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第6章―2

 さて、この際に米内光政海軍大将と、岡田啓介元首相の裏の考えを明かすならば。


 今後、現役の軍人が首相に成ることで、軍部が政治に関与するのを阻止しよう、という意図があった。

 更に言えば、それなりの大義名分もあった。


「首相は純行政にあたる者であり、現役軍人が首相では統帥権干犯に当たる、と私は考えますので、予備役になった上で、首相を拝命いたします」

「それは良きことだ」

 軍部の暴走を懸念していた元老の西園寺公望元首相の示唆もあって、米内大将は、そのように今上(昭和天皇)陛下に上奏し、それを嘉納する「御言葉」を今上陛下は発した上で、米内大将は組閣することになった。

 更に、そのやり取りは内々に政府や陸海軍最上層部に流された。


 このやり取りは、二・二六事件を引き起こしたことや日中戦争で大敗していた陸軍最上層部にしてみれば、完全に追い討ちを掛けることになった。


 唯でさえ、日中戦争の大敗で、国民に対する陸軍の威信は下落している。

 こうした中で、統帥権干犯を重視する、という大義名分から、米内大将が予備役編入の上で首相に就任し、それを今上陛下が嘉納しては、今後、陸軍が首相を出そうとするならば、その首相候補は現役を退いて、予備役になるしかないのだ。


 更に言えば、陸軍が押し込んだと言える軍部大臣現役武官制が、こうなると祟ってくる。

 陸軍の将官にしてみれば、陸相から首相を目指そうとすれば、自らを予備役に編入する必要がある。

 そして、予備役に編入されれば、これまでの慣例から「天皇の特旨」が必要とされている。


 そういった諸々の事を考えれば、首相兼陸相は最早、不可能と言うことになるし、陸軍が首相を出そうとすれば、その人物を予備役編入処分にした上で、ということになる。

 更に言えば、一般に予備役編入処分は不名誉なこと、とされてきている。

 だから、余程の人物でないと、現役の陸軍将官が首相を受けなくなるのは自明の理になるのだ。


「これは、どうにもならん」

「唯でさえ、日中戦争の敗北等から、我が陸軍の威信は落ちているのに。こんなことをされては、現役の将官ですが、このまま是非とも首相に等と自分達が主張をしては、陛下の思し召しに叛くのか、と叩かれかねないことになるぞ」

 陸軍の主な幹部は、この米内新首相と今上陛下のある意味では猿芝居に肩を落とすしか無かった。


「それにしても、関東軍の暴走が此処まで祟るとは」

「石原莞爾少将を恨むべきか否か」

「だが、今回の件に関しては、東條英機中将が悪い気が」

「そうだ、東條中将が悪い」

 そして、陸軍最上層部の怨嗟は、東條中将に(この世界では)向かうことになった。


 さて、その(様々な)背景だが。

(この世界の)東條中将にしてみれば、それこそ何故にこうなった、と嘆くしか無かった。

 東條中将にしてみれば冤罪にも程がある事態が起きていた。


 東條中将は、(この世界でも)1935年9月21日に、関東憲兵隊司令官兼関東局警務部長に就任しており、更に二・二六事件後にいわゆる赤化将校の摘発に努めた功績を買われて、1937年3月1日に関東軍参謀長に就任していた。


 更に盧溝橋事件勃発を受けてチャハル作戦を東條中将は立案し、チャハル作戦に従事する兵団を、「東條兵団」と呼称した上で指揮までして、強引に遂行したのだ。

 その結果だが、1937年10月に包頭等まで「東條兵団」は占領することに成功し、大勝利を収めたと喧伝したが。


 その一方で、(既述だが)上海方面では日本陸軍は大敗を喫していたのだ。

 更にチャハル作戦を中止して徐州方面に向かい、上海方面の陸軍を間接的に救え、との参謀本部命令を東條中将が公然と無視したことが、この後の事態につながった。

 御都合主義と言われそうですが、米内光政の予備役編入と、東条英機のチャハル作戦は、史実でも似たようなことがあったので、この際に使わせて貰いました。


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