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第6章―11

 少し幕間的な話になります。

 実際にカテリーナ・メンデスは、アシュケナージ系に色々と考えるところがあるのだろう。

 米内洋六少佐に対して、黒い話をしたことがある程だった。


「私はアシュケナージ系が、本当にユダヤ人なのか。具体的に言えば、ローマ帝国のエルサレム攻略等によって、パレスチナの地から追放されたユダヤ人の末裔なのか。疑念を覚えてなりません」

「そうなのか」

「ええ。アシュケナージ系は、私達セファルディム系にしてみれば、余りにも疑念を覚えてならない存在なのです。彼らなりの話が伝えられていますが、それが本当なのか。ユダヤ人はユダヤ教を信じる人の集まりと言うのが、本来の定義ですが。ユダヤ教に改宗するには、それなり以上の知識等が必要不可欠で、それを学ぶのも、一方ならぬ努力が必要なのです。現在のアシュケナージ系ユダヤ人は余りにも多すぎて、パレスチナから逃れたユダヤ人以外が、かなり混じっていて。更に言えば、私達からすれば、容易にユダヤ教への改宗を認めて来たのではないか、と疑われてなりません。ハザールの件もありますし」

 かつて、カテリーナは米内少佐に、そんなことを言った。


「ハザールの件か」

「ええ。御存知ないかもしれませんが、カフカス山脈の辺りにあった国です。イスラム教の国の侵出と戦い、又、キリスト教とも距離を置いていた関係から、元を糺せば(トルコ系の)現地の遊牧民族が作った国で異教を信じていましたが、国民の多くがユダヤ教に改宗することで、独自性を保つことにしたとか。もっともイスラム教の国に結局は滅ぼされたようですが」

「アシュケナージ系の多くが、その末裔だとでも言うのか」

「いえ、そこまでは言いません。アシュケナージ系の話すイディシュ語は、明らかにドイツ系の言語ですから、ドイツから中東欧へと広まったという、彼らの主張は、それなりに正しいのでしょう。でも、余りにも増え過ぎています。そうしたことからすれば、容易にユダヤ教への改宗を認めることで、自分達の数を増やしてきたのではないか、と私は疑わざるを得ないのです」

 米内少佐の問いかけに、カテリーナは、そこまでのことを言った。


「でも、ユダヤ人は欧州全体で差別されていたのだろう。差別される宗教に、わざわざ改宗するのか」

「そんなことを言い出したら、キリスト教もイスラム教も、かつては支配者層から差別され、弾圧までされた宗教ですよ。そこから世界宗教にまでなったのです。違いますか」

「確かにその通りだが」

「アシュケナージ系が多くいる中東欧の広い地域を、かつてはポーランド=リトアニア共和国が治めていました。そこでは、多くのユダヤ人が、貴族と農民の間を仲介して、管理人のような業務をやっていたとか。こういう仕事は儲かる一方、貴族の手先等として、農民から恨まれるものですよ。でも、富裕である以上、其処にあこがれて、自分が成ろうとする者が出るのも、よくあることでは」

「成程な」

 カテリーナは、流石にこれ以上の事を言っては、アシュケナージ系に対する悪口が過ぎる、と自制したのだろう、米内少佐が合いの手を入れた後は、露骨に話を変えたが。


 米内少佐は、そのことを思い起こして、考えざるを得なかった。

 現在、ドイツやその周辺諸国で蔓延るユダヤ人差別の背景には、宗教差別と共に歴史的な身分等からの差別もあるのか。

 そして、ユダヤ人同士も必ずしも仲が良いとは言えないとは、何とも言えないことだ。


 満洲の地にユダヤ資本が投下されて、それによって、満州が順調に発展して、そこでユダヤ人が多く雇われることがあっても、カテリーナは赴きたがらないだろう。

 彼女の安住の地というか、ユダヤ人の安住の地は、何処にあるのだろうか。

 この辺りの話ですが、16世紀初頭のポーランド=リトアニア共和国内のアシュケナージ系ユダヤ人は1万人から3万人だったのが、17世紀半ばには20万人から50万人に、18世紀半ばには約75万人まで激増しているという背景があります。

 人口の自然増の結果とのことですが、カテリーナのように疑いたくなる人がいるのも当然の気が。


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