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リピート・ヴァイス〜悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜  作者: 黒川陽継
間章Ⅲ

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186# 王国代表

 《神》であるローファスは、世界のルールにより嘘を吐く事ができない。


 これは事実であるが、正確ではない。


 厳密には、嘘を吐けないのは《神》としてのローファスであり、人であるローファスではない。


 人であり、同時に《神》であるローファスは、この辺りのルールの縛りがかなり曖昧かつ不安定である。


 このルールの判定を行うのは世界そのものであり、ちょっとした嘘なら見逃される場合もある。


 その判定はかなりガバガバながら、しかしルール違反と断定されたものに対しては理不尽なまでに厳正である。


 このルール違反に関しては、多くの《神》は感覚的に分かる為、たとえば明確にルール違反に抵触するであろう行為をする場合は嫌な予感として現れ、心理的にブレーキが掛かる。


 そしてそれでもルール違反を犯す場合は、神力を消費して世界に違反を見逃してもらうという形式を取る。


 風神のように元来このブレーキが鈍く、うっかりルール違反をして自動的に神力を持っていかれる者も居るが、極小数である。


 《神》にとっての神力とは、謂わば《神》としての存在そのものであり、ルール違反をするという事は己の存在を削る事に等しい。


 《神》は出来る事が多い反面、そのリスクも高い。


 ローファスは風神とは違ってしっかりとルール違反に対してのブレーキが掛かる為、日頃から違反に対して気を張っている訳ではない。


 ブレーキが掛かり、それでも嘘が必要と判断した時に神力を消費する程度。


 ローファスはタナトスとして姫巫女タチアナと会食をした折、返答の全てを嘘偽り無く答えていた。


 それはルール違反に対してのブレーキが掛かったから——ではない。


 それはタチアナが嘘を見抜ける事を事前に知っていた為である。


 タチアナが言葉の真偽を見抜ける事は、一般的には知られていない。


 タチアナ自身がそれを公言していない事と、人の心が覗けない以上、それを証明する手立てが無い為。


 真偽を見抜けるといっても、タチアナからすれば相手の様子から嘘っぽいな、本当っぽいなと感じる程度。


 しかしその精度は異様に高く、最早特殊能力と呼べるレベルである事を、ローファスは物語の知識から得ている。


 ローファスからすれば、会話が長く続けばそれだけ不要な情報を抜かれる率が高くなる。


 それ故にこれまで、出来る限りタチアナを避けるように動いてきた。


 なのに今回の、会食という形での接触。


 暗黒で偽の肉体を作っている事も、長々と話せばバレるだろう。


 タチアナとの会話を早々に終わらせるには、徹底して真実のみを口にし、付け入る隙を与えない必要があった。


 一切の嘘を言わず、尚且つ剣闘士タナトスとして違和感無く、矛盾無く話す。


 これが意外に神経を使う。


 たった一度の会食で、ローファスは疲れ果てていた。


 しかし何とか乗り越えた、もう二度とこんな思いをするのは御免だ。


 そう考えるローファスであったが——



 ローファスには誤算があった。


 まずタチアナに対して真実のみを口にした事で、確かに会話自体はローファスの狙い通り短くなり、側近らの介入もあり会食自体は短時間で終わった。


