183# 女商人
ローファスの魔人化、その人型形態の《宵闇の刈手》は膨大な量の暗黒が圧縮されたものであり、そこから発せられるエネルギーは計り知れない。
竜王はおろか、神獣すら一方的に殴殺できる程の力がある。
オーガスの魔人化、《金剛羅刹》に匹敵する膂力を発揮し、魔法出力に至っては人類でも最高峰の魔人化たるレイモンドの《白翼聖天》を遥かに凌駕する。
ローファスの魔人化は、本来ならば人間には扱えない。
《神》に至ったからこそ辛うじて扱う事ができている莫大な力の塊——正しく最強の力。
そんな《宵闇の刈手》の殴打を繰り返し受けながら、《不死身》のボレアスはその二つ名の通り死ぬ事なく、最後まで生き残った。
元々ローファスは、物語四章聖竜国編の悪役たるボレアスを殺害する予定だった。
未来でトラブルが起きる事が分かっているなら、その元凶を排除してしまえば良い。
《竜王祭》剣闘大会の予選にて、試合形式で無名の剣闘士に敗れて死ぬ——そういう筋書き。
ボレアスが居なければ、少なくとも姫巫女が取り仕切る《竜王祭》の鎮魂の儀式が邪魔される事はなく、《邪竜》が復活する事もない。
《邪竜》——《煉獄の魔王》スペルビアを滅ぼせという地神の要望には反するが、しかしローファスは未だ、不死身の《魔王》を完全に滅ぼす方法を模索中。
そんな状態で復活されても問題は解決できない。
しかし復活を阻止してしまえば、少なくとも問題は先送りにできる。
物語ではアベル勢力が《邪竜》を押さえ込んだが、その後|《邪竜》の体を依代に《闇の神》が復活して最終章へと移行する流れとなった。
《邪竜》の復活が無くなれば、少なくともこの流れは止められる。
復活させるのは、《邪竜》を滅ぼす手段を確立してからで良い。
だからローファスは手始めに、余計な事をしでかす悪役——ボレアスを葬る事にした。
因みに、予選への剣闘士として出場はエイダからの提案であった。
試合での事であれば、罪に問われる事なく公的にボレアスを葬れる。
秘密裏にやれば事後処理や隠蔽工作も必要になってくるが、闘技場の場でなら殺害しても聖竜国法的にも問題はないと。
確かにその方が効率的かと納得し、ローファスはエイダの案に乗り大会に出場した——試合の場でボレアスを殺す為に。
しかし結果はご覧の有り様。
《宵闇の刈手》の殴打を100以上受けながら、ボレアスは健在。
無論、周囲への被害を抑える為に必要最低限の手加減はした。
その上、暗黒で作り出した巨躯の内に潜み、半身のみの魔人化。
これにより多少出力は落ちていた。
とはいえ、人一人を殺すには十分過ぎる力だった筈。
それでもボレアスは生き残った。
全身に無数の打撲痕を負ってはいるものの、致命傷には至っていない。
ローファスからすれば想定外——これだけ殴ってなぜ死なないのかと首を傾げる程。
《不死身》の名は伊達ではないというか、最早そういう特殊能力だと思った方が納得できるレベルのもの。
オーガスの魔人化も冗談のような硬さを持つが、それともベクトルが違う。
硬度のオーガスに対して、ボレアスは謂わば耐久力。
叩けば傷も付くし壊れそうにもなるが、決して壊れない。
この常人離れした肉体強度、明らかにただの人間ではない。
ローファスの見立てではボレアスは、オーガスやアベル、タチアナのような特異体質。
予選試合でボレアスを殺すという目的は達せなかったが、しかし予選敗退には持っていく事ができた。
これにより優勝の道は閉ざされ、姫巫女への一方的な想いを貫き通す事はできない。
ともあれ《竜王祭》が終わるまではボレアスが余計な事をしないよう見張っておく必要はあるが、その程度ならローファスであればどうとでもなる。
確かにボレアスは《不死身》の二つ名に恥じない耐久性を持っている。
