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夜の図書館の秘密  作者: 臥亜


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13/14

世界の未観測化

最初に異変に気づいたのは、結だった。


教室の時計。


秒針が一瞬、逆回転した。


誰も気づかない。


次の日。


コンビニの店員が、同じ挨拶を二回繰り返す。


「いらっしゃいませ」


間。


「いらっしゃいませ」


理央が眉をひそめる。


「観測構造が揺れてる」


端末を開く。


そこには、ありえない表示。


【世界存在確率:94%】


理央の存在ではない。


世界そのものの確率。


結の喉が鳴る。


「…それ、どういう意味?」


理央は淡々と言う。


「俺を100%に戻すために、世界の整合性を削った」


つまり――


帳尻が合っていない。


観測エネルギーは一定。


理央を確定させた分、

“世界の一部”が未観測へ滑り落ち始めている。


崩壊の兆候

・昨日あったはずの店が更地になる

・ニュースが途中で途切れる

・人の影が一瞬、遅れて動く


そしてある朝。


クラスの一人が消える。


誰も騒がない。


結と理央だけが覚えている。


黒板にノイズ。


【局所未観測化】


結が震える。


「これ…連鎖してる?」


理央が静かに答える。


「俺は世界に無理やり戻った存在だ。

構造はまだ俺を異物と認識している」


つまり――


世界が再均衡を取ろうとしている。


理央か。


世界か。


どちらかを削る。


管理層の声

空が裂ける。


赤ではない。


今度は無色の歪み。


音もなく、言葉が降る。


【観測総量超過】


【修正を実行】


結が叫ぶ。


「やめて!」


理央は理解する。


管理層は敵ではない。


世界の“安定装置”。


暴走しているのは自分たちの介入。


理央は初めて、恐怖ではなく覚悟で言う。


「結。選択だ」


世界を守るなら、


自分は再び未観測へ戻る。


自分を守るなら、


世界は徐々に崩れる。


結は涙をこらえる。


「なんでそんなの、二択なの」


理央は空を見上げる。


「観測は有限だからだ」


その瞬間、


地面が透ける。


遠くの街が砂のように崩れ始める。


【世界存在確率:87%】


時間がない。


結の決断

結は、突然笑う。


理央が驚く。


「合理的じゃない顔してる」


結は言う。


「世界とあなた、どっちか消えるなんて前提が間違ってる」


理央が目を見開く。


結は続ける。


「観測総量が足りないなら――増やせばいい」


理央の脳が止まる。


そんな発想はなかった。


観測は奪い合うものだと思っていた。


だがもし。


世界全体が、互いを強く観測し合えば?


人が人を、強く認識すれば?


理央が呟く。


「集団相互観測…?」


結が笑う。


「世界中を巻き込もう」


最後の賭け

理央はネットワークにアクセスする。


結が動画配信を開始する。


タイトルは一つ。


「あなたは、ここにいますか?」


理央が語る。


世界が崩れ始めていること。


だがそれは、無関心の結果かもしれないこと。


「誰かをちゃんと見ること。

名前を呼ぶこと。

覚えていると言うこと。」


世界中で、人が立ち止まる。


コメントが流れる。


「いるよ」


「見てる」


「覚えてる」


誰かが家族に声をかける。


誰かが友達の名前を呼ぶ。


誰かが涙ぐむ。


観測は連鎖する。


画面が震える。


【観測総量:上昇】


【世界存在確率:92%…95%…】


空の歪みが収束する。


管理層の声が、最後に一度だけ響く。


【再定義確認】


【観測構造:拡張】


理央が息を呑む。


世界は“奪い合い”ではなく、


“共有”へ再設計される。


光が降る。


静寂。


数日後。


教室。


理央は普通に座っている。


結が小声で言う。


「世界、残ったね」


理央が答える。


「俺たちが観測し続ける限りな」


窓の外。


空は、何事もなかったように青い。


だが黒板の隅に、かすかに残る文字。


【観測構造:更新済】


そして、その下に小さく。


【第三の観測者:待機中】

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