第5章―5
結果的にだが、米内洋六少佐とカテリーナ・メンデスの話は、ユダヤ人の歴史等について、小一時間も続くことになり、まだお互いに話し足りない、と考えつつも、それこそ夕闇が迫る時刻になったことから、米内少佐の方から、
「又、後日、話し合おう」
「そうですね」
とやり取りをして、一旦は別れる事態になった。
そして、米内少佐は、養子の仁に対して、カテリーナが交際を拒む以上、付きまとい等の誤解を生むようなこと、具体的にはカテリーナが働いているカフェを再々、訪問するようなことは絶対に止めるように訓戒して、仁も(内心では不服だったが)これまでのカテリーナの態度から、カテリーナへの求愛を諦めざるを得ない、と渋々考えていたことから、一旦はこの件は一段落したのだが。
結果的に、米内少佐とカテリーナは、人目を忍びながら逢うような仲になっていた。
とはいえ、カテリーナの内心はともかく、傍から見る限りは、いわゆる清い交際であり、ユダヤ人と一括りにされがちだが、その内情は細かく分かれている(アシュケナージ、セファルディムと大別されがちだが、その内実を細かに見ていくと、本当に様々な差異があるのだ)ことやユダヤ人の歴史を、カテリーナが、米内少佐に教示するために、折を見て会っているだけだったが。
見る人が見れば、誤解が生じるのは当然のこととしか言いようが無かった。
そんなことから、1月余り後に米内少佐の妻の久子は、夫に対して面と向かって言うまでになった。
「貴方、カテリーナさんと会っているのは本当なの」
「ああ、だが、やましい交際をしている訳では無いぞ。あくまでも、カテリーナに、ユダヤ人の歴史等について、色々と教えてもらっているだけだ」
「そうでしょうね。貴方は妻が妊娠中に浮気をするような人では無い、と私は信じてますから」
「棘のある言い方をするなあ」
米内少佐は、久子を懸命に宥めることになった。
(現実でもよくあることらしいが)戦場から帰って来た復員兵達は、改めて妻子との仲を深めようとするのが当たり前で、そんなことから、米内少佐の妻の久子が妊娠する事態が起きていたのだ。
更に言えば、1900年生まれの久子は、(この当時では高齢出産と言われても、当然の年齢に達した身で)出産の際に生じる様々な危険を痛感せざるを得ない身であった。
そんなことから、妊娠中で気が立っていることもあり、久子は夫を責める事態が起きていた。
そして、米内少佐としても、カテリーナの想いをそれなりに察してはいるが、それに応えるつもりはない状況に今はあった。
「ともかく、決して表立っては言えないが、遠縁になる米内首相からも、少しでも日本国内のユダヤ人問題の解決を図るように、との内命が自分には出ているのだ。お前が不安になるのは分かるが、そんなつもりはないから、分かってくれないか」
「そうなのですか」
夫婦はやり取りをした。
尚、これは全くの噓ではない。
細かく言えば前後してしまうが、「横須賀ゲットー」問題等の早期解決の為に、新しく首相に就任した米内光政海軍大将から、そのような指示、ユダヤ人の内情等を探り、日本本国内のユダヤ人問題解決を図るようにとの指示が、政府や軍内部に下されている。
米内少佐には、身内ということ等から、直に米内首相から話があった程だ。
米内少佐は、自分の説得を、妻が受け入れつつあることに安堵しつつ、色々と考えた。
日本陸海軍の大改革を、米内首相は進めているが、それは何処まで順調に進むだろうか。
ヒトラー総統率いるドイツ政府は、欧州で瀬戸際外交を推進しているが、本当に戦争に成らずに済むのか、自分は不安でしょうがない。
そして、日本も巻き込まれる気がする。
これで第5章を終えて、次話から第6章になり、日本陸海軍の大改革が描かれることになります。
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