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田中英夫の観察日記~病んでるイケメン友人とその日常~  作者: 柑橘眼鏡


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12 2冊目 p.3

6月24日(木)

 安田家のパワーが凄い。


 昨日、立花さんとジュースの話で盛り上がっていたと思ったら、安田氏はその場で親を通して自社のトラックを手配し、その日の夕方にはそのジュースが立花さんの家に届いたそうだ。「おはよう」というメッセージと共に、加藤さんが教えてくれた。


 報告をしないわけにはいかないので、渋々俺は岡田に報告した。嫌なことは早く済ませたいので、登校してすぐに言った。爽やかな朝をぶち壊す岡田の反応は思い出したくないね。一応、書くけどさ。


「そんなにそのジュースが好きなら俺に言ってくれればいいのに。俺だって、立花さんが満足するぐらいの量を用意することぐらい造作もないよ? どうして、俺に話してくれないんだろう。そんなにその男がいいの? 俺よりも? 幼い頃、ほんの一瞬だけ一緒の時期があっただけの、その男がそんなにいいの? 今、一緒にいる時間が一番長い俺よりも、そいつからもらったジュースがいいの? その男が用意してくれたという付加価値がいいわけ?」


 と、まあ、こんな感じ。疑問形の語尾だけど、誰にも問いかけていなかったね。


 岡田はお昼が終わっても授業が全部終わっても、感情が死んだ顔でぶつぶつ変なことを一日中言っていた。顔がいいから無表情でも様になるのが腹立たしいが、それ以上に俺はこんな態度の岡田に憤りが隠せなかった。


 このままじゃ明日もこんな調子が続く。そう思った俺は、帰りのホームルームが始まる前の僅かな時間で岡田のカウンセリングを行うことにした。


「樹、今日のお前はどうかしている。頼むから落ち着いてくれ。お前の目的は立花さんにネガティブな感情をぶつけることでも、例の男を貶めることでもないだろ!」


 俺の言葉に耳を貸した岡田は虚ろな瞳をこちらに向ける。いけると思った俺は話を続けた。


「お前の目的は、大好きな立花さんと温かで幸せな日々を過ごすことだろ! 目的だけを考えろよ! 確かに例の男は目的を成し遂げる上では邪魔な存在だ。でも、二人の仲を壊そうとするのは立花さんの印象を悪くする可能性があるから避けた方がいい。だから、二人が一緒にいる時間を減らせる穏便な方法を考えようよ。な?」


「二人の時間を減らす……」


 どうやら俺の言葉は響いたようで、ホームルームが終わる頃には岡田は落ち着いていた。顔色も良く、生気を取り戻していた。


 「……俺、少し考えるよ。今日は、もう帰る」


 そう言って俺を置いて去っていった。


 明日、会う頃にはいつも通りの岡田に戻っていると良いんだがなぁ。どうだろう。


 っと、思ったら、岡田からメッセージが届いていた。


「ありがとう」


 ……えっ? これだけ? なにこれ、怖い。




6月25日(金)

 おっかなびっくりで登校した俺を待っていたのは、いつも以上に爽やかな岡田だった。


「昨日はありがとう。3日で方を付けると聞いているから、月曜日には解決していると思う。ヒデの言葉が無かったら、前に進めなかったよ。本当にありがとう」


「お、おう……」


 あまりの爽やかさに俺は慄きながら返答するのが精一杯だったね。


 つーか、3日ってなんだよ。なんで安田問題が3日で終わるんだよ。聞いているっていうのもおかしい。


 岡田、お前は一体何を仕組んだんだ。


 念のため、さっき加藤さんに立花さんの様子を聞いたら、予想斜め上の返信が返ってきた。


「田中くん、最近遥のことばかり聞くね。気になってるの?」


 そんな思想を持っていたら俺は真っ先に岡田に殺される。過去一番の速さで違うと返信したら、こんな言葉が返ってきた。


「田中くんが遥のこと好きなのかと思っちゃった。よかった」


 よかった、ってなに。えっ、もう、俺、勘違いしちゃいそう。恋愛偏差値低い俺に、加藤さんの返信は難易度が高すぎる……。

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