 しかし、タチアナが他者の言葉の真偽を見抜ける事を知っているのは、タチアナ自身を含めて極々少数。


 その事実が広まっていない以上、人はタチアナを相手に様々な嘘を吐く。


 それがタチアナに見抜かれているとも知らずに。


 虚栄、欲、悪意——タチアナはその立場故に、多くの嘘に晒されてきた。


 それこそ、嘘を見抜ける特技を身につけてしまう程に。


 人は呼吸するように嘘を吐く生物、それが普通であり当たり前の事。


 だからタチアナは、嘘を吐かれても別に悲観したりはしない。


 しかしそんな背景を持つタチアナだからこそ、初対面ながらに一切嘘を吐かなかったタナトスが随分と特殊に、そして新鮮に映った。


 タチアナの感覚は、タナトスの言葉が嘘ではないと告げていた。


 しかし、全て正直に話している風でもなかった。


 隠すべき事は隠し、尚且つ嘘は言わない。


 実に奇妙。


 まるでタチアナが嘘を見抜ける事を知っていて、その対策でも立てているかのような。


 エイダが入れ知恵でもしていたのか。


 タチアナが嘘を見抜けるという事をエイダは知らないが、しかし長年の付き合いから非常に勘が鋭い事を理解している筈。


 タナトスに下手な嘘は見破れるかも知れないとアドバイスしていたとしても不思議ではない。


 エイダとタチアナは、もう十年以上の付き合いになる。


 エイダが奴隷として聖竜国に流れ付き、下町で売られているのをタチアナが見付けたのが出会いのきっかけ。


 魔力も持たない無力な女、しかしこの世の全てを恨むかのようなギラついた目。


 何者にも媚びようとしないその気概が気に入り、召使として買い上げた。


 タチアナの見立ては正しく、エイダは魔力を持たない脆弱な人間であったが、読み書きも計算もでき、何より優秀だった。


 本人が望むものを与えてやった結果、ものの数年で商会を立ち上げ、瞬く間に聖竜国の商業を牛耳る程になった。


 タチアナにとってエイダは、ただ懇意にしているだけの商人ではない。


 血縁こそないが、家族にも等しい繋がりがある。


 エイダはタチアナに対してよく嘘を吐くが、悪意を向けられた事はない。


 エイダは決して裏切らない、そんな確信と信頼がタチアナにはあった。


 そんなエイダが雇い入れた剣闘士が、側近にしろとしつこく絡んでくるボレアスを打ち破った。


 当然、興味を持つ。


 そして実際に会ってみて、その興味はより強まった。


 山羊の頭蓋を被って顔を隠した黒衣の剣闘士。


 分かる事は暗黒属性の魔力を持つ事と、その身に竜種の血が流れているという事。


 素性は不明だが、恐らくは王国の人間であるという事。


 巷の噂では、タナトスは無類のコーヒー好き——これは自称舎弟のボレアスが酒場でペラペラ喋っていたという情報。


 コーヒーを好むのは王国人としては珍しくないが、聖竜国では輸入頼りで黄金と同程度の値で取引されている。


 それでも構わず飲み続けるというのは、幾らコーヒー好きとはいえ行き過ぎている。


 王国から聖竜国へ身を移し、取り巻く環境を変えようとも、それでも譲れないものがあったという事。


 それは意地か、それともプライドか。


 コーヒーが高価である事を、エイダが言っていない筈がない。


 それでも飲み続けているという事は、金銭感覚に疎いか、元より金に糸目を付けないタイプ。


 そこから導き出される人間像——きっとタナトスは、王国でも高い身分であり、かなりの頑固者。


「…そういえばエイダの奴め、いつぞやに何処ぞの暗黒貴族に会いたがっておったのう」