《宵闇の刈手》の殴打で死なないという事は、大概の攻撃で死なないという事。
しかし所詮は死に難いだけの木偶の坊。
拘束するなり気絶させるなり眠らせるなり、それこそ殺し続けるなり、取れる手段は幾らでもある。
故に問題ない——と、予選試合を終えた時のローファスは思っていた。
思っていたのだが——
「アニキィ! コーヒーです! 淹れたてっすよ!」
豪勢な部屋にて、野太い声が響いた。
片膝を突き、見上げる程の巨躯に不釣り合いなこじんまりとしたカップを持ってローファスに差し出す大男——ボレアス。
未だに傷が癒えていないのか、全身血が滲んだ包帯でぐるぐる巻きにされている。
実に痛ましい見た目、しかしその目はやけに爽やかでキラキラしていた。
湯気の立つコップを受け取りつつ、ローファスはどうしてこうなった、と眉を顰める。
ローファスの姿は、新人剣闘士タナトスとは似ても似つかないもの。
タナトスは暗黒により体格を変え、見た目は細身ながらも長身の大男だった。
何より魔力もやや竜種に近いものに変換して発していた。
姿も魔力も全く違う。
にも関わらず、ボレアスは迷わずローファスをタナトスと断じた。
それは何故なのか。
匂いっす——とは、ボレアスの談。
怖気が走るとはこの事で、ローファスは全身に鳥肌を立てて身を引いた。
聖竜国は古代竜王により建国された事もあり、竜種の血が混じっている国民もそれなりに居る。
竜種との共存、自然の中での弱肉強食が常の聖竜国では、野生的な感性を持つ者も多いという。
実際、聖竜国人には人並外れた五感を持つ者がいるという話を聞いた事がある。
故にローファスは、嗅覚対策として香水を使用していた。
しかしボレアスにとってはそんなささやかな対策など無意味であったらしい。
ボレアスの嗅覚は香水に惑わされない程に敏感、まるで犬並み。
ローファスの想定を軽く上回る精度だった。
「…」
ローファスは受け取ったコーヒーを一口啜ると、そのままボレアスの顔目掛けてぶち撒けた。
「ぅあっつぅぅ!? ちょ、何するんすかタナトスのアニキ!」
熱さに耐えかねて転げ回るボレアスを、ローファスは踏み付ける。
「香りも風味も苦味も無い薄味、そして口に残るざらつき。豆が上手く濾せていない上に挽き方も雑。要するに不味い。一体何度目だと思っている貴様」
「んなこと言ったってぇ! 俺今までコーヒーとか小洒落たもん淹れた事ねぇっすもん!」
「御託は良い。俺の舎弟を気取りたいならせめて飲めるコーヒーを淹れろ」
これなら自分で淹れた方が遥かにマシだと、ローファスはボレアスを部屋から蹴り出した。
しょんぼりした様子で肩を落としてとぼとぼと歩く巨漢とすれ違い、女商人のエイダが入れ替わるようにして部屋に入ってきた。
「…仲良くされているようで」
「目と耳が腐っているのか貴様は」
顔を顰めるローファスに、エイダはにっこりと微笑む。
「正直驚いております。あのボレアスが、今ではまるで小間使いですので。あれでも、つい先日までは粗野で身勝手な乱暴者だったのですよ? 無銭飲食は当たり前、店や民家に押し入って掠奪するなど日常茶飯事でした」
「ただの賊ではないか。なぜそんな不埒者が野放しにされている?」
「聖竜国では強さこそが至高。ボレアスは前年度の《竜王祭》剣闘大会の優勝者ですし、大抵の悪事は見逃されます」
「強ければ規律も無視、国家規模で見て見ぬ振りか…心底野蛮な国だ」
「お国柄の違いでしょうかね。聖竜国では強さこそが正しさです。弱き者がどれだけ正しさを説いても無意味でしょう。しかし、それは王国も変わらないのでは?」
「強さには相応の責任が伴う。それが王国の規律だ。弱者に発言権が無いのはその通りだが、強ければ何をして良い訳では無い」
