愚者(ジョーカー)〟になってあげる……♪』



次回で第2部/第2章は完結となります!

次話は実質エピローグになる予定(*´ω`*)


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