第6章―5
堀悌吉中将としては、米内光政大将の返答に、どうにも不安を覚えた。
自分の知っている情報が誤っているかもしれないが、自分が把握している情報に従えば、中国国民党軍は、ドイツ軍の協力によって、それなりどころではない強化がされているのだ。
それなのに、陸軍の協力無くして、海軍だけで香港防衛等が果たせるだろうか。
そんな堀中将の不安を察したかのように、米内大将は半ば独り言を言いだした。
「ともかく、これ以上のドイツ軍と中国国民党軍の暴挙を看過できない、というのが、日英両国政府の考えなのだ。その一方で、日本陸軍の改革も、色々な意味で急務なのだ。そんなことから、日本海軍に常設の海兵隊を設置することで、香港防衛等を果たそうと考えることになったのだ」
「そういうことですか」
堀中将は、そう返答しながら、何とも言えない想いがしてならなかった。
実際問題として、海軍(及び海兵隊)を外国に派遣するだけならば、そんなに大きな国際、軍事問題にならないのが今の世界の現実なのだ。
だが、陸軍を外国に派遣するとなると、それなりどころではない国際、軍事問題になる現実がある。
そうしたことから、日本政府は、海兵隊を常設化して、いざと言う際に外国、具体的には香港等に派遣することで、国際、軍事問題の発生を少しでも防ごうと考えているのだ。
確かに合理的な考え、と自分も考えなくもないのだが。
米内大将は、どれ程の規模の海兵隊を常設化しようと考えているのだろうか。
堀中将は、其処まで自らの考えを進めた末に、米内大将に面と向かって尋ねることにした。
「ちなみに、どれ程の海兵隊を常設化されるおつもりですか」
「横須賀、呉、佐世保、舞鶴の各鎮守府に3個海兵大隊を基幹とする鎮守府海兵隊を常設化する。いざという際には1個海兵師団を編制できるように、戦時には4個海兵師団にまで拡充できるようにな。最も4個海兵師団にまで拡充できるようになるのは、それこそ10年先だろうが」
米内大将は淡々と答えて、堀中将は呆然とせざるを得なかった。
実際、そこまで海兵隊を常設化して、拡大する必要があるのか、と批判されて当然のことだが。
だが、最近、終結した日中戦争の経緯を考える程、日本の海軍特別陸戦隊ではなかった、海兵隊を拡充する必要が無い、といえるのか、と批判されれば、いえ、拡充の必要性は否定できません。
というしかないのが、昨今の日中等の関係なのだ。
それからすれば、米内大将が海兵隊を其処までの規模に拡充しよう、と考えるのも当然か。
だが、其処までの海兵隊を建設しようとすれば、それなりどころではない影響が、周辺に予算等から生じるのも当然のことなのだ。
だからこそ、自分が現役復帰することになった、という次第か。
堀中将は、頭が良すぎることもあって、そこまで突き詰めて考えざるを得なかった。
そんな堀中将の考えを、何処まで察したのか。
米内大将は、更に独り言を呟いた。
「ともかく、色々な意味で、我が(日本)海軍の改革は急務なのだ。龍驤を失ったことで、痛感させられたが、「闇夜の提灯」と批判されようと、レーダー、電波探信儀の開発が必要不可欠なのが分かった。他にも、英国から様々な指導を受けて、多くの改革が急務なのを、痛感させられたよ。海相として、色々と周囲から恨まれるだろうが、周囲の反発を跳ね返して、改革を君には推進して欲しい」
「分かりました。何処まで出来るのか、分かりませんが、自分の出来る限りのことをやりましょう」
堀中将は、無自覚の内に敬礼しつつ、米内大将の言葉に寄り添った答えを発した。
実際問題として、米内大将の独り言は正しいことを言っていた。
堀中将は奮闘することを決意した。
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