第6章―4
そんなことが関東軍ではあった結果、二・二六事件後に陸軍次官として、陸軍省や参謀本部の粛軍に辣腕を振るった梅津美治郎中将が、関東軍司令官に任命されて関東軍内部の粛軍に当たることになった。
(尚、日中戦争時に関東軍司令官を務めていた植田謙吉大将は、東條英機参謀長の暴走を止めなかった監督責任を問われ、日中戦争終結後に予備役編入処分を受けた。
本来から言えば、東條参謀長と同様に軍法会議に掛けられてもおかしくなかったが、自発的に陸軍からの辞表を出したことから、罪一等(?)が減じられたのだ)
そして、陸軍大臣には畑俊六大将が就任することになり、海軍大臣には米内光政大将や岡田啓介元首相等の奔走から、「天皇の特旨」によって、堀悌吉中将が現役復帰して就任することになった。
尚、この海相人事だが、伏見宮軍令部総長等の旧艦隊派から、公然と不平不満が出た。
堀中将は、言うまでも無いことかもしれないが、条約派の一員といって良い立場にあったからである。
だが、日中戦争に伴う日本陸海軍の大規模な改革は必要不可欠で、米内首相が見るところ、それが行える海相は、堀中将しかいない、といって良く、伏見宮軍令部総長らも、それを否定できなかったのだ。
実際、堀中将は海相就任前の米内大将との面談の際に、肝を潰さざるを得ない事態に見舞われた。
「大和型戦艦2隻の建造停止ですか」
「ああ、それによって海軍の改革費を捻出する」
「しかし、伏見宮軍令部総長等が、それを呑みますか」
「龍驤が失われた以上、我が国単独で対米戦を遂行するのは無理だ。それに」
堀中将に、米内大将は悪い笑みを浮かべながら、ささやくように続けて言った。
「英国政府から日英同盟を復活させようとする動きがある。もし、日英同盟が復活したらどうなる」
「それは」
さしもの頭脳明晰を以てなる堀中将といえど絶句した。
日英対米ならば、それこそ米国海軍の方が7割以下の劣勢になってしまう。
だからこそ、ワシントン会議の際に、米国は日英同盟破棄を強硬に主張し、日英もそれを受け入れたのだが、今になって復活させる動きがあるとは。
堀中将も思わずささやくように、米内大将に問わざるを得なかった。
「何故に英国政府がそのような動きを」
「言うまでもない。中国国民党政府の動きが、きな臭すぎるからだ。蒋介石等は懸命に押し止めようとしているが、中国国民党政府内の一部からは、香港の即時奪還、中国国内の租界全廃を訴える過激派の声が高まっている。更にはチベット等を経由して、インドの不安定化を策する動きまでが、中国国民党政府内ではあるようだ。だが、英国政府としては、それこそ本国、欧州でドイツの強大化がある以上、アジアに戦力を向ける余裕は無いのだ。米国政府に英国政府が当初は協力を求めたが、けんもほろろな態度だったとか。何しろ米国民の多くが、世界大恐慌の余波等から内向きになっていて、英国の香港等、中国国民党政府に即時返還すべき、と叫ぶ有様らしいからな。米国政府としては、米国民の世論を無視できない訳だ。だから、英国政府は、我が日本に協力を求めてきた次第だ。更に言えば、仏国政府からも似たような動きが起きてもいる」
米内大将は、やや長い説明をした。
「確かに日中戦争で大敗した我が国にとって、英仏両国政府との協力は極めて有難い話ですが、それなり以上のこと、見返りを求められるのではないですか」
「ああ、いざという際には、日本から香港防衛の為の部隊の派遣等が求められているが、我が陸軍は、日中戦争で大損害を被っていて、その補充等で手一杯だ。それ故に、我が海軍が香港防衛等に当たらざるを得ない」
堀中将と米内大将は、やりとりをした。
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