第8章―8
そんなことを深く考えるともなしに、米内洋六少佐が淵田美津雄と源田實の会話を聞き流していると、二人の会話は、別の側面にまで徐々に飛んでいた。
「艦上機の更新は、どんな状況なのだ。鳴り物入りで開発されつつある新型艦上戦闘機(後の零式艦上戦闘機、尚、(この世界では)陸軍にも採用されて百式戦闘機「隼」と愛称が就くことになる)は、モノになりそうなのか」
「試作機段階だから、まだ、海のモノとも山のモノともいえない状況に近いが。要求は満たせそうだ。特に航続距離に関しては。(第二次)上海事変の際の(渡洋爆撃を行った)陸攻隊の悲劇は、二度と起こさせないと言えるだろう」
「そうか、それは楽しみだな。早く制式採用されてほしいものだ」
「艦上攻撃機は、どんな様子なのだ」
「中島製か、三菱製か、色々とあったようだが。裏事情があるので、詳細は言えない。97式3号艦上攻撃機として、中島製の改良型が制式採用されたことから、それなりに察してくれ」
「分かった。それにしても、艦上爆撃機だが、500キロ爆弾の急降下爆撃は、99式艦上爆撃機では、やはり無理なのか」
「地獄への突撃を、全搭乗員に行わせたいならば可能だが」
源田少佐の言葉に、酔いが回っていたせいも相まって、目を据わらせて淵田少佐は言葉を続けた。
「貴様はそうしろ、と言うのか」
淵田少佐の言葉が、気持ち大きかったこともあって、源田少佐や米内少佐のみならず、その声が聞こえた面々の殆どが、淵田少佐の内心を察した。
確かに無理をすれば、99式艦上爆撃機に500キロ爆弾を搭載して、急降下爆撃を行うことは不可能ではないだろう。
(その代償として、燃料の搭載量を削る等して、航続距離が大幅に短くなるだろうが)
だが、実際にそんなことをすれば、急降下爆撃からの引き起こしが極めて困難で、それこそ搭乗員に対し、生還を期さない攻撃を行なわせる事態を引き起こす、と言って良いのだ。
戦場である以上、それこそ搭乗員の命を賭した攻撃が行われるのは止むを得ないが、だからと言って、全ての搭乗員が死ぬことを前提とした攻撃等、色々な意味で赦される筈が無い。
そう淵田少佐は言いたいのだ、とその声が聞こえた面々の殆どが考えたのだ。
そして、それを最も痛感したのが、源田少佐だった。
「済まないことを言った」
手短にそれだけ言って、源田少佐は淵田少佐に頭を下げた。
「こちらもきつく言い過ぎたようだ」
阿吽の呼吸で、淵田少佐も源田少佐に対して、頭を下げて言ったことから、その場の空気がそれなりに緩んだが。
とはいえ、このやり取りは、その場に集っている面々の間で、色々と考えざるを得ない事態だった。
艦上機の更新は、二人のやり取りの通りと言って良く、それなりに進捗しつつあるが、そうは言っても、という事態を引き起こしている。
水上機の開発は縮小され、陸上機については、出来る限りは陸軍と共同開発で、と言う状況にある。
そして、現状ではどうにもならない、といって良い。
だから、航空関係者の間では、陸海軍共に微妙に鬱屈が溜まっているのだ。
更に言えば、機体のみならず、搭乗員確保の面からも、陸海軍上層部は共に頭を痛めつつある。
だからこそ、源田少佐が人命軽視とも採れる言葉を発したのに、淵田少佐が過敏に反応したのだ。
本当に欧州で大戦が勃発した場合、長期戦を覚悟せねばならない。
更に、その現場に日本から大量の人員を派遣することを考えざるを得ない。
そして、単純な徒歩歩兵ならばまだしも、軍用機の搭乗員を日本が派遣するとなると、それなりどころではない教育を施すことが、必要不可欠といって良い。
米内少佐は、本当に厄介なことだ、と考えざるを得なかった。
表面上は軍用機の共用等、(この世界の)日本陸海軍の連携は上手く行っていますが、一皮むけば、これまでの様々な行きがかり等から、陸海軍内で不満を持つ者が稀ではないのが現実なのです。
そういったことが、この話の背景にあります。
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