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6月14日(月)
今日は加藤さんが立花さんと一緒に教室を訪ねてくれた。手には先日貸したタオルと、可愛くラッピングされたチョコチップクッキー!
「金曜日は本当にありがとう。このクッキーはお礼。田中くんの為に作ったんだ」
ただタオルを貸しただけなのに、こんな素敵なものをいただけるだなんて……! タオルもドンが洗濯した時よりも柔らかい。まるで新品のよう。俺は、何度もお礼を言った。
で、家に帰って早速食べたわけなんだけど。いやー、美味しかった! さっきお礼のメッセージを送ったんだが、って書いてる最中にスマホが震えた。
「よかった。家族以外に食べてもらうの初めてだったんだけど、田中くんに渡したくて作ったの! 緊張したけど、喜んでもらえて嬉しい」
心落ち着かせるために書き起こしてみたが、いやいや、むしろ気になる箇所ばかりじゃないか! だって、初めてってどういうこと!? 俺が! ど、ど、どうしよう。なんか照れる! えっ、なんて返信すればいいんだ、俺は!
日記書いてる場合じゃないぞ、これ!
6月15日(火)
昨日の俺、興奮しすぎだろ。いや、今日の俺だって、加藤さんまともに見れなくなったから大して変わりないか。
心落ち着かせるためにごみでもまとめよう。明日は燃えるごみの日だからとドンもうるさいし。……そんなに汚れてはいないと思うんだが。
まあ、明日はあいつが来ることになったし、部屋と気持ちの整理がてらまとめていきますか。
ふふっ、ついにこの日記に、私も書いちゃった。一緒の紙に文字を書くだなんて、まるで婚姻届みたい。照れちゃう。
本当は、我慢しようと思ってたの。傘やタオルみたいに、大事に保管して眺めるだけにしようと思ってた。この日記を手に入れるために、あの男に遥のスケジュール教えたりとか色々大変だったから。でも、どうしても書きたい衝動に駆られて負けてしまった。だって、だって、ひでくんが私の事を好きだって!! あんな可愛い顔で告白してくれるだなんて奇跡みたい。ああ、でも奇跡と言うには少し手を加えちゃってるからなぁ。ある種の必然だったのかもね。
ひでくんを好きになってからは毎日が鮮やかな色で染められているのに、これからどうなっちゃうんだろう。もう死んじゃうんじゃないかな。なーんてね。ひでくんを残して死ぬことだけはないのに。ひでくんが死ぬなら私も死ぬし、私が死ぬならひでくんも一緒がいい。これから先過ごす時間、一緒じゃない時間なんて存在させたくないもの。
だってだって、ひでくんに会う前は退屈で毎日がどうしようもなかったんだもん。通学の電車は殺伐としていて、授業も刺激はないし、もうとにかく酷い気分だった。
そんな時に見つけたのがひでくん。彼が勇敢にも痴漢から近隣の女子高生を助けてあげたところを見て、私の無色な日々は突然色づいた。サラリーマンと協力して痴漢のベルトを掴んで逃げないよう拘束して、駅員に引き渡すところはドラマみたいだった。彼はどうしてこんなにも正義感に溢れていて、勇敢なんだろう。気になった私は、悟られない範囲でひでくんのことを調べていった。そして調べていけばいくほど、彼の魅力にハマっていった。ひでくんの器の大きさや、頼られたら断れないところや、自分の容姿に自信がないところとか、私を夢中にさせた。私の日々はどんどん彩りが増していった。
眺めるだけじゃ収まらなくなった時に、あの男と出会えたのは運が良かったかな。あんな男と結ばせちゃって遥には申し訳なかったけど、でも幸せそうだし、許してね。
自然な流れでひでくんとお友達になれて、こうして恋人になれたことがとっても嬉しい。最初の恋人の座も、最後の恋人の座も私のもの。なんて素敵なんだろう。
ああ、ひでくん。だいすき。
だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき、だいすき。ああ、どれだけ書いても、口にしても足りない。どうしたら私の想いが伝わるんだろう。これからの時間、めいいっぱいひでくんに気持ちを伝えていかないと。よそ見なんてする暇、絶対に与えないんだから。
これからずぅーっと一緒だよ、ひでくん。
おしまい




