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魔王に恋した乙女の、誇りと意地の物語  作者: 八刀皿 日音
第3章 魔王と乙女は、闇を払い輝く星

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第29話 深き闇にこそ、星は強く輝く −4−


「――ハイリアっ!!」


 ……考え得る最悪の事態に、思わず今一度、必死に声を張り上げてしまう。



 いや、しかし――何だ……?

 まさに目的を遂げ、歓喜に満ちているはずの、グーラントの表情が……引きつっている……?



「な、なぜだ……っ!

 なぜ、そのチカラ――奪い取れん……!?」


「――さて、な」



 対して、ハイリアは――。

 普段とまるで変わらない、涼しげな様子で……鼻を鳴らした。


「あるいは……そう。

 余が、これまでの魔王と違い――〈魔胎珠(マタイジュ)〉をそのまま受け入れるのではなく、その衝動に抗い、飼い慣らすようにチカラを得たがゆえ……かも知れぬな?」


「何だと……!?

 いや、しかし、その程度のことが――!」


「――どちらにせよ……だ」


 冷たい声で言い放ち、改めてハイリアは、鬼気のこもるその視線で……狼狽(うろた)えるグーラントを射貫く。


「キサマごとき――そもそもが、王たる器ではなかったということだ」


「ぬ――ぬかせぇっ!

 ならば、その命を削りつつ奪い取ってやるまでよッ!!」


 猛り狂うグーラントは、しかし、ただ感情のままに動くのではなく――。

 宿主たるクーザが持つ卓越した剣技を駆使し、巧みにハイリアに攻めかかる。


 …………が。


 その縦横無尽にして獰猛な剣撃を――ハイリアは、彼の最も得意とする足技だけでものの見事に(さば)ききり――。


「すまぬな、クーザ……この一撃は――許せよ!」


 グーラントが動きを止めた一瞬のスキに……クーザへの謝罪を伴った強烈な蹴り上げを、魔剣を握るその手へと繰り出した。


「ぐ――がああっ!?」


 離れていても、骨が砕ける音が聞こえてきそうなその蹴りによって――魔剣は、高々と宙を舞う……!



「――やるぞ、シュナーリア……頼む!」


「キミのことだ、そう来ると思ったよ!!」



 何をどうすると言われずとも……そもそも、すでにそれを察していたわたしは。

 さっきから、2人の戦いに余計な手は出さずに練り上げていた魔力を解放――。


 最高位の結界魔法で……魔剣を、空中に生み出した小さな異空間に拘束した。

 そして、そこへ――


「……(そら)(みや)(そら)諸王(しょおう)(かしず)く王……!

 (みそ)ぎて神殺(みそぎ)(みささぎ)御捧(みささ)ぎ――!」


 ハイリアが――最強とも呼べる破壊魔法の詠唱に入る。


「…………!」


 それは……その魔法は。


 〈星〉が迎える最期のとき――。

 ひときわに強く大きく輝く、その(つい)の光を再現するもので……。



 …………ああ…………そう、か。


 わたしはその、奇妙な符号のような事実に――きっと、一つの悟りを垣間見た。



「……()の名、絶星(たえぼし)

 言祝(ことほ)殊吼(ことほ)耀(かがや)き、断末魔(だんまつま)(ひかり)――ッ!」


 やがて、詠唱動作が完成し――。

 ハイリアは、中空に陣を描いていた腕を……大きく振り払う!



「いけえっ、ハイリア!!」


「――〈天宮(てんきゅう)ノ……星終(さいはて)〉ッ!!!」



 ハイリアが魔法を解き放った――その瞬間。


 わたしが魔剣を閉じ込めた結界内が――異空間であるにもかかわらず、こちらまで真昼のごとく照らし出すほどの、凄まじいまでの白い閃光に満たされ――!

 同時に、わたしの渾身の結界ごと吹き飛ばさんばかりの、途轍もない爆発が荒れ狂い――!


「――還るがいい……。

 本来キサマがあるべき、星の命の(めぐ)りへと」


 その圧倒的な威力によって。

 閉じ込められていた魔剣は、カケラも残さぬほど……文字通りに、跡形もなく消し飛んだ。



「――ぬ、ぐ――おおおああああぁぁーーッ!!??」



 それに伴い……いわば、『本体』とも言うべき魔剣を破壊されたグーラントは。


 断末魔の叫びとともに、クーザの身体から、ドス黒いモヤのように立ち上り……。

 そして、そのまま……微かな光の粒子と化して、中空に消えていく。



 ――まったく……愚か者め……。


 〈魔胎珠〉を深く研究するがゆえに、いつしか、その〈闇〉に心を蝕まれてしまったんだろうが……。

 人々に確かな恩恵も与えた、その才を――最後まで、誤らずにいたなら……。


 同じように、時代に才をもてはやされた研究者として……感じ入るところもあって。



 わたしは、せめてもの手向けと――。

 僅かながらの黙祷をもって……哀れな先達を、見送ってやるのだった。






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