「流石は大陸でも珍しい封建制度などという時代遅れの制度を保ち続けている国家の貴族様ですね。素晴らしい心掛けかと」
「その制度は形骸化しつつあるという意見もある。貴族の義務…それを理解せん名ばかりの貴族は多い」
「それはそれは…しかし少なくとも、貴方は名ばかりではない」
言いながらエイダは、ローファスに淹れたてのコーヒーを差し出した。
「お口直しにどうぞ」
「ドリップか…まあさっきのよりはマシか」
エスプレッソ好きのローファス的には少々物足りなさを覚えるものの、口直しには良いかと出されたコーヒーを啜る。
「…王国とは違い、聖竜国では紅茶やコーヒーは飲料として一般的ではありません。料理人ですら、まともにコーヒーを淹れた事がない者が殆どでしょう」
「ふむ…ボレアスが特別杜撰な訳ではないという事か。しかしコーヒーがないなら、聖竜国では主に何が飲まれている?」
「基本的には煮沸した水、次点で果実水。後はエールかワインですね。因みに、コーヒー豆は王国から仕入れた高級品です。具体的には黄金と同程度の値で取り引きされております。あまり無駄にされては困りますので、今後ローファス様のコーヒーは私がお淹れ致します」
「…今後はボレアスにコーヒーを淹れさせるのは控えよう。元々舎弟として何かさせてくれとせがんで鬱陶しいから適当にやらせた事だ」
肩を竦めつつ、エイダが淹れたコーヒーを見ながらローファスは続ける。
「料理人すらコーヒーをまともに淹れた事がない、か。それにしては上手く淹れているな。うちの本都のレストランでも通用するだろう。これは商人として培ったスキルか?」
「お褒めに預かり光栄です。昔、父によく淹れていたもので」
「コーヒーをか? 良い父を持ったな。そのお陰で俺は、この香りを楽しめている」
「そうですね…優秀な人ではあったと思います。良い父親だったかはさて置いて…」
妙に影のある笑みを浮かべるエイダに、ふとローファスは首を傾げる。
「貴様の父親は王国人か?」
「おや…なぜ、そう思われるのです?」
「よく飲んでいたのだろう。聖竜国では馴染みのないコーヒーを」
コーヒーは聖竜国では飲料として一般的ではなく、豆は王国から取り寄せる必要がある高級品。
そしてエイダのコーヒーを淹れる技量は、大のコーヒー党であるローファスがその味を認める程の腕前。
つまりエイダの父は、エイダのコーヒーを淹れる腕前が上達する程日常的にコーヒーを愛飲していたという事——聖竜国では高価とされるコーヒーを。
無論コーヒー好きで、それを日常的に飲めるだけの財力がある聖竜国人であった可能性もゼロではない。
しかしエイダは、かねてより——少なくとも学園の学年別トーナメントの時期以前からローファスに会いたがっていた。
当然、ローファスとエイダの間に面識は無かった。
一人の商人として、王国の大貴族たるライトレスと関わりを持ちたいと考えるのは決しておかしくはない。
しかし態々姫巫女を通してまでコンタクトを取ろうとしていたのは流石に不自然である。
エイダには元より、ローファスに会いたがる理由があった。
本人はそれを語ろうとしないが、少なくともエイダはローファスに協力的である。
その協力を受け入れつつも、背景が見えない以上は裏切られる事を前提に行動を共にしていた。
ローファスの要望にその都度協力をさせつつ、今回の予選大会への出場のようなエイダからの要望にも応えつつ、持ちつ持たれつの関係を維持しながら。
これまで己の情報を一切口にしなかったエイダだったが、ここに来ての父親の情報。
敢えてなのか、それとも気が緩んでの発言か。
コーヒーを愛飲していたというエイダの父親——それと王国を結び付けたのは、謂わばローファスの直感によるもの。
