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第三十一話 夏休み⑦

「お兄ちゃん!」


「橘くん!」


二人が俺のことを、名前を呼ぶ。

その声や表情は安堵感がにじみ出ていた。


「は?誰お前?」


「お兄ちゃん?」


俺の、日本一いや、世界一いや、宇宙一いや、俺の中では群を抜いて一番の真理を掴んでいる男どもが俺を見ていう。








………………よし。死刑だ。





いや、待て俺。クールになれ。もしかしたら俺の知らない何か事情があるのかもしれない。


何らかの事情で、俺の日本一、以下略。日本一可愛いいや、以下略。真理を掴んでしまうという状況になってしまったかもしれない。


ここは、冷静に状況を整理しよう。

目の前には真理と鳳さん。それを無理矢理掴んでいる男ども。







…………うん。死刑だな。



いや、だから待て俺。待つんだ。もしかしたらがあるのかもしれない。よし、もう一度質問をしよう。



「お前ら俺のかわい……んん。妹と鳳さんに、なにしてんの?」



冷静に会話するために俺は、いつもの声の高低をけっこう低くし、聞き取りやすいようにゆっくりと喋った。


「うっ……ただ、可愛いと思ったこの子達に話しかけてただけだけど?それよりお前は誰なんだよ?」


……おかしい。俺は最近、耳が遠くなったのかもしれない。一人の男が言った言葉をちゃんと聞き取れなかった。


ここは、もう一度、言ってもらうしかないな。


「悪い、聞こえなかった。もう一度、言ってくんね?」


「は?」


「だから、聞こえなかった。もう一度言ってくれ。頼む」


「お、お前、舐めてんのか?」


「え?舐めてないけど?」


舐めたいのは、真理だけって……何を思わせんだよ!コノヤロー!!


「ほんとに聞こえなかった。だから頼む」


真剣にお願いするために、余計な表情は作らず、無表情でゆっくりと喋り、男にお願いする。俺の真剣さが伝わったのか、男はお願いを聞いてくれた。そそ、なぜか、さっきから震えている声で言う。


「うっ……お前は誰なんだよ?」


「その前」


「そ、その前?…この子達に話しかけて」


「その前!」


「……可愛いとおも」


「そうだ!この二人は可愛い!!」


「え?は?」


「この二人は可愛いんだよ!!」


「「…………(ぽっ)」」


俺は男に近づく。


(そ、そそそそんな。橘くん可愛いだなんて……)


(そ、そそそそうだよ。お兄ちゃん。可愛いなんて……)


(恐怖のせいか、震えてるな二人とも。待っててくれ。今助けるから)


「だから、その手を退けろ。じゃないと、妹を護るだけだけに習った合気道とか、柔道とかで相手になるぞ?」


ぼそっと男の耳元で囁き、警告する俺。


俺の警告を受け入れたのか、男どもは足早にこの場を去っていった。

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