 タチアナの中で、言葉にできない何が組み上がっていく。


 まるでパズルが組み合うように、色々と辻褄が合ってしまう。


 果たしてこれは、偶然か。


 そしてもう一つの疑問——タナトスは竜種の血を汲む者であるという事。


 竜種など多種多様、千差万別。


 過去より無数に枝分かれする血筋を、魔力の情報だけで特定するのは至難である。


 そこからタナトスの素性を探るのは現実的ではない。


 ただし——タチアナには恐ろしく研ぎ澄まされた直感がある。


 ごちゃごちゃと考えて導き出した結論よりも、直感的に出した答えの方が実は正しかったというのはタチアナにとってよくある事。


 タチアナの直感は、いつも正しい。


 その直感に導かれるように、タチアナは宮殿の地下——歴代姫巫女の慰霊が眠る霊堂を訪れていた。


 無数の石版が立ち並び、その奥には巨大な竜王の石像が祀られている。


 その石像こそ、かつて聖竜国を建国した《大地の竜王》。


 姫巫女の血縁の祖であり、タチアナの直系の祖先。


 霊堂に立ち並ぶ石版には、聖竜国の建国時からの事柄が事細かに記録されている。


 その歴史は千年以上。


 歴代の姫巫女は、聖竜国での主な事柄を石版に刻み、記録する。


 その役目はタチアナにもあり、つい先日も王国と帝国の紛争に介入した時の出来事を刻んだばかり。


 その紛争が起きる事も、祖たる《大地の竜王》の御霊が教えてくれた。


 御霊の声は、姫巫女の血筋にしか聞こえない。


 しかしその声は、決して絶対ではない。


 事実、タチアナは紛争を止めるべく動いたが、大軍を率いて帝国に辿り着いた時には全てが終わった後だったのだから。


 いや、あれは想定していたよりも決着が早過ぎた為であったが。


 凡人は経験から学び、賢人は歴史から学ぶ。


 姫巫女の任に就く者は賢人でなければならない。


 故にタチアナは、幼い頃よりこの霊堂に入り浸り、石版に刻まれた歴史を読み解く事に生涯の大半を捧げてきた。


 苦に感じた事はない。


 石版に刻まれた歴史はまるで御伽話のようで、壮大な英雄譚もあれば、ほんのり切ない恋愛譚まで、その代の姫巫女の人生が描かれている。


 そんな歴史を読み進めていくのが、タチアナはこの上無く好きだった。


 そんなタチアナだからこそ、記憶の片隅に覚えていた。


 遥か昔、姫巫女の任に就いた者の中で唯一、他国に嫁いだ女が居た事を。


 それを改めて確認する為、タチアナは並ぶ石版を通り過ぎながら奥へと進む。


 ふと視線を感じ、タチアナは足を止める。


 見上げると、巨竜の石像と目が合った気がした。


 明確に声が聞こえた訳ではない。


 しかしタチアナには、それ以上進むなと言われているような気がした。


 妙に身体が重く、まるで後ろから何かに引っ張られているかのよう。


「…こんな事は初めてじゃのう。知られては困る事でもあるのか、偉大なる《大地の竜王》よ」


 祖の御霊より返答は無い。


 しかしより後ろに引かれる力が強まった気がした。


 タチアナは鼻で笑い、体にまとわりつく力を引き摺りながら前に進む。


「妾の好奇心の強さを知っておろう。如何に我が祖であろうと、妾の歩みを阻む事は許さん」


 遂にはその力を振り切り、タチアナは目的の石版に辿り着いた。


 姫巫女の任に就いておきながら、ある男と恋に落ち、その挙げ句に駆け落ちした。


 姫巫女で唯一、他国に嫁いだ女。


 年代は今より七百年も昔、嫁いだ先は王国。


 嫁ぎ先の貴族の名は——


「——闇の訪れ(ライトレス)


