第二十九話 夏休み⑤
「はっ……!」
今、いいえ、今さっきまでとても、こう何と言うか世界で一番幸せを感じられる場所にいた気がするのだけれど。……思い出せないわ。
「あっ起きたんですね鳳さん。急に倒れたんでびっくりしましたよ。これ冷たい飲み物です」
「ありがとう橘くん。それとごめんなさい」
「いえいえ。でもとっさとはいえ、お姫様だっこしちゃってすいません。俺なんかがやっ」
「橘くん!!」
「は、はい?なんですか?」
「今なんて言ったの?」
「俺なんかが鳳さんを……」
「違うわ。その前になんて言ったの!?」
「えーと、お姫様だっこですけど?」
ブシャーっ!!
「鳳さん!?」
「あっ。えと、ごめんなさい!せっかく橘くんがくれた飲み物なのに」
「いえ、それはいいんですけど。すごいですね。まだ蓋も開けてないそれを破裂させるなんて。それよりどうかしたんですか?」
「い、いえ。何でもないわ」
もうっ!!
私ったら何をやっているのよ!!
一生に一度しか無いかもしれない橘くんのお姫様だっこを気絶ごときで無駄にするなんて!!
あの、筋肉が程よくついてる腕にだっこされていたというのに私は!!私は!!
いいえ、まだよ。まだ終わらせないわ!!合宿はまだまだこれからだもの!!
「んぅ〜お兄ちゃん〜」
「おう真理。起きたか」
「うん。おはよ〜……っていうのは変かな?」
「いや、可愛いから全然おー…んん!変だと思うぞ!」
んふふ。
誤魔化そうとしている橘くん可愛い。
グッジョブよ!真理さん!!
「身体は大丈夫?真理さん」
「あっ鳳さん!はい!なんともないです!」
「それは良かった。橘くん。真理さんにもなにか冷たい物をいいかしら?」
「そうですね。……って、あっごめん真理。冷たい飲み物ないわ。ぬるいのしかない。ちょっくら買ってくるから瞬き3回程度待っててくれ」
「いいよ!お兄ちゃん!!それなら私が買いに行くよ!」
「いや、さっきまで倒れていた可愛い妹を行かせるわけには行かないだろ?俺が行く」
「待って、橘くん。それなら私が行くわ」
「いや、鳳さんにも行かせるわけには行かないですって」
「いいのよ。身体を少し動かしがてら買いに行きたいのよ。橘くんから貰ったのもダメになっちゃったし、自分の分もね?それと少しは先輩らしいことさせてね?」
後はこの悔しさと、さっきのさっきまで、橘くんにお姫様だっこされていたというこの身体の火照りを冷ますためにね。
「なら、男らしいことさせて下さい!」
「それは今度また別の機会にしてくれると嬉しいわ」
いつも男の子らしい橘くんがいまこの瞬間、いつもよりも男の子らしい行動をされたら私はまた気絶しちゃうと思うから。
「じゃ行ってくるわね」
「鳳さん!私もついて来ます!」
「真理さんは休んでていいのよ」
「私も身体を動かしたいんで!」
「そうね。なら一緒に行きましょうか?」
「はい!」
「じゃあ橘くん少し待っててもらえるかしら?」
「分かりました。気を付けて」
「橘くんこそ気を付けてね」
「?」
逆ナンパ目的の女の子達からね。
はっ!
そうとなったら早く買って来ないと!
まぁ逆ナンがあれば……




