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夜の図書館の秘密  作者: 臥亜


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8/14

失敗率 2%

理央が未来を信じるようになったのは、

あの日からだ。


中学二年の冬。


雪の予報は出ていなかった。


母は車で理央を迎えに来るはずだった。


だが、その日は珍しく残業になり、

理央はバスで帰ることになった。


それだけの違い。


たったひとつの分岐。


翌朝、ニュースで知る。


母の車が事故に遭ったと。


居眠り運転のトラックが、赤信号を無視した。


死亡確率は高くなかった。

即死ではなかった。

救急搬送も早かった。


医師は言った。


「助からない確率は、2%ほどでした」


2%。


理央はその数字に取り憑かれた。


98%は助かる未来だった。


それなのに、2%を引いた。


なぜ?


なぜ回避できなかった?


もし、出発時間が三分違えば。

もし、信号が一周期早ければ。

もし、誰かがトラックを止めていれば。


未来は、分岐していたはずだ。


理央はノートに書き続けた。


分岐。

確率。

条件。

回避可能性。


やがて彼は理解する。


世界は偶然ではない。


膨大な分岐の中から、

ひとつが選ばれているだけだ。


ならば。


選べればいい。


最も安全な分岐を。


最も被害の少ない未来を。


あのアプリが現れたのは、その一年後。


最初に表示されたのは、小さな事故だった。


【0.8秒後:自転車接触】


理央は半信半疑で一歩横にずれた。


自転車は転ばずに済んだ。


表示が出る。


【回避成功】


その瞬間、理央の中で何かが確信に変わる。


2%は、消せる。


選べばいい。


間違えなければいい。


母は戻らない。


だが、同じ確率は潰せる。


未来を読めるのに、読まないのは罪だ。


回避できるのに、しないのは無責任だ。


それが理央の倫理だった。


だが、彼は気づいていない。


“2%を消す”ということは、


誰かの1%を押し上げる可能性があるということに。


世界は総和だ。


最適化は、必ずどこかを削る。


理央はまだ知らない。


結と出会うことで、


彼の「正しさ」が揺らぐことを。


そして――


母の事故もまた、

単純な確率ではなかった可能性を。

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