 竜種の血と魚好きは無関係ではないかと、タチアナは口角を上げる。


 タチアナの中で、タナトス=ローファスの推測が確定的となった瞬間だった。



 王国王都——王宮より見える修練場。


 そこは近衛騎士の宿舎に面しており、主に兵の訓練や模擬戦などに用いられる。


 修練場の中央にて、黄金の鎧を纏った偉丈夫の炎の剣と、炎の如き赤髪を持つ少年の蒼炎の剣がぶつかり合う。


 蒼炎と爆炎が弾け、高温の熱波が修練場を駆け抜けた。


「ほう…」


 爆炎を更なる高温の蒼炎が焼き尽くし、押し負けながら迫る熱波を躱し、黄金の鎧の偉丈夫——近衛騎士団長(チーフ)ヴァルフレイムは感心の声を上げた。


 対峙しているのは、ヘラス山にて五ヶ月を経て帰ってきたアベル。


 荒削りながら、剣術の腕は十分一級と呼べるレベル。


 炎の出力に至っては《王国最強の騎士》であるヴァルフレイムを超えている。


 強い、それがアベルに対するヴァルフレイムの素直な感想。


 それは今より約半年前、白の魔人による王都襲撃を収めた功労者の一人として国王の前に立っていた彼には抱かなかったもの。


 素質は十分、力もそれなり。


 しかし優れた力を十全に扱い切れていない。


 年相応な未熟さが目立つ。


 それがヴァルフレイムの、アベルに対する評価だった。


 仮に、百度戦えば百度勝つ。


 それは自信ではなく客観的に判断した事実であり、当時のアベルはヴァルフレイムと一対一で戦えば、万に一つも勝ち目は無かった。


 並外れた素質はあるが、戦士としては未完成。


 そんなアベルに対して、ヴァルフレイムは嘲りも侮りもない。


 アベルは若く、まだ伸び代もある。


 話に聞くにアベルは、第一王女アステリアがその力を見出したという。


 同時に、随分と気に入っているとも。


 平民を相手に熱を上げるのは、王族として決して褒められたものではない。


 しかしそれを差し引いても、よくこんな化け物じみた素質を持つ者を見つけて来たものだとヴァルフレイムは感心していた。


 ヴァルフレイム自身もアベルと同様に平民出身であり、現国王のアレクセイに力を見出され取り立てられたという背景がある。


 貴族らからすればやっかみの対象であろうが、似た境遇という事もあってか、アベルに対してはどうしても贔屓目が入ってしまう。


 ともあれ、アベルが優秀な戦士である事は変えようの無い事実。


 それこそ、その辺の家柄だけは良く、プライドばかりが先行する愚物よりは余程使える人材であろう。


 後十年…否、五年程鍛錬を積めば、十分自分を超え得るポテンシャルはあるだろう——ヴァルフレイムはそう思っていた。


 しかしその評価は今、覆った。


「そこまで!」


 壇上より王国軍元帥ガナードの制止の声が響く。


 炎の剣と蒼炎の剣、刃同士が交わった所で両者はぴたりと動きを止めた。


「やっぱり強い…ありがとうございました。勉強になりました」


 ぺこりと頭を下げるアベル。


 先程までの戦士の顔とは違う、年相応の少年の顔。


 この半年の間に、どんな修行をすればここまでの領域に来れるというのか。


 ヴァルフレイムは下ろしかけていた剣を持ち直し、その切先をアベルに向けた。


「…!」


 突然の事に強張るアベルに、ヴァルフレイムは静かに語り掛ける。


「アベル・カロット…見事な実力であった。だが——本気ではなかったな?」


「…買い被り過ぎですよ。ヴァルフレイムさん相手に、加減する余裕なんて無かった。それに本気じゃなかったって言うなら、ヴァルフレイムさんもでしょう?」


「愚問だ。陛下より受けた命は、貴様の実力を測る事。殺せとまでは言われていない」


 もし弱ければ遠慮なくボコボコにしてしまえ、泣いても構わない、寧ろ泣くまで殴るのを止めるなと割と強めに言い含められていた事は敢えて言わないでおくヴァルフレイム。


 ヴァルフレイムは剣先をアベルに向けたまま、目を鋭く細める。


「貴様は強い。この俺でも殺せるかは五分といった所だろう。帝国での一件を終えて五ヶ月、一体何処で何をしていたかは聞かない。だが、生半可な鍛錬ではここまでの地力は付かん。随分な無茶をしたと見える」


