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第10章―4

 さて、話、舞台は変わる。


 スカパ・フローに到着した日本海軍の遣欧艦隊の主力は「急いで待て」の精神から、訓練に勤しむ日々を送ることになっていた。

 そして、航空隊は、事実上の夜間飛行の慣熟訓練を多く行うことになっていた。


 何しろ高緯度地帯で、昼間の短い冬季に自分達は来ているのだ。

 日本海軍伝統の「月月火水木金金」の猛訓練が、夜が長いからといって緩む筈が無く、そうしたことから、夜間飛行の慣熟訓練を多く行う事態が起きていたのだ。


「夜戦は日本海軍のお家芸という言葉があるが、こんなところで訓練を行うとはな」

 2月5日、源田實少佐は、空母「赤城」の艦橋から、艦載機が発着訓練を行うと共に、艦爆や艦攻に至っては長距離飛行訓練を行うのを眺めながら呟くことになっていた。


 勿論、徐々に昼が長くなってはいる。

 だが、そうは言っても、ここスカパ・フローの緯度は大よそ北緯58度にある。

 そうしたことから、2月初め現在では、夜の方が圧倒的に長い日々を送ることになっている。


 そして、日本海軍の艦上機は、それなりどころではなく長い航続距離を誇る。

 その為に、一部の艦爆や艦攻はノルウェー領海ギリギリまで飛行訓練を行う事態が起きていたのだが。

 このことが結果的に、ある意味では、吉凶両方の事態をもたらした。


 ノルウェー領海ギリギリまでの飛行訓練を、日本海軍の艦爆や艦攻が行っていることは、ドイツからしてみれば、完全な挑発行為に他ならなかった。

 そうしたことが、日本海軍にそんな意図は無かったが、ノルウェーに侵攻するしかない、というドイツの決意を高めることになったのだ。


 だが、日本海軍のこの飛行訓練は、結果的に偵察行動にもなっていた。

 その為に、カテガット海峡等を通過したドイツ水上艦隊、言うまでもなくノルウェー侵攻の為に投入された部隊が何処に向かおうとしているのか、を結果的に速やかに日本海軍が把握する事態が起きた。


「何、ドイツ水上艦隊が大挙、出撃しただと」

「はっ、カテガット海峡等を続々とドイツ水上艦が通過しているとのことで、長距離飛行訓練を行っていた我が艦隊の艦攻も、その一部を発見しています」

「その目的は」

「英海軍上層部の予測としては、ここ暫くドイツ潜水艦隊の行動が低下していることを合わせ考えるならば、水上艦と潜水艦が連携して大規模な通商破壊戦を、北海から北大西洋で展開しようとしているのではないか、とのことです。その為に英の本国艦隊は、スカパ・フロー等から出撃するとのこと」

「我が艦隊に対する命令、依頼は」

「未だに出ていません。英海軍本部等に照会すべきでしょうか」


 2月5日午後、古賀峯一中将を司令長官とする遣欧艦隊司令部では議論を交わすことになった。

 古賀中将は、暫く考えた末に言った。

「見敵必戦が、我が海軍の伝統だ。英海軍本部には事後承諾になるが、我が遣欧艦隊主力は直ちに出撃、ドイツ水上艦隊を殲滅する。日本海海戦の栄光を北海で勝ち取るのだ」


「よろしいのですか」

 参謀長を務める鈴木義尾少将は、古賀中将を諫めるような態度を執った。

 鈴木少将にしてみれば、日英の友好関係維持の観点からしても、英海軍本部の了解を得た上で、遣欧艦隊は出撃すべきだった。


「英海軍本部の判断を仰いでいては、下手をすると半日は待機することになるぞ。その間に、この冬の長い夜を利用して、ドイツ水上艦が行方をくらます公算が高い。それを考えれば、直ちに出撃すべきだ」

 古賀中将は、やや強い口調で言った後で、更に付け加えた。


「わざわざドイツ海軍が外海に出てきたのだ、この好機を見過ごせるのか」

「確かに」

 鈴木参謀長他も、古賀中将の言葉に賛同し。

 遣欧艦隊主力は出撃することになった。

 少し補足説明をします。

 ドイツ水上艦ですが、海峡通航時には1隻、2隻でばらけて通航して、目的地近くで再集結しての行動予定を執っています。

 その為に、英海軍上層部は、ドイツ水上艦は分散して、通商破壊作戦を展開するつもりなのだ、と予測して、自らも分散行動する事態が生じましたが、日本海軍は、見敵必戦だ、と集中行動することに。

 普通に考えれば、英海軍の方が常識的行動なのですが、日本海軍は裏の裏をかくことになりました。


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