しかしその父が王国人であったなら、色々と辻褄は合う。
もしエイダの父が王国人で、尚且つローファスと関わりを持った誰かであったなら、エイダが以前からローファスに関心を寄せていた事も頷けるというもの。
「貴様の父親は、恐らく俺と関わりがある者だ。いや、父親ではない可能性もあるか。貴様の協力的な姿勢を見るに、そいつは俺が世話をしてやっている誰か——となると候補は膨大だが…ローグベルトか、事業関係か、商業組合か」
「…父がコーヒー好きという情報だけでそこまで推察されるとは。随分と想像力豊かなようで」
「む、外れか?」
「さて…お許し頂けるなら、お答えするのを差し控えたい所ですが」
「ふむ…まあ無理には聞かんがな。ただ、俺に協力する貴様の動機が分からんままなのは不気味だな。考えてもみろ。急に面識の無い者がコンタクトを取って来たかと思えば、聖竜国への不法侵入を見逃した挙句に事情も聞かず衣食住を無償で提供すると言ってきたんだぞ」
んー、とエイダは首を傾げつつ、艶かしく唇に指を当てる。
「しかし貴方様は、そんな私からの不気味な提案を呑み、我が商会の懐に入られている。罠である事も折り込み済みなのでしょう。ならば、今更私の事情を知る必要はないのでは?」
「気分の問題だ」
エイダはそっと、己の唇の前に人差し指を立てる。
「良い女には秘密が多く、良い男はそれを一々追及しない。それが世の常です」
「とんだ世の常だな。自分は良い女だと?」
「ええ。その自信と、そう自負するだけの努力を日々しておりますので。時にローファス様は、ご自身が良い男であるという自信をお持ちでしょうか?」
にっこりと笑うエイダに、ローファスは鼻を鳴らす。
「秘密の追及を止めれば俺が良い男である証明になる、か? 良い女は口も回るらしい」
「口が上手いのは女としてではなく、商人としてのスキルでございます。ただ一つだけ本音を申しますと…私は、貴方様のファンです」
「ファン…?」
「ええ。貴方様が王国で成した偉業は、聖竜国の一商人でしかない私の耳にまで届いておりました。東の港町では悪政を敷く役人を懲らしめ、その果てにかの有名な魔の海域の《船喰い》を調伏し、北国では麻薬や奴隷売買に手を染めていた悪徳商人を追い落とした——それはまるで御伽話の英雄譚のよう。私は、そんな英雄様に胸を熱くした者の一人でございます」
まるで恋する乙女のように頬を染め、恍惚に笑うエイダ。
そんなエイダに、ローファスは冷静に言う。
「嘘だな」
「…嘘、ではございませんが」
「まあ嘘ではないにせよ、貴様はそれだけで俺に無償で協力しようなどとは思わん。絶対にな」
「言い切りますか…私の人間性を深く理解される程の関わりはないように思いますが」
「人間性を理解せずとも分かる。なぜならエイダ、貴様は商人だからだ」
「…まあ」
意表を突かれたように、エイダは目を丸くする。
「その心をお聞きしても?」
「俺が知る限り、商人という生き物は何よりも損得を優先する。貴様が俺に協力するのは、そうする事で貴様に得があるからだ。その得が何なのかまでは…まあ聞かないでおいてやるが」
エイダはクスリと笑う。
「…ローファス様がご存知の商人は、随分と強欲な方のようで。しかし一点だけ訂正を。確かに商人にとって損得は重要ですが、商人にはそれ以上に大切な事がございます」
「商人に、損得以上に大切な事…?」
「はい。それは、信用でございます。お客様からの信用が無ければ、商人は物を売れず立ち行かなくなるでしょう。中には己の得ばかりを求める商人もおりますが、そういった手合いは長くは生きられません」
「…ほう」
