表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/355

第9章―5

 話がどうしても相前後してしまうが。


 こういった女性の補助部隊を陸海軍が編制することは、米内洋六少佐の家庭に、結果的にだが大騒動を引き起こすことになった。

 1940年の正月明け、小学校の冬休みが終わり、三学期が始まった直後の頃、藤子は養母の久子の言葉に唖然とするしかない状況に陥っていた。


 藤子にしてみれば、去年の11月初め、1939年11月初めに父の米内少佐が、欧州に赴く第一海兵師団の一員として欧州に赴き、更に12月1日から義兄にして許嫁の仁が、海軍兵学校に入学することになった。

 とはいえ、欧州に赴いた父はともかく、義兄は年末年始に短期間とはいえ、実家である我が家に帰省しており、心尽くしの一家だんらんを過ごせた、と自分は考えていたのだが。

 更なる事態が起きるとは、全く考えもしていなかった、と放心したい思いが自分はしていた。


 そんな自分、藤子の想いを完全に無視して、久子は言い放っていた。

「私は海軍の女性補助部隊に志願することにしました。藤子、米内家の銃後を護る嫁として、(異母)弟妹の面倒を見なさい。貴方も、そう覚悟していたでしょう」

「あのう、私は小学5年生で。来春に小学6年生になる身ですが(嫁になるには早過ぎますが)」

「散々、(私の息子の)仁の許嫁だ、と自分から言っていたでしょう。つまり、米内家の銃後を護る嫁になるつもりだったのでしょう。今更、自分の言葉は嘘だった、と言うの」

 母子は口喧嘩を始めることになった。


 藤子は考えた。

 継母、養母の久子の論理は無茶苦茶だ。

 それにしても、何故に養母が此処までのことを言うのか。

 

 其処まで考えを進めた結果、何となく養母の考えが分かって、藤子は呆れ返った。

 養母は、父とカテリーナの関係を勘繰る余り、現場でそれを阻止しようと欧州に行くつもりなのだ。

 子ども達を放り捨てて。


「母上」

 藤子は改まって真顔で言った。

「何」

「自分が産んだ子3人、早苗に正、松江を、本当に私一人で面倒をみられる、とお考えですか。早苗は小学2年生になりましたが、正は小学校に入るのは2年後、松江に至っては、ようやく1歳になって、乳離れをしたばかりですよ。そんな3人の弟妹を、小学校に通いながら、私が面倒を見るのは不可能なことではないでしょうか」

 藤子は、養母の久子を懸命に諫めた。


「貴方は数えの12歳。(江戸時代以前の)昔ならば、子どもを産んでもおかしくない年齢になっているのです。立派な大人ですよ」

 久子は、藤子を言いくるめようとしたが。

 流石に無理がある、と久子も考えていた。

 それ故に、別の手も久子は予め打っていた。


「それに貴方の実の母方祖父母が、早苗や正、松江の面倒を見ても良い、と快く言ってくれました。私が給与の殆どを子ども達の養育費として渡すと言ったので」

 久子の更なる言葉に、藤子は(内心で)ひっくり返った。


「流石は忘八」

 藤子は、血を分けた祖父母を(内心で、そう呟いて)思わず罵った。

 幾ら金、養育費を貰えるからと言って、4人の子の面倒を見るのを引き受けるな。


 とはいえ、藤子とて横須賀に越して来てから、祖父母と何度か会っており、祖父母の真情を察している身でもある。

 

 祖父母にしてみれば、自分を米内家が引き取ったことに負い目を感じている。

 何しろ末娘が勝手に暴走して、米内家に迷惑を掛けてしまったのだ。

 

 だから、(補助部隊の)軍人に志願するので、無縁とは言えない子どもの面倒を見て欲しい、それなりの養育費も払う、という久子の依頼をどうにも拒めなかったのだ。


 藤子は、そこまで考えを進めた末に。

 養母の言葉に従うと共に、父と兄に対し、このてん末をすぐに手紙で知らせることにした。

 父と兄は驚くことになるだろう。

 細かいことを言えば、藤子の母方祖父母の商売は、置屋で女郎屋では無い以上、藤子が「忘八」と祖父母を内心で呼ぶのはおかしいのですが。

 それくらい、藤子にしてみれば、意外な自分達の預け先で、呆れかえる事態だったのです。

 尚、何故に藤子達の父方祖父母等に、藤子達が預けられなかったのは、次話以降で描かれます。


(久子にしても、それなりにですが、藤子達のことを考えた行動なのです。

 と言っても、昨今では完全に児童虐待とされる事案ですが)


 ご感想等をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 (´⊙ω⊙`)手回し早くて外堀どころか内堀まで埋め立てられて大手門まで赤絨毯が添え付けられてるレベルに盤面を整えている久子さん、最早逃げ場無し!な藤子ちゃんを思うとなんともシドい(´□` )つーか藤…
赤十字看護婦には応招義務があり史実世界でも、乳飲み子を残して招集に応じた看護婦も数多おられたとか。 米内家、内実は兎も角、第三者から見れば、模範的な愛国家庭ですね。父は海軍将校として欧州へ出征、母は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