「…まあ」


 無茶をした事は否定せず、アベルはポリポリと頬を掻いた。


「必要なら無茶くらいしますよ、強くなる為なら。でも、僕なんてまだまだです」


「更なる力を求めるというのか? 既に十分過ぎる力を持っている筈だ。力を求める理由はなんだ、貴様は一体、何の為に強くなろうとしている——アベル・カロット」


 やや警戒した様子で問い掛けるヴァルフレイムに、アベルは真っ直ぐに見返して答える。


誰も傷つかない世界(ハッピーエンド)の為に」


「…」


 返って来たのは、まるでお子様が思い描く夢物語。


 叶いもしない幻想、甘ちゃんの戯言。


 しかしヴァルフレイムは、鼻で笑う気にはなれなかった。


「…おめでとう、アベル・カロット。合格(・・)だ」


 ヴァルフレイムは剣を下げると、懐から一枚の紙を取り出してアベルに差し出した。


 それは、先日聖竜国より送られてきた《竜王祭》の招待状に一緒に送付されていた、剣闘大会本戦の出場チケット。


「“娘を娶りたいなら功績を立てろ。その手始めに《竜王祭》に王国代表として出場し、武勇を見せつけた上で優勝して来い”——以上が、陛下からの伝言だ」


「め、娶るっ!? い、いや、僕達はまだそんな…」


 顔を真っ赤にして慌てた様子のアベル。


 ポワポワと浮かぶ火の玉は、いや前回結婚までしてた癖に今更何を照れてんだよと内心でツッコミを入れる。


「この申し出を断るならそれも結構。陛下には貴様が怖気付いて辞退したと伝えておこう。きっと陛下もお喜びになられるだ——」


 ヴァルフレイムが溜め息混じりにチケットを懐にしまおうとした所で、アベルがその手を掴んで止めた。


「待って! やる…やらせて頂きます…!」


「…そうか。であれば、王国の名誉を背負う者として励む事だ」


 チケットをアベルに手渡すと、ヴァルフレイムは背を向けた。


 そして何の後腐れもなく、その場を後にした。



 王宮、王座の間。


 国王アレクセイは玉座に腰掛け、頬杖をついて壇下で跪く近衛騎士団長(チーフ)ヴァルフレイムを見下ろしていた。


「…してヴァルフレイムよ。どうであった、アベル(例の馬の骨)の実力は」


「馬…いえ、非常に高い実力を持っておりました」


「ふむ…それは年齢の割に、という事か? しかし同年代にはあの《黒魔導》がいる。レイモンドもな。今年の世代は他にも粒揃いが多い。まああんな規格外共と比べるべきではないかも知れんが、愛娘が選んだ相手だ。向ける目も厳しくなるというもの」


 しかし剣闘大会の参加チケット——王国代表の証を渡す判断を下したという事は、最低でも近衛騎士相当の実力はあるという事だろうか、とアレクセイは首を捻る。


 強いのは強いのだろうが、もう少し具体的な強さの指標が欲しい所。


「強いというのはどの程度だ。たとえば…近衛騎士だと、誰の実力に近い? 近い年だと…リットか?」


 ヴァルフレイムは静かに首を横に振る。


「…誠に遺憾ながら、あの者の実力を測るのに適した者は、当近衛騎士にはおりません」


「なに…それはどういう事だ」


 眉を顰めるアレクセイに、ヴァルフレイムは頭を下げる。


「以前対峙した者で、近しい印象を持つ者であればお答えできます」


「ほう…許す。申してみよ」


 ヴァルフレイムは、以前親善試合をした相手を思い起こす。


 試合である為お互いに本気を出していなかった事は前提として、その上でも実力の底が見えなかった相手。


 実力の底が見えないという点は、正しく今回戦ったアベルにも当て嵌まる。


 白き長髪に灰色の瞳、漆黒の鎧を身に纏った騎士——ヴァルフレイムがこれまで相対した者の中で、間違いなく最強と呼べる相手。


「ライトレス家暗黒騎士筆頭——アルバ・ロト・ヴェルメイ」


 静寂の中で口にされたのは、ライトレス家最強の騎士の名前。


 アレクセイは窓から差し込む陽光を眺め、切り揃えられた口髭をなぞりながら「…成る程な」とだけ答えた。


 化け物じゃねーか——と心の中で呟きながら。

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