ローファスはふと、魔の海域の海底神殿に探索隊を送り続けている目をギラつかせた強欲商人を思い浮かべる。
以前止めろと忠告したのに、未だに財宝を求めて海底探索に財を投じているらしい。
確かにあれは長生きしそうにないなと、ローファスは納得する。
「信用か。確かに一理あるかもな」
「商人は一に信用、二に信用です。力ある方の信用を得られれば、儲けは後から付いてきます。例えば…先の予選試合では随分と稼がせて頂きました。新人剣闘士タナトスのオッズは36倍にまで跳ね上がっておりましたので。私が知る限り過去最高倍率です。勿論満額まで賭けさせて頂きました」
「商人が商売ではなく賭け事とはな。俺を剣闘大会に出場させたのはその為か」
「商売の本質は情報です。情報を制した者が商売を制します。つまり賭け事も商売です」
ホクホク顔で言い切るエイダに、ローファスは肩を竦めた。
と、ここでエイダが思い出したように手を叩く。
「あ、そうでしたそうでした。お話が楽しくて忘れる所でした。今日はローファス様にこれを届けに来たのです」
言いながらエイダは、ローファスの前にスッと一枚の紙を差し出した。
それには聖竜国の象徴たる竜の蝋印が押されていた。
ローファスは眉を顰めつつ、その紙に書かれた一文を読み上げる。
「予選二回戦の招待状? 送り主は…タチアナだと」
どういう事だとローファスは顔を上げる。
「剣闘士としての出場は予選一回戦のみ、二回戦以降は棄権する手筈だろう」
「先ずは説明を致します。その招待状はかなり特別なもので、姫巫女が気に入った剣闘士のみに送られます。本来予選は三ヶ月もの期間を掛けてじっくりと行われますが、その招待状の試合で勝てばそれだけで本戦出場が決まります」
「…話が見えんな。俺は棄権すると言った筈だが?」
「その招待状は、謂わば姫巫女様からの命令書。ですので拒否は当然、棄権もできません」
「…タナトスは失踪した。あの女にはそう伝えろと言ったろう」
「そうしたいのは山々だったのですが…」
悩まし気にこめかみを押さえるエイダ。
そんな時、突き破る勢いで扉を開け放ってボレアスが現れた。
その図太い手には淹れ直したコーヒーが入っているであろうポット。
「アニキィ! 言われた通りコーヒー淹れ直したっす! 調理場の下女シメて淹れさせたんで味は悪くねぇかと——ぐぇっ!?」
ローファスはボレアスを蹴り倒すと、その頭をぐりぐりと踏み付けた。
「い、痛いっすよアニキ」
「その耳は飾りか? 俺は貴様に淹れ直せと言ったんだ。それとも、他人に淹れさせろと聞こえたのか?」
「い、いや…俺ぁコーヒーなんて淹れた事ねぇし、アニキを待たせる訳にもって…」
「俺の舎弟を気取っているようだが、命令一つ正しく遂行できん奴など必要無い。二度とその顔を見せるな」
「そ、そんなぁ! 見捨てねぇでくれよタナトスのアニキィ…! 俺ぁ、俺ぁアンタの圧倒的な力に惚れ込んだんだ…!」
足に縋り付くボレアスを、ローファスは蹴り飛ばす。
「ええい鬱陶しい! 今後俺のコーヒーはエイダが淹れる。もう余計な事はするな!」
「そんなぁ…」
涙ながらに膝を突くボレアスから視線を切り、ローファスはエイダを見た。
「…話が逸れたな。それで、なぜ姫巫女にタナトスが失踪したと伝えていない?」
ローファスから問われたエイダは、静かに床に蹲るボレアスを指差した。
「ボレアス様が、タナトスの舎弟になったと巷で騒いでおりまして…その上、それを裏付けるように剣闘士タナトスが所属している我が商会に足繁く通っておられるので。姫巫女様相手にバレバレの嘘を吐く訳にもいかず…後が恐いですので」
「…」
「——ぐえっ!?」
ローファスは無言で、ボレアスを蹴り飛ばした。
こうして剣闘士タナトスの予選二回戦出場が決まった。




