第9章―14
そうしたことから、ドイツのノルウェー侵攻という事態について、結果的に英仏日は、ほぼ後手に回ることになった。
英政府が主導した対ノルウェー謀略では、ノルウェーの領海内に機雷を敷設して、触雷事故が起きた段階で、日本海兵師団を主力として、ノルウェーの保障占領に乗り出すことになっていた。
だが、ドイツは英の様々な動きから、英の謀略を察することになり、先手を打って、ノルウェー侵攻を断行する事態が起きたのだ。
(更に言えば、この頃の英政府は、わざと対ノルウェーの謀略をドイツに垣間見せることで、ドイツを挑発し続けていた、と言っても過言では無かったのだ)
最も、英仏日各国政府や軍にしてみれば、その方が有難かった。
結果的に、自分達の手はキレイなままで、ノルウェー救援に動くことになったからである。
とはいえ、それはあくまでも結果論である。
だから、一部の者にしてみれば、極めて苦い事態が起きるのは当然のことだった。
「酷い話だ。ノルウェーの国民にとって」
皮肉なことに、第二次上海事変での奮闘を評価されて、第一海兵師団長に任命された大川内傳七少将は吐き捨てるように、自らの部下である第一海兵師団の主な士官を前にして吐き捨てるように言っていた。
その言葉を聞いた米内洋六少佐のみならず、その場にいた多くの士官が大川内少将の言葉に、無言で同意せざるを得なかった。
勿論、人のことは言えない立場なのは、重々承知しているが。
そうは言っても、ノルウェー政府、国民の意思を無視して行動しているとしか言えない、我が日本を始めとする英仏独等の各国政府の遣り口を垣間見る程に、大川内少将に同意せざるを得ない。
1940年1月末、内々の話として、第一海兵師団の主な士官が集められた場で、大川内少将は、英政府が音頭を取って、日仏政府、軍も了承した対ノルウェーの作戦というより、謀略について説明する事態が起きていたのだ。
更に言えば、大川内少将にしてみれば、それ程にこの謀略は、日本の武威を汚す代物だった。
「ノルウェー領海内に機雷をばら撒いて、触雷事故を引き起こすことで、ノルウェーの中立維持能力に疑問がある旨、国際社会に公表して、ドイツがノルウェーに侵攻すればヨシ、侵攻しなければ、ノルウェーには中立維持能力が無い以上、ドイツの侵攻から英仏日はノルウェーの独立を予め保障する必要がある、との声明を、英仏日三国政府の連名で出して、ノルウェーを保障占領するとはな。更に、その尖兵を我が海兵師団が務めるとは。余りにも有難くて、涙が出そうだ」
大川内少将は、余程、憤懣が溜まっているのだろう。
そこまで、吐き捨てるように言っていた。
その言葉に、その場にいる多くの海兵隊士官の面々も内心では賛同したが。
そうは言っても、軍人としての立場がある以上、日本政府の命令には逆らえない。
その場に居た士官の一人が、意を決して、大川内少将を諫めることになった。
「しかし、日本政府、つまり今上陛下からの命令です。従わざるを得ないでしょう」
「その通りだがな。我が海兵隊、海軍は、大御心に逆らう訳には行かない以上、従うしかない」
部下の言葉に、大川内少将は渋々と言った体ではあったが、其処まで言った。
「それでは、粛々と従って、ノルウェーを保障占領しましょう。そして、ノルウェーの国民を、ドイツの脅威から庇護しようではありませんか」
その部下は、其処まで言って、大川内少将を更に諫めた。
「確かにその通りだがな」
大川内少将はその言葉で矛を収めることになり、米内少佐らも、内心では色々と考えざるを得なかったが、命令に従って、表向きはノルウェー救援の為に、第一海兵師団は準備を調えることになった。
第9章の終わりで、次話からノルウェーを巡る戦いを描く第10章に入ります。
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