失敗率 2%
理央が未来を信じるようになったのは、
あの日からだ。
中学二年の冬。
雪の予報は出ていなかった。
母は車で理央を迎えに来るはずだった。
だが、その日は珍しく残業になり、
理央はバスで帰ることになった。
それだけの違い。
たったひとつの分岐。
翌朝、ニュースで知る。
母の車が事故に遭ったと。
居眠り運転のトラックが、赤信号を無視した。
死亡確率は高くなかった。
即死ではなかった。
救急搬送も早かった。
医師は言った。
「助からない確率は、2%ほどでした」
2%。
理央はその数字に取り憑かれた。
98%は助かる未来だった。
それなのに、2%を引いた。
なぜ?
なぜ回避できなかった?
もし、出発時間が三分違えば。
もし、信号が一周期早ければ。
もし、誰かがトラックを止めていれば。
未来は、分岐していたはずだ。
理央はノートに書き続けた。
分岐。
確率。
条件。
回避可能性。
やがて彼は理解する。
世界は偶然ではない。
膨大な分岐の中から、
ひとつが選ばれているだけだ。
ならば。
選べればいい。
最も安全な分岐を。
最も被害の少ない未来を。
あのアプリが現れたのは、その一年後。
最初に表示されたのは、小さな事故だった。
【0.8秒後:自転車接触】
理央は半信半疑で一歩横にずれた。
自転車は転ばずに済んだ。
表示が出る。
【回避成功】
その瞬間、理央の中で何かが確信に変わる。
2%は、消せる。
選べばいい。
間違えなければいい。
母は戻らない。
だが、同じ確率は潰せる。
未来を読めるのに、読まないのは罪だ。
回避できるのに、しないのは無責任だ。
それが理央の倫理だった。
だが、彼は気づいていない。
“2%を消す”ということは、
誰かの1%を押し上げる可能性があるということに。
世界は総和だ。
最適化は、必ずどこかを削る。
理央はまだ知らない。
結と出会うことで、
彼の「正しさ」が揺らぐことを。
そして――
母の事故もまた、
単純な確率ではなかった可能性を。




