第29話 深き闇にこそ、星は強く輝く −4−
「――ハイリアっ!!」
……考え得る最悪の事態に、思わず今一度、必死に声を張り上げてしまう。
いや、しかし――何だ……?
まさに目的を遂げ、歓喜に満ちているはずの、グーラントの表情が……引きつっている……?
「な、なぜだ……っ!
なぜ、そのチカラ――奪い取れん……!?」
「――さて、な」
対して、ハイリアは――。
普段とまるで変わらない、涼しげな様子で……鼻を鳴らした。
「あるいは……そう。
余が、これまでの魔王と違い――〈魔胎珠〉をそのまま受け入れるのではなく、その衝動に抗い、飼い慣らすようにチカラを得たがゆえ……かも知れぬな?」
「何だと……!?
いや、しかし、その程度のことが――!」
「――どちらにせよ……だ」
冷たい声で言い放ち、改めてハイリアは、鬼気のこもるその視線で……狼狽えるグーラントを射貫く。
「キサマごとき――そもそもが、王たる器ではなかったということだ」
「ぬ――ぬかせぇっ!
ならば、その命を削りつつ奪い取ってやるまでよッ!!」
猛り狂うグーラントは、しかし、ただ感情のままに動くのではなく――。
宿主たるクーザが持つ卓越した剣技を駆使し、巧みにハイリアに攻めかかる。
…………が。
その縦横無尽にして獰猛な剣撃を――ハイリアは、彼の最も得意とする足技だけでものの見事に捌ききり――。
「すまぬな、クーザ……この一撃は――許せよ!」
グーラントが動きを止めた一瞬のスキに……クーザへの謝罪を伴った強烈な蹴り上げを、魔剣を握るその手へと繰り出した。
「ぐ――がああっ!?」
離れていても、骨が砕ける音が聞こえてきそうなその蹴りによって――魔剣は、高々と宙を舞う……!
「――やるぞ、シュナーリア……頼む!」
「キミのことだ、そう来ると思ったよ!!」
何をどうすると言われずとも……そもそも、すでにそれを察していたわたしは。
さっきから、2人の戦いに余計な手は出さずに練り上げていた魔力を解放――。
最高位の結界魔法で……魔剣を、空中に生み出した小さな異空間に拘束した。
そして、そこへ――
「……天の宮、冥の諸王傅く王……!
禊ぎて神殺、陵に御捧ぎ――!」
ハイリアが――最強とも呼べる破壊魔法の詠唱に入る。
「…………!」
それは……その魔法は。
〈星〉が迎える最期のとき――。
ひときわに強く大きく輝く、その終の光を再現するもので……。
…………ああ…………そう、か。
わたしはその、奇妙な符号のような事実に――きっと、一つの悟りを垣間見た。
「……其の名、絶星!
言祝ぎ殊吼ぐ耀き、断末魔の晃――ッ!」
やがて、詠唱動作が完成し――。
ハイリアは、中空に陣を描いていた腕を……大きく振り払う!
「いけえっ、ハイリア!!」
「――〈天宮ノ……星終〉ッ!!!」
ハイリアが魔法を解き放った――その瞬間。
わたしが魔剣を閉じ込めた結界内が――異空間であるにもかかわらず、こちらまで真昼のごとく照らし出すほどの、凄まじいまでの白い閃光に満たされ――!
同時に、わたしの渾身の結界ごと吹き飛ばさんばかりの、途轍もない爆発が荒れ狂い――!
「――還るがいい……。
本来キサマがあるべき、星の命の廻りへと」
その圧倒的な威力によって。
閉じ込められていた魔剣は、カケラも残さぬほど……文字通りに、跡形もなく消し飛んだ。
「――ぬ、ぐ――おおおああああぁぁーーッ!!??」
それに伴い……いわば、『本体』とも言うべき魔剣を破壊されたグーラントは。
断末魔の叫びとともに、クーザの身体から、ドス黒いモヤのように立ち上り……。
そして、そのまま……微かな光の粒子と化して、中空に消えていく。
――まったく……愚か者め……。
〈魔胎珠〉を深く研究するがゆえに、いつしか、その〈闇〉に心を蝕まれてしまったんだろうが……。
人々に確かな恩恵も与えた、その才を――最後まで、誤らずにいたなら……。
同じように、時代に才をもてはやされた研究者として……感じ入るところもあって。
わたしは、せめてもの手向けと――。
僅かながらの黙祷をもって……哀れな先達を、見送ってやるのだった。




