表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田中英夫の観察日記~病んでるイケメン友人とその日常~  作者: 柑橘眼鏡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/20

18 2冊目 p.9

7月15日(木)

 例の順位が記載されている紙ぺらが渡された。31位。ある意味難しい順位をよくとったよ、俺。


 普段なら、この紙ぺらに一日の思考を奪われるところだけど、俺の頭は明日のことでいっぱいだ。自分でも馬鹿らしいけど、「高校生」「告白」「タイミング」なんてワードで検索してしまう。初デートはNGらしいけど……、うーん、その場の雰囲気だよなぁ。


 昨日のドラマティックな告白劇から一日しか経っていないのに、岡田が立花さんと付き合い始めたという話は光の速さで広がっている。岡田が公言しているのはもちろん、井下が各クラスにいるインフルエンサーに情報を渡しているからだ。恐ろしいったらありゃしない。


 岡田に恋人が出来たことで嘆きの声が上がり、立花さんに恋人が出来たことで落胆の声が上がった。二人とも人気者だね。


 岡田はデレデレしっぱなし。今日は駅から一緒に登校したってさ。昨日の通話は盛り上がったと感謝されてしまった。はいはい、惚気をどうもありがとうございます。


 あー、俺も惚気たい! 明日、どうなるんだろう。正直、怖い。高校受験の時よりも緊張してる。今日、眠れるかな。




7月16日(金)

 この日記、一応開いたけど、今日は興奮で書けそうにない。だって、無事に成功するとは思わなかったから……。




7月17日(土)

 寝て起きて、夢じゃないことを確認。現実ってすごい。


 単刀直入に言えば、俺の告白は無事に成功した。お付き合いを始めることができた。


 昨日の放課後、俺らは図書室で待ち合わせをすることになっていた。待たせるわけにはいかないので、教室を誰よりも早く抜けた。腑抜けている岡田は腑抜けた声で「頑張れ」と応援してくれた。


 先に図書室に着いた俺は人がいない独特の空気を味わいながら待った。暫くすると加藤さんが現れた。いや、もう、めっちゃ緊張。これだけで変な汗が出そう、というか出てた。声がうわずらないよう気をつけながら挨拶をして、一緒に図書室を後にする。


 道中は何を話していたか覚えてないけど、でも、加藤さんの笑顔を多く見ることができたのは覚えてる。だから、きっと楽しんでもらえたはず。


 訪れたのは前に来たパンケーキの店。俺は前回と同じものを生クリーム少なめで頼み、加藤さんは季節限定のマンゴーが乗ったパンケーキを頼んだ。飲み物は二人ともアイスティー。


 注文が終わると、間が訪れるわけで。俺が最初に何か言うべきなのに、加藤さんが話を振ってくれた。


「二人で出かけるのは初めてだね。今日、楽しみにしてたんだ。誘ってくれてありがとう」


 ストレートな言葉に、可愛い笑顔。そつなくこちらからもお礼を伝えられたものの、意気地なしの俺は加藤さんに好意を示す言葉は言えず、テストの話を振ってしまった。


 その後も、到着したパンケーキの写真を撮ったり、生クリームの多さについて熱い議論を交わしたりと盛り上がったものの、なんていうか、色気のある会話は一切なかった。


 会計を済ませて、駅まで一緒に向かう。言わなきゃいけないのに、言えない。俺は緊張していて、言葉数も少なくなってしまった。俺の態度に流石の加藤さんも不審に思ったのか、改札に着いた時、立ち止まって俺はこう言われてしまった。


「田中くん、どうしたの? さっきから様子が……。大丈夫?」


 大丈夫じゃないです、なんて言えない。俺が言うべき言葉は決まっているのに、最後の一歩が踏み出せない。


「その、ごめん、変だったよね。俺、緊張してて……」


「…………?」


 不思議そうに首を傾げる加藤さん。この場で言わなければ、今日はもう言う機会はない。覚悟を決めた俺は加藤さんを真っすぐ見つめた。俺の顔は間違いなく赤かっただろうね。


「今日、誘ったのは、別にパンケーキが食べたいわけでも、テストお疲れ様会をしたかったわけじゃなくて、その、加藤さんと一緒に過ごしたくて。だから誘ったんだ」


「……うん」


 なんとなく今後の話の展開が読めたのか、加藤さんは俺の話の続きを待ってくれた。もう言うしかない。


「できれば、これからも一緒に出掛けたいし、色々な思い出を作りたいんだ。もっと加藤さんのこと知りたい。俺、加藤さんのことが好きなんです。こんな俺だけど、どうか俺の彼女になってください!」


 なんとか言い切る。俺の顔は間違いなく赤かっただろうね。


 俺の告白を受けた加藤さんは――――。そりゃあ、もう今までに見たことがない嬉しそうな笑顔を浮かべて、頬を染めていた。


「嬉しい。田中くん、どうか私を彼女にしてください」


 これを聞いた俺がどんな気持ちだったか分かる? 今までにない高揚感に、俺は心だけじゃなく身体も震えそうだった。流石に身体が震えると不審者になるので、なんとか抑えたけど。


 OKを貰えた後の脳内シミュレーションをし忘れていた俺は、とりあえず頭を一度下げて「よろしくお願いします」と言った。だって、どうするのか知らないし! 告白初めてだし!


 加藤さんはそんな俺の様子に小さく笑い声を漏らすと、優しい声で「こちらこそよろしくお願いします」と言って頭を下げてくれた。


 その後、恥ずかしくて顔を合わせられないまま俺と加藤さんは電車に乗って、お互い無言のまま加藤さんが先に降りて行った。胸がいっぱいだった……。


 家に帰ってからずっと加藤さんとメッセージのやり取りは続いているし、昨日の夜は通話だってした。俺はたまらずすぐに岡田に連絡したよ。ああ、惚気てやった! 学校で直接惚気てやるから覚悟しろよ、岡田!


 というわけで、金曜日は人生で最良の日だったというわけ。気持ち伝えることができて、本当に良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