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魔王に恋した乙女の、誇りと意地の物語  作者: 八刀皿 日音
第3章 魔王と乙女は、闇を払い輝く星

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第23話 王として、為さねばならぬこと


 ――このたった2日程度の間に、随分と状況が変わったものだ……。


 誰一人おらぬ謁見の間にて、玉座に腰掛けたまま、余は。

 ゆっくりと、大きく一つ、息をつく。



 ……切っ掛けは、シュナーリアの襲撃計画の発覚。

 計画そのものは事前に鎮圧され、事なきを得るも――しかしその襲撃犯と繋がりがあったのは、旧臣にして忠臣のはずのオーデングルムであり……。

 しかもその襲撃対象には、余まで含められていた。


 さらに、その襲撃者が大義名分として――シュナーリアの魔族への『裏切り』の証として持ち出したのは、あやつが〈勇者〉に宛てた書簡であり。

 その上、それを隠し持っていたのが、腹心として頼みにしていた〈魔将軍〉ガガルフの部下であるという……。


 つまりは、オーデングルムは、明確な余への謀反。

 そしてガガルフは、シュナーリアとともに、〈勇者〉と繋がるという『魔族への反逆行為』に荷担した疑いがあることになり……。

 互いの方向性こそ微妙に違えども――余は、ものの見事に重臣たちに裏切られていた……という形になるわけだ。


 もちろん、オーデングルム、ガガルフの両名ともに、直接関与していない可能性は充分にある。

 少なくとも、本人たちはそう申し開きをしている。


 だが……当然ながら、上に立つ者である以上、部下の管理には責任が伴う。

 ゆえに、未だ事実関係がはっきりとしていないこともあって、全くの咎め無しとはいかず……今は揃って牢の中だ。


 そして、シュナーリアについては……正直なところ、『やはりか』という思いだった。


 あやつが、単なる引きこもりの理由付けだけでなく、実際に今も何かを研究しているのは確かだろうが……。

 それと並行して『和解』への道も模索していたであろうことは、あやつの性格を知っていれば想像に(かた)くないからだ。

 ……それが、こういう直接的な手段となっているであろう可能性についても。


 ただ、あやつについては……如何(いか)なる手段に訴えていようと、余を裏切ることだけは決して無いと、それだけは言い切れる。

 それだけは――間違いなく、信じられる。


 だが……それもあくまで、余の個人的な感情の話だ。


 その『手段』を、余だけならともかく、他の者にまで知られたとあっては……さすがに放っておくわけにはいかず、先の2人と同じく、投獄という処置を()るしかなかった。



「……〈勇者〉も着実にチカラをつけ、戦も佳境にあるという今――内輪で、こうまで続けて面倒事が起こるとは……な」



 まったく、ままならないものだ――と、思わず自嘲気味な笑みがこぼれる。

 このガランとした謁見の間が、そのまま、余の置かれた状況を表しているようだ。


 こうして――〈列柱家(れっちゅうけ)〉の主立った者たちが、投獄やらその後処理(あとしょり)やらで王都に戻り、さらにこの余まで前線を離れたとなれば。

 〈勇者〉や人族の戦士たちは、事情は分からずとも、今が好機――と、さぞかし攻勢を強めていることであろう。

 しかし――だからといって、今のこの状況を捨て置くわけにもいかぬからな……。



「――ハイリア様」



 そうして、思索を巡らせていたところへ――。

 物音らしい物音も立てずに、この場にやって来たのは……1人の若い〈鬼人族(オーガ)〉のメイド。

 ガガルフの異母姉にして、余の専属の側仕えでもあるニニだった。


「ニニ……お前にも苦労をかける。すまぬな」


 余がそう言葉を掛けると……ニニは、ふるふると首を横に振る。


「では……まさか、先に頼んだこと、か?

 ――さすが、仕事が早いな」


 今度は、こくこくと首を縦に振ったニニは――「失礼します」と小声で断ってから、余のもとへ近寄り……耳打ちしてくる。


 ……実のところニニは、幼少時よりの余の側仕えであると同時に――余専属の密偵の長という役目も帯びている。

 そして当然それは、〈列柱家〉の者――弟のガガルフでさえ(あずか)り知らぬことだ。


 いや、だが……シュナーリアだけは自力で看破していたか。

 おかげで、当時はまだ我らと同じく幼かったニニは、一時、随分と落ち込んだらしいが。


 それはともかく、そんな役割を持つニニが、余に報告してきたのは――。

 余が求めていた情報、そのものだった。



「そうか…………分かった」



 これで、余が今、第一に為さねばならぬことが定まった。

 ……王として、為さねばならぬことが。


 余は、満を持して玉座より腰を上げると――。



「ニニ。牢のシュナーリアのことは任せた」



 傍らのニニに、それだけを伝え……。

 返答としての一礼を背に受けつつ、ただ一人、謁見の間を後にした。






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