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リハビリテーション  作者: 雪乃府宏明
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ある少女の自己紹介から

 少しだけ、あたしの事を書く。

 随分と自分から動き出すことを忘れてしまった奴が、それを思い出すために、軋む体をゆっくりと動かすみたいにして、ね。



 星乃越川高等学校1年生。身長・平均よりちょっと低い。体重・多分フツーよりも軽いんだろうなっていうのは、あんまり肉付きの良くないこの体を見てればよく分かる。……えーえー、頭のてっぺんからつま先まで、前にも後ろにも、ね。……前にもね(10文字ぶり2回目)。


 部活には入ってない。ついこの前まで熱烈な勧誘を学校の随所各地で行われたけど、結局それを『UZA』ってなってすり抜けてすり抜けて、晴れて帰宅部への入部を果たした。


 割と運動は得意な方だと思う。体が軽いからぴょいぴょい動く。走ればそれなりに好タイム。ボール競技も大好き。体育の時間でみんなとやるバスケやバレーとかはすっごく楽しいなーって。武道とかもちょっぴり興味。一対一の勝負とかカッコいいなって思うし。


 でも、ね。一つの事に打ち込みたいって気持ちになれないのかな。あと、何かに束縛されてまで、一つの事をうまくなろうって気持ちになれないんだと思う。


 ……なんでだろうね?


 絵は、良く分かんない。多分あんまり上手くない。文章とかも取り立ててうまく書けるわけじゃないし、実験とか料理とかも横目で通り過ぎるだけで十分。


 まぁ、つまり、体育系だろうが文科系だろうが、なーんの食指も動かないわけ。


 ……こーゆーのって、ヘンかな?

 うーん、結構今、当たり前にいそうな気はするんだよね。


 でも、困った事にあたしのおかしな負けん気が、そういう奴らと一緒にすんなと、すこぶる不機嫌にその事実を否定する。


 じゃあ趣味って何だろう?

 ……スマホから流れる音楽を聴きながら、あたしは、ふっと考える。

 ゲームもする。

 マンガも見る。ラノベとか時々読むよ。

 アニメも見るし、ドラマも映画も見るし。

 音楽もこうやって聞くし、ネットの動画とかもフツーに見る。


 でも、それって趣味って言っていいのか分からない。

 みんなが当たり前に見ているものを、あたしは何となく目にしているだけ。そんなのを趣味って呼ぶか、あたしには分かんなくて。

 平べったい、うっすい自分の目。

 学校の勉強は平凡にこなして、何も尖ったものがないあたし、それでいてどっか我の強いこんなあたしを、この社会は受け入れてくれるのかな?


 齢16にして、お先真っ暗じゃね?


 だけど取り立てて危機感もなく。学校の先生のお叱りも右から左。ゴメンね、こんなんで。決してね、先生たちが悪いんじゃないんだよ?

 でもね、あたしはどうやら先生たちの成果にはならないみたいなんだ。


 ……ため息しか出ねーわ。

 見るとこ変えよう。


 えっとね、家族はいとこが一人。

 喫茶店のマスターやってる。

 年は確かアラフォー30代とか言ってたっけ。

 ぶっちゃけ、その人の子供でもおかしくないんだけど、あたし達の関係はどうやらいとこ以上ではないらしい。


 さて、男でしょうか、女でしょうか?


 実はこの人、クールな女性マスター。

 ……を期待してた人、ごめんなさい。

 正解はおっさん。


 でもどうにも老けてない。世のアラフォーの男の人、とかだと、なんかもう疲れて来た人生の曲がり角なおじさんイメージがあるんだけど、この人はなんだかいつもニコニコ、ヘンに活気に満ち溢れてて、ある部分ウザい。


 でもそんなあの人がうらやましくもある。

 いつも悩みのなさそうな顔で、楽しそう。それぐらい、あの人は何の気なしに生きている。


 だから、あたしには兄貴的な存在ではあるんだよね。


 親? あ、うん、死んじゃったんだ。

 で、まぁ、あたしはあの人の事は兄貴って呼んでる。あの人もあたしの事は妹だと思ってくれてるみたいだし。

 時々店を手伝うんだ。あーそうだ。コレは意外と楽しい時がある。変な奴らばっかり集まるウチの店の常連、マンガずっと読んでるサラリーマンとか、売れない作家とか、なんか掛け合いのコント作ってる芸人の卵とか割とあたしの事気にしてくれ……。


 ……あれ? どうしたの?


 あ、親の事?

