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魔王に恋した乙女の、誇りと意地の物語  作者: 八刀皿 日音
第3章 魔王と乙女は、闇を払い輝く星

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第20話 大乱への萌芽 −2−


「……ば、バカな! これは何かの間違いです、ハイリア様!

 いくらワシがシュナーリア嬢と意見を対立させているとは言え――同じ〈列柱家(れっちゅうけ)〉当主、しかも主君の婚約者でもある者を害するなど!

 このワシが、どうしてそのような愚かしい真似に関わりましょうか――!」



 ――ガガルフの報告のあと、オーデングルムは当然のようにそう弁明した。


 余としても、よもやこやつが……という思いはあったが、ガガルフにクーザと、〈列柱家〉の当主が2人も事実として確認しているとあれば、何もせぬわけにはいかず――。


 改めて仔細しさいを確かめるまではと、ひとまずオーデングルムを拘束。


 この場の軍の指揮は、軍全体において信頼の厚いガガルフに任せ……余は急ぎ、王都へと取って返すこととなった。



 そうして、シュナーリアの様子も気にはなったものの……襲撃そのものは事前に防がれたということでもあるし、まずは為すべき事を為さねばと、謁見の間にてクーザの直接の報告を受ける。


 クーザは、余が戻るまでの間にさらに調査を進めていたらしく……襲撃者たちが間違いなくオーデングルムの一族の者であることを、様々な証拠を以て証明した。



「人族を滅ぼし、世界を魔族の手に取り返すという、積年の悲願……そしてそれを果たせなかった先祖の無念――。

 それを(ないがし)ろにするばかりか、あまつさえ宿敵と手を結ばんとする、裏切り者のシュナーリアと……。

 そのような毒婦に惑わされ、我らが主としての誇りを捨てた、惰弱な魔王に鉄槌を――と。

 襲撃者たちが、動機として語ったのが……以上のような言葉となります」


「主戦派の中でも、最も過激な意見の連中――というわけか」


「……はい。同じような思想を持つ者が、実際にどれだけの数になるのか――までは分かりかねますが。

 しかし、今回の件につきまして、真に問題となっていることの一つが……。

 襲撃者たちに協力し、その計画の後押しをしていたのが……オーデングルム殿である、ということでしょう……」


 神妙な顔付きで……重々しくも、クーザはそう言い切った。


「あのオーデングルムが、か――確かなのであろうな?」


 オーデングルムは、確かに主戦派ではあるし、〈列柱家〉で誰よりも、『先祖より託された魔族の悲願』を遂げることに固執している人物でもある。

 しかしそれだけに、魔王たる余への忠誠は厚いものと信じるに値し……。

 また、貴族として強く『魔族のため』を思うからこそ、このような凶行がどうしようもなく愚かであることぐらい、充分過ぎるほど充分に理解しているはずなのだが。


「オーデングルム殿より留守居を任されているご子息が、襲撃者と関わっていたという事実も確認しております。

 オーデングルム殿ご自身が積極的に協力したわけでなくとも……すべてを知った上で、敢えて黙認されたのやも知れません」


「いずれは余を排し――己が魔族の王とならんが為に、か?」


「襲撃者たちの言葉からすれば……あるいは。

 しかし、仮にすべてに関係がなかったとしても――家人が起こした事件であることには変わりなく……。

 いきおい、当主としての責は免れ得ぬかと」


「やむを得ぬ――か……」


 ……とは言え、もうしばらく調査を進め、事実がはっきりとするまで、安易に処罰を下すわけにはゆかぬな――。


 思わず、大きく息を吐き出しながらそんなことを考えていると……報告を終えたはずのクーザが、これまでに増して険しい顔をしていることに気付く。


 いや、そう言えばこやつ――先ほど、オーデングルムの関与について、『問題の一つ』という言い方をしたな。

 つまりは……まだ問題がある、ということか……?


 そのことを、改めて余が促すと――。

 クーザは、なおもしばし躊躇(ためら)ったあと……一言断ってから玉座の余に近付き、封の開けられた書簡を一つ、差し出してきた。


 そして、余がそれを受け取り、開く間に……元の場所に戻る。


「……襲撃者が所持しておりました。

 自分たちの行為の正当性を主張するモノである――と」


「! これは――!」


 見慣れた筆跡のその書簡を――最後に(したた)められたその署名まで、目を通した余は。

 反射的に、声を発してしまっていた。


「………………。

 クーザ、その襲撃者は、これの出所について……何と?」


「……それが……」


 この上まだ何か言い淀むようなことがあるのか……クーザの口は重い。


「つい先刻、何とか聞き出しましたところ……。

 どうやら――ガガルフ殿直属の兵が所持していたらしく……」


「――なるほど。

 この上、ガガルフの名まで出るか……」


 余は、再び大きく息をつきながら……シワが寄っているだろう眉間に指を当てながら、玉座へと深く背を預けていた。


「心中、お察しいたします」


 やりきれない、とばかりに――クーザもまた、力無く言葉を絞り出す。


 ……そう、やりきれない話だ……まったくもって。


「……クーザよ」


「――はっ!」


「改めて聞こう。

 キサマは――余への、そして我ら魔族への忠義に、偽りは無いな?」


 余が問うと……クーザは、下げたままの頭を動かし、自らの腰に帯びた剣を見やる。

 ――先祖の手に成る魔剣……グライエン、といったか。


「当然でございます。

 先祖より、魔王たる方への変わらぬ忠義の証として伝わってきました――この剣と同じく……!」


「そうか――分かった」


 クーザの強い返事にうなずいた余は、今一度、手の中の書簡に目を通すと――。

 それを、強く握り締め……立ち上がった。


「……ハイリア様っ?」



「――牢に向かう。

 まずは、襲撃犯たちと直に話がしたい」






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― 新着の感想 ―
[一言] ハイリアの立場からしたら、何が真実かは何とも言えないですもんね……。 状況証拠から判断するしかありませんよね。
[一言] ハイリアの胃が心配になってきました! オーデングルムの真実はどうだか分かりませんが、シュナーリアがユーマと通じているのは本当ですからね~(汗) いったいどうなってしまうのか!?
[一言] オーデングルム殿、ハメられてるのはほぼ確実ですが問題はこの謀略がどのくらい根付いてるか?って事なんですよね……。 首謀者個人(おそらくアイツ)が全体を欺いているだけなのか、それとも他にも中…
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