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魔王に恋した乙女の、誇りと意地の物語  作者: 八刀皿 日音
第3章 魔王と乙女は、闇を払い輝く星

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第26話 深き闇にこそ、星は強く輝く −1−


「フン、乙女の矜持(きょうじ)などと……それこそくだらんことを。

 ――まあ良い、つまらん言葉遊びに付き合うのもここまでだ。

 小娘、我が悲願の成就に大いに役立った、お前の才だけには敬意を表し――」



 グーラントは、異様な気配を放つ――ヤツの歪んだ理想の集大成とも言うべき〈魔剣グライエン〉を抜き放つと……。


「このグライエンを以て、我が手で直々に――葬ってくれよう!」


 残像を置いてくるほどの鋭い踏み込みで――わたしに斬りかかってきた!

 半ば反射的に、手にしていた剣に魔力を集中させつつ受け止めるも……。


「……っ……!」


 ――さすがに、重い……!


 単純な武器の性能差と体格差もあるだろうが……。

 いかんせん、グーラント本人はともかく、クーザは剣術の達人だ。


 その記憶と経験を活かせるなら……たとえクーザ本人よりは劣るとしても、この状況下、しかも今のわたしでは、やはり分が悪いか……!



「……おねえちゃんっ!

 パパぁ! ダメだよ、やめてよぅっ!」



 庭の木の陰に隠れているクローネの、そんな悲痛な叫びが届いた瞬間……。

 その身体に、クーザの魂がまだ存在するゆえだろう、僅か――ほんの僅かながら、一瞬、わたしをし潰す勢いだったグーラントの剣の圧力が弱まる。

 そのスキを突いて、わたしは相手の土手っ腹を蹴り飛ばすとともに――。


「〈火園(かえん)焚城(やしろ)〉ッ!」


 詠唱動作を省き、精神集中も一瞬で済ませて……猛炎の壁を噴き上げる中位魔法を、瞬間構築で発動させて牽制し、今一度距離を取ることに成功した。


「ほう……! そのクラスの魔法を、ここまでの威力、しかも無詠唱の瞬間構築で発動させるか……!

 なるほど、この時代において、最強の魔法使いと呼ばれるのもダテではないらしいな……!」


「この時代の――ね。

 頼んでもないのに、今に至るまで他人様ひとさまにへばりつくように生きてきた、ドがつくほどの老害中のド老害……。

 さしずめ『どどろーがい』って感じのキサマに言われても、嬉しくもないね!」


 ちょっとばかり冷や汗モノだったことは押し隠し……子供がやるように、んべっと舌を出してやるわたし。



 しかし、これは――。

 さすがに、この身体を気遣いながらで、何とかなる相手じゃない、か……!



「フン、安っぽい挑発を……。

 だが、敢えて乗ってやる――小娘、お前がどこまで耐えられるか、見物みものだな!」


 歪んだ笑みを浮かべてそう言うや否や――。

 グーラントは、魔法で生み出した火球を連射しつつ……それを追うように斬り込んでくる!


「そういうところが、老害だって忠告してやってるんだろ……?

 この、『どどんどどろーがい』めが――!」


 向かい来る火球を、同じく火球を放って相殺――最後に残った1発は魔力を込めた回し蹴りで蹴り飛ばすとともに、そのまま回転斬りでグーラントの剣を受け止める。


 同時に、力勝負に持ち込まれないよう、すかさず地面から土の槍を生み出して牽制――。


 さすがに向こうも予測していたのか、迸る雷撃で土の槍を貫きつつ攻撃してくるのを、円を描いて回り込むように回避。

 その間に、まとめて瞬間構築していた魔法の同時発動――生み出した無数の氷刃を烈風に乗せることで、不規則に襲いかからせる。


 しかし、グーラントは炎で前面に盾を作り、さらに烈風を利用して側面から飛ばした氷刃は剣で叩き落としつつ、再びわたしに肉薄――。


 互いの刃が、またも激しく火花を散らした。


「ククク……! 早くも息が上がってきていないか?

 研究のためにと屋敷に引きこもって、身体が鈍っているのではないか……?」


「ふん、余計なお世話だ……!

 他人ヒトサマの身体に何百年も引きこもり続けてきたような、ドがつく引きこもり――『どこもり』ヤローなんぞに言われたかない――っての!」


 思いッ切り悪態をついてやりつつ、さらに魔法を瞬間構築――。

 向こうが、剣で押さえ込んだわたしを、背後からの氷の槍で貫こうとしたところを……敢えて自分に向かっての烈風魔法で、身体を横殴りに吹っ飛ばして回避。


 さらに、その後も……。


 わたしを弄ぶかのように、魔法と剣撃を交えて追いすがってくるグーラントを……わたしもまた、魔法に剣に体術と、あらゆるものを総動員して、動き回りながら(さば)き続ける。



 ――そうして、わたしたちは……。

 戦いながら、噴水の周りをぐるりと回って――いつしかちょうど1周、また元通りの位置取りに戻ってきていた。



「くく……よく耐えたが、さすがにもう限界といったところか?

 その剣も……そして、お前も」


 ここまでの攻防で――いかに魔力を帯びさせているとは言えボロボロになった剣と、傍目(はため)にも分かるほどに息が上がってきたわたしの姿に……。

 グーラントは、そのまますぐにわたしを追い詰めようとするでもなく――イヤミな余裕をもって、問いかけてくる。


 まあ、そう来るだろうとは思っていたが……その通りで、助かった。



 そう……何せ。

 わたしの『狙い』には、まだ、もう少しだけ――()()からな……!






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