 ……うーん、あーいう風に軽く言うと大体の人が目を白黒させて、その後の人の話全然聞いてくんなくなるのはもう慣れたつもりだったんだけどな……。さらっと流せば、案外聞き流してくれるなんて……まぁ、世間的にはそうはいかないかぁ……この年でそれが分かっちゃうってのも境遇って事だね。


 あのね、あたし……お父さんの事もお母さんの事も実はよく覚えてないんだよね。二人が死んだのはあたしが8歳のころ。だから全然記憶がないって事もないはずなんだけど……。


 これがおかしな事に何一つ二人の事を思い出せないんだ。どうも事故にあったらしいんだけど……医者の先生も詳しいこと教えてくれなかったし、兄貴も特に何も聞かせてくれないし。


 事故にあった直後、あたしは数週間ぐらい放心状態だった。その間にお父さんやお母さんの葬儀は終わってて、親戚も全然いなくて……結局、あたしは何も知らないまま、兄貴に引き取られたんだ。


 でも、不思議なもんで、お父さんやお母さんのことを全然覚えてなかったから、悲しい事もそんなになかった。顔を上げて、意識がはっきりした時、あたしはなんだか真っ白で、兄貴が今と変わらない笑顔で話しかけてきたのが、今のあたしの知ってる最初の思い出なんだよね。


 あたしとお父さんお母さんの関係が世間一般で言われているような幸せ家族だったのなら、楽しい事もあったかもしれない。二人が死んじゃったことは悲しい事だったに違いない。

 でも、あたしにはそんなことを考える理由はなくなっちゃった。そしてそれを不幸だと感じてない。……だからあたしは、それはそれでいいんじゃないかって思うんだ。


 最近の事。

 ちょっとあたしが、人生とかいうもので、これから期待できそうなこと。


 友達が出来た。きっとアレは友達っていうんだろう。


 青川咲子。

 あたしがたまたまスマホで聞いていたボカロ曲のタイトルを見て、恐る恐る語り掛けて来た同級生。


 ……すげー度胸だと思う。あたしには真似できない。別にあたしはボカロ曲以外にも色んな音楽を、雑食のように、手あたり次第摘まんでは聞くタイプなので、それだけを集中して聞いてるわけじゃない。にもかかわらず吶喊してきた咲子。多分、運とかいう奴があたしらを結び付けたと言えば、多少は聞こえはいいのかな。


 咲子はいわゆるオタ女子だった。話す話題はそっち系。

 でも、嫌いなタイプじゃない。少し引っ込みがちな性格だけど、話は良く聞いてくれるし、満遍なく……あー……『多趣味』? まぁ、あっちこっちにテキトーに手を伸ばしてたあたしは、それが幸いして咲子の話題も楽しく聞けた。


 どうやらあたしはそっちに転がることになりそうだ。

 咲子の趣味的な話をすると、腐っていく可能性もある。


 でも、ね。


 なんだか言ってみればwktk状態。

 自分でも気づいてる。咲子と一緒にいると、笑顔が増えてるって事。そんな事、これまでなかった事。

 小学校も中学校も、なんとなく近寄ってくる子に合わせて、適当に相槌を打って……深く関わり合いになった子はいなかった。

 陰湿ないじめとかはなかったけど、別に誰かと、あるいはみんなとコアな話題で盛り上がったこともなかった。


 そんなあたしが一人の女の子と夢中で話をしてる瞬間がある。

 えへへ……。


 染まったっていいじゃん、楽しかったら。

 咲子はそれを教えてくれた子だった。


 ぶっちゃけねー……咲子もあんまり友達が多い方じゃなさそうだからねー……まぁ、そういう理由で、あたしとだけ盛り上がるのは果たしていいことなのかなーってちょっと思ったりはするけど、割とあたしらの笑顔は上っ面じゃないって思えるんだ。


 だから、何かが変われるなら、咲子とは友達でいたい。

 そう呼べる関係ってどんな事すればいいのか分からないけど、まぁ、このまま一緒にいたら、それに亀裂が入ることもあるかもしれなくて、それをどうするかであたしたちの関係は決まるんだろうなー、なんてマンガ脳が訴えかけてくるわけで。


 ってのがあたし。

 大体こんなトコかなー。


 ……顔だ? あたしの?

 そんなの……知んないよ。勝手に想像してよね。

 絵師さんでも付きゃ、美少女にしてくれるんじゃないの?

 こうしてあたしに触れてる人、それぞれが思う一番似合った顔になってればそれでいいんじゃないかって思うけど。一応、不細工じゃないとは思ってる。……ま、一応。一応ね。 

 あーでもキレたり泣いたりした時、人の顔見て『汚い』とか言ったバカな兄貴分がいたから蹴とばしてやった事はあるけれど。



 桜瀬七波おうせ ななみ


 こんなテキトーな生き物がいます。

 人として無価値にも見える、まだ何にもなってない人間と思しき存在がいます。


 そんなあたしが、よその星から来たバカに体乗っ取られた軟弱作家と、この宇宙を救おうって話の主役になろうってんだから、世のなろう系の物語ってのはホントにどーなってんのかって話だよね、ホント。

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